痛みが少なく、翌日には歩けて「大手術を受けた」感覚がないのに、開胸・開腹手術と同等の治療成績 体の負担を軽くし、合併症も少ない食道がん胸腔鏡・腹腔鏡併用手術
術後の縫合不全も慣れた病院では少ない
![[1]左側臥位の体位をとって手術が開始](/img/cc_10/ysc/03_1.jpg)
胸腔鏡・腹腔鏡併用食道切除・再建術の場合、胸部の手術は、まず患者さんは左を下にして横になります。その姿勢で右胸に7ミリから15ミリの小さな孔を5カ所あけ、この孔に長さ5~6センチの管(ポート)を入れ、この管を通して胸腔鏡や鉗子、メスなどの手術器具を入れて操作します。食道は胸の上部、つまり頸に近い部分で切断され、さらに胸のリンパ節郭清が行われます。小さな孔から全ての操作が行われるので、胸を大きく切開して押し広げる開胸手術とは、体への負担も大きく異なるといいます。
次に体を仰向けにして、腹部の手術を行います。ここでは上腹部に7センチほどの切開を入れて、さらに腹部に小さな孔を3カ所あけポートを挿入します。ポートからは腹腔鏡や器具を挿入し、7センチの切開から直接左手を入れて、胃を持って保護しながら手術を行うそうです。ここでは、胃につながるほうの食道を切除して取り出し、胃の周囲のリンパ節郭清や血管の処理をした後、新たな食べ物の通り道を作るために、胃管を作ります。
胃管というのは、文字通り胃で作った管です。これを持ち上げて残った頸の食道とつなぎ、新しい食べ物の通り道にするのです。
村上さんによると「頸部の食道は残しても比較的食道がんが発生しにくい」そうです。一方、胃のほうは一部を切除して上部を管の形にします。ここにも、熟練したテクニックがあります。村上さんによると「胃管と食道の吻合がうまく行かないと、食べ物などが漏れて敗血症を起こし、最悪の場合死に至ることもあります。これを防ぐには、なるべく胃管を細くしたほうがいいのです。しかし、そうすると血液の循環が悪くなり、食事も通りにくくなります。そのため、吻合が上手なところでは、ある程度胃管を太くしてつなぐのです」。
縫合不全は、食道がんの手術には多い合併症のひとつで、全国平均では10~30パーセントに発生しています。これが慣れた病院になると2~3パーセント。こういうところにも格差が出るのです。
合併症の発生率や術後の回復の早さに違いが
![[4]補助的に手を使って腹腔鏡手術を行う村上さん(中央)](/img/cc_10/ysc/03_4.jpg)
手術では、腹部手術で胃管を作ったのち、新たに再建した食道の通り道を作ります。もともと食道は1番背骨に近いところを走っているのですが、一般的には胸骨(胸の中央にある太い骨)の裏側に再建した新しい食道を通すためのスペースを作ります。 そして、最後に頸にU字型に切開を入れ、ここから残った頸部食道と胃管を引っ張りあげてつなぎ合わせます。さらに、必要に応じて頸部リンパ節の郭清を行います。ここは、従来と同じ外科手術になりますが、頸の場合はあまり痛みが残らないそうです。
これで、手術は終了します。村上さんによると胸部で平均3~4時間、腹部で1時間半、頸部でリンパ節郭清まで行うと2時間半、計7~8時間の手術になります。もちろん、個人差はありますが開胸、開腹による手術は約10時間かかります。「胸や腹部を開けて閉める操作がない分、手術時間も短縮されるのです」と村上さんは説明しています。しかし、もっと大きな違いは合併症の発生率や回復の早さにあるのです。
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