副作用対策や栄養サポートをしっかり行うことが肝心 食道を温存する化学放射線療法最新知見

監修:小柳和夫 川崎市立川崎病院外科担当部長
取材・文:池内加寿子
発行:2012年6月
更新:2013年4月

副作用には要注意

では、具体的に化学放射線療法ではどのような抗がん剤が使われるのだろうか?

「5-FU()とシスプラチン()の2剤を併用するFP療法が標準となっています。5-FUは5日間連続で24時間持続静注、シスプラチンは3~4週間に1回。これを1クールとして2クール繰り返します。なお、現在、シスプラチンと5-FUにタキソテール()を加えた3剤併用療法の臨床試験が進行中です」

放射線照射は、正常組織への被曝を極力減らすため、がんの形状に合わせて立体的に照射する多門照射(3次元照射)が行われるのが一般的だという。

「当院では1日1.8~2グレイずつ週5日間照射して、土日は休み、5~6週間かけて総線量50~60グレイを照射しています。照射方法や総線量は施設によっても異なります」

化学放射線療法では食道を温存できるのがメリットとはいえ、放射線照射と化学療法が同時に行われるため、それぞれの副作用が重なり、かなりつらい治療になるという。

「副作用対策や栄養管理の面から、1~2カ月入院して、体調管理をしながら行うことが必要です」

化学療法の副作用として注意しなければならないのは、吐き気や嘔吐、下痢などの消化器症状、骨髄抑制による白血球減少や血小板減少、腎機能障害など。放射線照射の早期の副作用としては、皮膚炎、食道炎、急性肺炎などがみられる。さらに、照射後数カ月以降の晩期障害として、食道穿孔、出血、食道潰瘍、椎骨圧迫骨折などが起こることが稀にあるという(図4)。

「とくに最近問題となっているのが、化学放射線療法後2~5年たってから起こる間質性肺炎、胸水貯留、心嚢液の貯留など難治性の晩期障害です。対症療法もだんだんに効果がなくなり、進行すると死に至るケースも出てきます。こうした重症例は少ないとはいえ、化学放射線療法は全体として厳しい治療法ですから、75歳以上の方や心機能、腎機能が落ちている方などは個々に検討することが重要です」

5-FU=一般名フルオロウラシル
シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ
タキソテール=一般名ドセタキセル

治療をアシストする栄養管理

[図5 空腸ろうとは?]
図5 空腸ろうとは?

小腸の一部である空腸に外部から栄養剤を投与できる装置を造り、経口摂取 の難しい患者さんの栄養状態をサポートする

  [図6 化学放射線治療でのがんの縮小]

図6 化学放射線治療でのがんの縮小

4a期の患者さんに対し、化学療法を4コースと、総線量50グレイの放射線治療を実施。がんの縮小が確認できたため、サルベージ手術が行われた

化学放射線療法は副作用の大きい治療であるが、軽減するためにさまざまな工夫もされているという。

「吐き気や嘔吐には各種の制吐剤の併用、腎毒性を防ぐためには大量輸液、骨髄抑制には、白血球を増やすG-CS()F製剤の投与などを行い、極力患者さんの苦痛を減らす工夫と努力が重ねられています。大量輸液により心臓への負担がかかることなどにも配慮が必要です。また、治療前から食道狭窄などで栄養状態が悪かったり、抗がん剤や放射線治療の副作用で食事の摂取が難しくなりそうなときは、治療前に胃ろうや空腸ろうを作り、栄養面でのサポートをすることもあります」(図5)

治療前に胃ろうや空腸ろうをつくって、栄養状態をサポートした上で治療に臨むことで、化学放射線療法中の体力が維持できてさらに治療効果も高まることが期待できるという。

また、化学放射線療法による治療後に腫瘍が残ってしまった場合には、切除可能な状態なら、前述のように外科手術と同様の救済手術であるサルベージ手術が行われる(図6)。

G-CSF=顆粒子コロニー刺激因子製剤

いざという時のサルベージ手術

「放射線照射後は組織の修復能力が落ちるため、肺炎や縫合不全などの合併症が起こりやすくなり、重篤化する傾向があります。通常の手術では手術後の在院死亡が2%程度であるのに対して、救済手術では7~10%と高くなることも考慮しておく必要があるでしょう」

化学放射線療法を行うことで手術を回避し、食道を残せることは、患者さんにとって大きなメリット。ただし、化学放射線療法を行うにあたって、副作用の問題や、腫瘍が残ってしまった場合の問題なども考慮する必要がある。患者さんは医師ときちんと相談した上で、自分にあった治療法を見つけることが大切になりそうだ。


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