渡辺亨チームが医療サポートする:食道がん編
食道を残そうと化学放射線治療を選んだのが奏効した
大津敦さんのお話
*1 食道がんの集学的治療
食道がんの治療には、内視鏡治療、手術、放射線治療、抗がん剤治療の大きく分けて4つの療法があって、多くの場合、これらのうちのどれかを組み合わせて、相乗効果を出そうという集学的治療が取り入れられます。このため、消化器外科と消化器内科、放射線科などの専門医がカンファレンスを行いながら、どのような治療法がいいかを相談するのが普通です。
*2 食道がんの治療とたばこ
食道がんの治療を始める前に、たばこをやめることをお勧めします。たばこを吸っていると、たんがからみやすいので患者さんが苦しみやすくなるからです。また、肺の感染症が起こりやすくなるなど、十分な治療が受けにくくなります。
*3 化学放射線治療の患者条件
化学放射線治療を行うための全身状態の評価は、下の表のパフォーマンスステータス(PS)で0~4の5段階で表現されます。0~2で主要臓器機能が保たれていることが治療の対象になります。
0 | 社会活動ができ、制限を受けることなく発病前と同等にふるまえる。 |
---|---|
1 | 肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や坐業はできる。 |
2 | 歩行や身の回りのことはできるが、軽労働はできない。日中50%以上起居できる。 |
3 | 身の回りのある程度のことはできるが、日中50%以上就床している。 |
4 | 歩行や身の回りのある程度のこともできず、終日就床を必要とする。 |
*4 化学放射線治療の治療成績
日本でステージ1の食道がんを対象に行われた第2相臨床試験では、完全寛解率は95.8パーセント、3年生存率が92.9パーセントと良好でした。そして、局所再発を来たした症例でも、約半数が内視鏡切除(EMR=内視鏡粘膜切除術)でコントロールできることが確認されています。
*5 化学放射線治療のスケジュール
化学放射線治療は5週間を1コースとして、2コース行います。
抗がん剤は5-FU(一般名フルオロウラシル)とブリプラチンもしくはランダ(一般名シスプラチン)の2種類を用いて、各クールの初めの2週間投与します。5-FUは毎日(月~金)24時間連続投与し、シスプラチンは各週の初日のみ60ミリグラムを投与するのが普通です。
一方、放射線照射は、国内で行われた臨床試験の方法に準じて、放射線を1日2グレイずつ、30日間、合計60グレイ照射します。
5-FU | 体表面積1m2当たり1日400mg 点滴1~5日目 8~12日目 |
シスプラチン | 体表面積1m2当たり1日40mg 静注1日目、8日目 |
放射線照射 | 1日2グレイ 1~5、8~12、15~19日目 計30グレイ |
治療日数 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
5-FU | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ||
シスプラチン | ↓ | ↓ | ||||||||||
放射線照射 | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ||
治療日数 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | ・・・ | 35 | |
5-FU | ||||||||||||
シスプラチン | ||||||||||||
放射線照射 | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ |
*6 化学放射線治療の副作用
抗がん剤はがん細胞を殺す役割をする薬ですが、正常細胞にも働くために様々な副作用が現われる可能性があります。化学放射線治療の抗がん剤でよく現われるのは、吐き気・嘔吐、食欲不振、口内炎、白血球減少、腎機能障害、下痢などです。
一方、放射線照射に伴う副作用としては、食道の中心部へ照射した場合、嚥下時の違和感・疼痛・咽頭の乾きなどの症状が出る可能性があります。また、放射線障害は治療中ばかりでなく、治療が終了してから数カ月~数年後に起こるものがあり、照射部位によって胸に水がたまる肺水腫、放射線性肺炎、食道の穿孔などの可能性もあります。
これら化学放射線治療による副作用は個人差があり、ほとんど副作用の出ない人もいますが、強めに現われる人もいます。症状が強い場合は症状を和らげる治療をしますが、時期がくれば自然に回復します。
*7 完全寛解
抗がん剤や放射線などの治療によって、がんがCTや内視鏡などでの検査で完全に消失することを完全寛解といいます。
*8 がん治療後の通院
がんの治療後は、機能の回復をチェックし、再発の早期発見のために通院する必要があります。治療後に食事が順調に食べられるようになるまでは、がんの進行度にかかわらず1カ月に1回程度の診察を受けます。
*9 食道がんの再発

食道がんは最初の治療で完全に消えたようにみえても、わずかに残っていたがん細胞が増殖して症状が出たり、検査などで発見されるようになった状態を再発といいます。食道がんの再発のほとんどはリンパ節と肺、肝臓などの臓器や、骨への遠隔転移です。再発したがんが治る可能性は非常に少ないと考えねばなりません。
ただし、化学放射線治療で治療した場合、食道の原発巣や、「スキップリージョン」といって食道内のそこから少し離れた部位にがんが再発することがあります。この場合はがんが粘膜にとどまっていれば、内視鏡を用いて切除することができます。
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