これだけは知っておきたい食道がんの基礎知識 術前化学療法に目覚ましい効果が確認。困難とされる食道がんに光射す!

監修:井垣弘康 国立がんセンター中央病院食道外科総合病棟部医長
監修:伊藤芳紀 国立がんセンター中央病院放射線治療部医師
取材・文:半沢裕子
発行:2009年4月
更新:2019年7月

抗がん剤はシスプラチンと5-FUを併用

では、化学放射線療法の意義はなくなったかというと、そんなことはありません。化学放射線療法の何よりの魅力は、臓器温存、機能温存ができるということでしょう。事実、手術の成績が上がった今日でも、手術を受けた患者さんの50パーセントが、縫合不全や声がかすれる反回神経麻痺などの合併症(後遺症)を訴えています。

1期~3期で化学放射線療法を選択した患者さんには、約50~60グレイの放射線照射と、抗がん剤シスプラチン(商品名ブリプラチン、ランダなど)と5-FU(一般名フルオロウラシル)の投与が併用されます。

通常の放射線治療では、最大で60~66グレイの線量をがん組織に当てますが、2003年、日本では長期的に経過をみると強い副作用が起こる可能性があることが報告され、化学療法と併用して大きな線量を照射することに疑問がもたれました。強い副作用とは、放射線治療の途中で現れ、数週間でよくなる皮膚の赤みや飲み込み時の痛みなどの急性の放射線反応ではなく、治療直後から数年後に、肺臓炎、心嚢水、胸水など命に関わる症状として現れる「遅発性有害事象(晩期障害)」を指します。

ちょうど時期を同じくして、「放射線量を50.4グレイに減らしても、効果が変わらなかった」とする欧米の治験報告もあり、食道がんに対しては従来より少なめの約50グレイの照射が試みられるようになりました。

この治療に効果が見られない場合、すみやかに救済(サルベージ)手術と呼ばれる手術に切り替えられますが、放射線を照射したあとの組織は硬くなり、手術のダメージ(侵襲)が非常に大きくなる可能性があります。線量を少なくするのは、そうした場合に備える意味もあります。

さらに、最近はCT画像が送られた「3次元放射線治療計画装置」で治療計画をすることにより、放射線をがん細胞に対してより正確に当て、正常細胞には可能な限り少ない線量に抑える照射方法が可能と���ったため、晩期障害は減っていると思われます。

一方、抗がん剤ですが、こちらは先に書いたように、なかなか新しい薬が認可にならない事情があり、日本では新しい薬が使えるようになる可能性が高くありません。私たちも今、より効果の高い抗がん剤を求めて、5-FUの進化型ともいえるTS-1をシスプラチン、放射線治療と併用する治療法の治験を行っていますが、結果が出るのは先になりそうです。

遠隔転移があるときは、抗がん剤治療が中心に

食道にできたがんが食道から出て、気管、心臓など周辺の臓器まで拡がった3期(T4)や、少し離れたリンパ節に転移がある4a期には、化学放射線療法が「標準治療」となります。以前はこのステージでも手術を行う病院がありましたが、5年生存率が5パーセント以下であることを考えると、これは無理な手術といわざるをえません。むしろ患者さんに残された時間や生活の質を下げるだけと考えられ、今ではほとんど行われていません。

この病期の患者さんの中には、「手術が受けられないほど悪い」とがっかりする方がいますが、化学放射線療法で30パーセントの方のがんが消えますし、そこから5年生存される方もいます。希望を失わず、治療を受けてほしいと思います。さらに、遠くの臓器に転移が見られる4b期になると、治療の中心は全身のがん細胞をたたく抗がん剤治療が中心になります。しかし、がんで食道がふさがり、ものが食べにくい場合には、がんに放射線を当てて、つかえ感を改善させることもあります。また、食道の中に管(ステント)を通して食道を広げたり、壁に開いた穴をふさぐこともあります。

病気のステージが進んでも、できる手立てはいろいろありますので、医師に相談してみていただきたいと思います。

[化学放射線療法によるCR(完全寛解)例]

CR症例―治療前―
CR症例―治療後―
化学放射線療法を行った結果、がんが完全に消失


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