放置せずに検査し、適切な治療を! 食道腺がんの要因になる逆流性食道炎
自覚症状なく内視鏡検査で発見されることも
逆流性食道炎も、バレット食道も、すべて内視鏡検査(いわゆる胃カメラ)で診断される。胸やけや呑酸などの症状で来院し、内視鏡検査を受けて確定診断されるケースが多いが、中には、本人には全く自覚症状がないにも関わらず、健康診断や人間ドッグで内視鏡検査を受け、食道粘膜にびらんや潰瘍が見つかって逆流性食道炎と診断されたり、ときにはバレット食道が発見されることもあるという。
加えて、逆流性食道炎もバレット食道も、加齢とともに患者数が増加することが明らかだ(図3)。

ただ、「たとえ〝バレット食道〟と診断されても、そのすべてが食道腺がん発症のリスクが高いわけではありません」と小池さんは話す。食道粘膜の扁平上皮がどの程度、円柱上皮(バレット粘膜)に置き換わっているかによって、腺がん発症リスクには大きな違いがあるという。
欧米では、長さが1㎝以上あるものをバレット食道としている一方、日本ではごく小さな異変も拾い上げ、バレット食道と診断される傾向がある。そこには、日本の内視鏡技術が世界一と言っても過言ではないレベルにあることも関係しているだろう。つまり、日本の内視鏡検査で〝バレット食道〟と診断される頻度は欧米と比べて格段に高い。
「日本で内視鏡検査を受けた人のうち、バレット食道と診断されるケースは、全国平均でおよそ2割。施設によっては、6~7割に及ぶところも珍しくありません。ですから、たとえバレット食道と診断されても、どうか慌てないでほしいのです」
なぜなら、そのほとんどが、バレット粘膜3㎝未満のショートセグメントバレット食道(SSBE)だからだ。
「SSBEの中でも、とくに1㎝未満のSSBEから食道腺がんに移行するリスクは極めて低いと報告されています。やはり問題は、バレット粘膜が3㎝以上のロングセグメントバレット食道(LSBE)です」
「現状、日本でLSBEが発見されるのは、内視鏡検査を受けた人の0.3%ほどと言われています。同じバレット食道でも、LSBEは食道腺がんに移行する可能性が高いので、こちらは厳重な注意が必要です」
内視鏡学会は、バレット粘膜3㎝以上の場合、年間1.2%の腺がん発症確率を報告している。また、小池さんたちが行った前向き検証では、バレット粘膜が2㎝以上の場合、年間0.47%の発がん確率が確認されたため、東北大学病院では、2㎝以上のバレット食道に対しては、細心の注意を払い、定期的な内視鏡検査を行っている(画像4)。

食道腺がんの治療法は、胃がんに準じるのか?
ところで、食道腺がんになった場合、どのような治療法がと��れるのだろうか。
「粘膜内に限局している早期ならば、食道扁平上皮がんと同様、内視鏡治療で切除します」
逆流性食道炎やバレット食道の段階で気づいて対処し、定期的に検査を受けて注視していれば、たとえ腺がんに移行したとしても、粘膜内に限局する早期がんの状態で発見することができ、内視鏡治療で全摘できる。「内視鏡治療で摘出できれば、再発もまず心配ない」とのこと。
一方、前段階でまったく気づかず、食道腺がんが進行した状態で発見された場合は、治療法は手術一択。同じ食道がんでも、扁平上皮がんならば、比較的、化学療法や放射線治療が効果を現しやすいので、手術以外の方法も考えられるが、腺がんは胃がん同様、化学療法や放射線治療が効きにくい性質があり、可能な限り手術を選ぶそうだ。
「手術できない場合は個々のケースで判断が異なりますが、腺がんなので、胃がんに準じるケースが多くなります」
気になる症状があれば内視鏡検査を受けよう!
現状、食道がんのおよそ9割は扁平上皮がん。その一方で、わずかずつではあるが食道腺がんが増えてきている。その背景に、逆流性食道炎の急増、そして、バレット食道の増加があることは明らか。なので、まずは、胸やけや呑酸といった気になる症状がある人は放置せず、一度、内視鏡検査を受けてみよう。
そこでもし逆流性食道炎と診断されたら、〝よくある病気〟と軽視せず、経過をきちんと追っていこう。それこそが、食道腺がんを早期発見する最も有効な方法だ。
欧米、とくに白人においては、数十年前から食道腺がんが急増し、1990年前後には扁平上皮がんを抜き去っている。「人種差による影響が大きいので、日本でも今後、欧米のように食道腺がんが爆発的に増えるとは考えにくい」と小池さんは述べつつも、「ただ、増加傾向は今後も続くのではないかと思います」と懸念を示した。
胸やけや胃もたれ、呑酸といった症状にいつしか慣れてしまい、知らず知らずのうちに放置している人も少なくない。こうした症状を軽視せず、思い当たる場合は、ぜひ一度、内視鏡検査を受けてほしい。
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