新たな薬剤の登場や、QOLを考えた薬剤の組み合わせの検討も 個別化も視野に!食道がんの術前化学療法

監修:中島政信 獨協医科大学第1外科学(腫瘍外科学)准教授
取材・文:文山満喜
発行:2012年6月
更新:2013年4月

治療効果の高い3剤併用療法が主流へ

[図3 併用療法は、2剤から3剤へ]
図3 併用療法は、2剤から3剤へ

より高い治療効果を目指すという点から、今後は3剤併用療法が主流になる可能性がある

術前化学療法を行うことで、患者さんの生存率は大きく向上しました。しかしながら今現在、治療ガイドラインでは3剤併用療法を推奨するだけの十分なエビデンス(科学的根拠)がいまだ確立されていない、という課題が残されています。

「現在、日本臨床腫瘍研究グループを中心に、DCF療法のエビデンスの確立が進められているところですが、術前化学療法としては、2剤併用療法も3剤併用療法も実施されていくのではないでしょうか。ただ、より高い治療効果を目指すという点から、今後は3剤併用療法が主流になっていくと思います」(図3)

実際、獨協医科大学の臨床データでも、2剤併用療法より3剤併用療法のほうが高い奏効率を示しているそうです。

手術後に転移を認めた症例は術後化学療法を

基本的に術前化学療法は、微小転移の予防を目的としているので、手術でがんがきちんと切除できたと判断された場合には、術後の化学療法は行いません。

ただし、切除したリンパ節の中に転移を認めた症例においては再発の危険性が高まるため、これらの症例に対しては術後化学療法が実施されることもあります。

「当院では術後の身体状態が比較的よいと考えられる患者さんには生存率の向上、転移を防ぐという観点から、術後にも2コースを基本とした3剤併用の化学療法を行っています」

しかしながら、この場合の術後化学療法の有用性に関しても、まだ十分なエビデンスは得られていないそうです。

適切な対策で副作用の症状を軽減

化学療法の副作用としては、術前でも術後でも骨髄抑制()が起こりやすいため、骨髄抑制に対する感染予防のケアが行われます。その他、悪心、嘔吐、食欲不振、口内炎などが起こることがあります。副作用の頻度や程度は個人差がありますが、適切な対策が行われますので、副作用の症状はかなり軽減できているそうです。

「術前の化学療法終了後から手術までの期間は、自宅で通常の生活を送ることができます。そのため、(1)外出する際はマスクを着用し、帰宅時には手洗い、うがいを行う(2)生ものを食べない、など、患者さんにも、ご自宅での感染対策を心がけてもらっています」

骨髄抑制=がん治療で抗がん剤、放射線などにより、一定期間、骨髄の造血能が解害される状態

食道がんも今後「個別化治療」へ

新しい治療法としては、新規抗がん剤として、肺がん、乳がんなど他のがん治療に使われているタキソール()が今年3月、食道がんにも使えるようになりました。

このほか、最近では患者さんのQOL(生活の質)向上を求めて、2剤併用療法、3剤併用療法で用いられている5-FUを、5-FUを改良したTS-1()に置き換えた治療法として、検討も始まっています。

「5-FUとの比較試験はまだ実施されていませんが、TS-1への置き換えで、良い治療成績をおさめている施設も出てきています。5-FUは5日間24時間の点滴治療を行う必要がありますが、TS-1は経口薬で、患者さんのQOL改善が期待できます」

食道がんというと、以前は不治の病というイメージが強かったと思います。しかし今は、治療の安全性も高まり、治療成績や患者さんのQOLも向上してきています。

これは、基本的には手術の治療成績がよくなったことが要因であると考えられています。

しかし、安全で、かつ治療成績が向上してきているとはいえ、他のがんに比べると手術に伴う患者さんへの身体的な負担やストレスは、大きいと言わざるを得ません。

そのため、食道がんにおいても現在「個別化治療」という考え方が重要視されてきています。

「『がんは手術で取るもの』ではなく、たとえば術前化学療法を2コース行うことでがんが非常に小さくなる人ならば、その後の治療は化学放射線療法でも、根治を目指せると考えています。〈術前〉ではなくて、食道がんの導入療法という位置づけで化学療法を行い、治療効果を判定したうえで、その後の治療方法を選択する。食道がんの治療は今後、このような『個別化治療』の方向性に進むことも考えられます」

[症例4 術前化学療法を行った患者さんの様子]
症例4 術前化学療法を行った患者さんの様子

タキソール=一般名パクリタキセル
TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム


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