CF療法、DCF療法、化学放射線療法…… 術前化学療法の効果を活用し、食道がんのよりよい治療選択を

監修●井垣弘康 国立がん研究センター中央病院食道外科外来・病棟医長
取材・文●伊波達也
発行:2013年9月
更新:2019年9月

術前化学療法の後に化学放射線療法も

■写真4 胸腔鏡下手術の術創胸腔鏡下手術直後の創部。腹部に数カ所、胸部に4~5カ所の小さな穴を空けて行う。傷が小さいので、術後の痛みが少ない

『JCOG9907試験』では、Ⅱ、Ⅲ期であっても食道がんのT3(外膜まで浸潤)と胸部の下部食道がんは術前化学療法をやっても予後は変わらないという結果もわかった。これらの症例をどのように治療していくかも検討が必要だ。

「当院では、術前化学療法で効果がなかった人に対して、術後の化学療法は行わない方針です。治療の上乗せ効果に疑問があり、副作用によって患者さんにつらい思いをさせるのはよくないからです」

同院では、術前化学療法後の治療としては、手術ではなく、化学放射線療法を実施するケースも手術とほぼ同等の症例数がある。この5年ほどは、井垣さんを中心に、胸腔鏡下手術にも積極的に取り組んでいる(写真4)。 「ご高齢の患者さんや他の病気の合併症をもつような患者さんは、できるだけ侵襲を小さくして治療できるように努めています」

結果を期待したい『JCOG1109試験』

■図5 化学療法と化学放射線療法の新たな臨床試験(JCOG1109)

術前化学療法を通じて根治をめざす治療の根拠を明らかにするとして期待されるのが、現在、井垣さんが研究代表者を務める、『JCOG1109』という新たな治験だ。

これは標準治療であるCF療法と、CF療法にタキソテールを加えたDCF療法と、CF療法に放射線療法を加えた化学放射線療法の3つを比較する試験だ(図5)。被験者の登録完了まであと5年ほどを要し、その後の追跡にはさらに約5年かかるため、結果が明らかになるまでには、10年ほど後になる。

「私たちの予測では、遠隔再発を減らすには、3剤併用のDCF療法がいいだろうと考えています。同じ扁平上皮がんである頭頸部がん領域での試験では、DCF療法がCF療法よりも有効でした。局所再発をコントロールするには、放射線療法を加えるのが効果的なのではないかと思っています」

進行中の試験なので、治療効果がどの程度上乗せになるのかどうかは、今の時点ではなんとも言えない。とはいえ、実際には、現在も症例に応じて、DCF療法や化学放射線療法は実施されている。たとえば、患者の体調を考慮しつつ、腫瘍量が多い症例には3剤併用療法を実施し、食道の狭窄がある場合には、化学放射線療法を行っている。

「登録できる年齢は、20歳以上75歳以下なので、76歳以上の人は試験に入れませんが、80歳未満であれば、試験と同じ治療を個々の病状に応じて行います。治る可能性のある人をきちんとすくい上げて治療することが大切です」

さまざまな薬物療法の選択肢を模索中

『JCOG1109試験』以外にも、現在、さまざまな模索がなされている。

国立がん研究センター東病院や北里大学病院などいくつかの施設では、DCF3剤の術前化学療法後に、手術ではなく化学放射線療法を実施する、比較群なしの単独第Ⅱ相試験を実施している。

今後の課題は、DCF療法が効かない症例には、遺伝子の観点から検証するなどして、どんな治療が適切かを検討することだ。

現在、食道がんの術前化学療法において効果が期待できそうな薬としては、胃がんや膵臓がんなどで効果のあるTS-1がある。

「扁平上皮がんには5-FU系の薬は効くのでTS-1の効果は期待できるのですが、現在のところ使えないのです」

医師主導治験を試みられたものの、登録数が少なかったため治験が終了できず、保険承認されていないためだ。

プラチナ系では、シスプラチンよりも副作用が弱いパラプラチンも期待できそうだという。食道がんでは使えないが、頭頸部がんではパラプラチンとタキソールの併用が保険承認されている。

「分子標的薬では、アービタックスの効果が期待できそうですが、食道がんは患者さんの人口が少ないため、承認までの道のりが険しいという現状があります」

TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム パラプラチン=一般名カルボプラチン タキソール=一般名パクリタキセル アービタックス=一般名セツキシマブ

さまざまな治療選択肢をもつ病院で治療すべき

そのようななかでも、「可能性のあるさまざまな治療法を模索すべきだ」と話す井垣さんが、患者さんへのアドバイスをくれた。

「食道がんの治療は、地域、施設によって治療にばらつきがあるのも事実ですので、標準治療について、そして、受診する施設ではどのような治療を行っているのかを調べたり、直接、医師より説明を受けてから治療を決めることが大切です。

ごく早期であれば、内視鏡による治療、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)によって食道を切らずに治療できる場合もあります。もしそれによって取り残しや再発が起こっても、手術ではなく化学放射線療法が適応できる場合もあります。さまざまな治療の選択肢をもっていて、チームで治療にあたっている施設を選ぶといいでしょう。さらに、術前化学療法を受けるのであれば、腫瘍内科医がいる施設で治療を受けることをおすすめします」

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