食道粘膜炎、皮膚炎は軽減できる。気になる症状は病院で相談を 放射線治療の副作用を理解して、つらい時期を乗り切ろう

監修●西村美穂 兵庫県立がんセンターがん放射線療法看護認定看護師
取材・文●植田博美
発行:2013年9月
更新:2020年3月

放射線皮膚炎には刺激を与えない

■図3 放射線皮膚炎のケア用品ガーゼ代わりに使える「エスアイエイド」は、皮膚や創傷面への刺激が少ないシリコン素材。同じくシリコン粘着剤を使用したロールフィルム「ジェントルロール」は、傷ができる前の予防としても使える。チューブ入りの軟膏は「アズノール」

食道がんの放射線治療は外部照射法のため、必ず皮膚を通過する。その部位の皮膚が日焼け後のように赤くなり、乾燥、かゆみ、痛み、びらんなどの症状が現れるのが放射線皮膚炎だ。

「キュウリを切ってそのまま放置すると、切り口の水分が蒸発して乾いてしまいますね。照射を受けている皮膚は、それと同じ状態です。でも、切り口をラップで覆えば潤いはある程度維持できます」

照射で失われる表皮の水分の代わりに、軟膏や医療用のシリコン素材の被覆材等を使って、乾燥や感染を予防する(図3)。

「軟膏をつける際は、皮膚を引き伸ばすような塗り方を避けること。押さえるように塗るか、ラップに軟膏を塗ったものを患部に貼るなどして、皮膚をこすらないように気をつけましょう。クリームやローションは、成分による刺激で痛みが生じる場合があるのでおすすめしません。症状に応じて軟膏の種類にも変更が必要なので、医師に相談してください」

このように、西村さんはアドバイスする。

■図4 皮膚洗浄剤スプレーして流すだけの洗浄剤「セキューラCL」。アロエベラ配合で皮膚にうるおいを与える

また、頸部が照射野に含まれると、衣類やネックレスによる刺激で傷ついた皮膚がこすれ、皮膚炎を悪化させる場合がある。襟付パジャマやアクセサリーは避け、糊がけも控える。皮膚を洗うときの摩擦でさえも避けたい場合もある。そのようなときは、皮膚洗浄剤(図4)を使うといい。

「大切なのは、照射されている部位がどこなのか理解し、そこに『刺激を与えないこと』、『日々観察すること』です。とくに背中の皮膚炎は観察しにくいので、医療従事者や家族に見てもらいましょう」

飲み込みが鈍っ��誤嚥を起こすことも

通常、食べ物が食道を通る際は、間違って気管に流れ込まないよう、喉頭蓋によって気管がふさがれる。しかし放射線が喉頭に照射されると、粘膜炎を生じ、この働きが鈍る。それにより、食べ物が逆流し誤嚥しやすくなる。

「食事や水分が摂取しにくい場合は、口腔内の唾液分泌量も低下し、口腔内細菌が増殖します。そのような唾液が気管に流入すると誤嚥性肺炎のリスクとなる。それらを予防するため、歯磨きやうがいはきちんと行いましょう」

治療後の副作用は年単位での観察を

放射線治療が終わって数カ月後に5~10%の割合で発現する副作用には、放射線肺炎、食道潰瘍、食道狭窄、心膜炎などがある。特に広範囲に照射する場合、心肺の合併症が生じるとされる。

「放射線肺炎は治療後2~6カ月後に、空咳、発熱、息苦しさなどの症状が出ます。症状が出たら、治療した病院に受診します。放射線治療後は、年単位で副作用を観察していく必要があります。早期に発見するためにも、定期診察は必ず受けること、自分に出現する可能性のある症状を理解することが大切です」

気になる症状は相談してください

食道がんの患者さんにとって何よりつらいのは、「胃は元気で空腹を覚えるのに、食べられない」という状況だ。

「放射線治療では、2カ月弱の長期間にわたる、多くのつらい症状を伴います。治療後半に副作用症状が増強するために、『治療効果が得られていないのでは』『がんが悪化しているかも』と捉え、悩む患者さんも少なくありません。そんな患者さんに対するサポートには、医療従事者はもちろんのこと、ご家族の理解も不可欠です。その橋渡し役をするのが、私たち看護師の務めだと思っています。少しでも気がかりな症状があれば、どんどん相談していただければと思います」

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