グラス1杯のビールで赤くなる人はとくに注意を! アルコールはがんの強力なリスクファクター
少量でも、アルコールは乳がん・大腸がんのリスク要因!
日本人に非常に多い乳がんと大腸がんも、アルコール摂取が発がん原因の1つと判明しています。ただし、これらはアセトアルデヒドが直接的な引き金ではないようです。
「アルコールがエストロゲン(女性ホルモン)を増やすことがわかっており、乳がん発症に関わっていると考えられます。また、大腸がんにはDNAを修復するビタミンである葉酸の代謝が関与するとされていますが、アルコールがその葉酸のDNA修復機構を壊すという説が有力です」
乳がんと大腸がんに対するアルコールの作用機序はまだ判明し切れていませんが、アルコールが発がんリスクの1つであることは明白です。しかも、たとえ微量でも、アルコール摂取が始まった時点から、乳がん、大腸がんのリスクは始まり、摂取量に比例して上がっていくことも明らかになっています(図3)。

「1日にワインをグラス1杯摂取していると、乳がんリスクが7%上がります。世界中で類似の研究結果が出ていて、日本の研究も同様です。2021年に発表されたメタ解析では、1日平均23g以上の*純アルコール量(9%缶酎ハイ350ml相当)で発がんリスクが1.74倍に上がるとの結果も出ました」
1日に缶ビール1本、ワイン1杯程度でも発がんリスクが生じ、摂取量が増えるとともにリスクが上がる乳がん、大腸がんは、決して大酒家の疾患ではありません。「少量なら大丈夫」とは言えず、飲むことが発がんリスクに繋がります。逆に、日々の飲酒量を減らすことで確実にリスクを下げられるがんでもあるのです。
*純アルコール量:アルコール飲料に含まれるアルコール量。飲酒量(ml)×アルコール濃度×0.8(アルコール比重)で導き出される (例)濃度5%の500mlのビール缶1本の純アルコール量:500×0.05×0.8=20(g)
野菜・果物の力をもっと活用しよう!
アルコールによる発がんリスクに歯止めをかける方法は「野菜や果物を意識して食べること」だと横山さんはアドバイスします。
「気休めのように思われがちですが、野菜果物による消化管関連がんの予防効果は立証されています。飲酒していても野菜果物を日々たくさん摂取していると発がんリスクが明らかに下がります。漬物は塩分が高いので避けたほうがいいですが、他は何でもいい。とくに緑黄色野菜がいいようです」
さまざまな発がん物質によって引き起こされるDNA損傷が、がん発症の原因とされますが、野菜や果物にはDNA損傷を予防する力があると考えられるのです。運動も同様で、とくに運動習慣が大腸がんを予防することは、日本の研究でも証明されています。
「飲酒、喫煙、運動しない、野菜果物を食べない、というのはなぜか連動する傾向があります」と横山さん。野菜果物を日々意識的に摂取して、まずは負の連動を断ち切りましょう。
肝がんとアルコールの関係とは?
アルコールと肝がんの関連も明らかですが、長年の大量飲酒によるアルコール性肝硬変から肝がんに至るのは10%程度。頻度としては高くありませんが、がんに至らずとも肝硬変の段階で非常に深刻です。「アルコール性肝硬変を起こすほど大量飲酒している人は、肝硬変で命を落とすケースも多いです」と横山さんは述べます。
一方、C型肝炎による肝硬変からの肝がん発症率は高く、10年間で約5割。とはいえ、C型肝炎が治療できるようになった現在、この状況は大きく改善されました。ただ、「C型肝炎治療を終えた後、継続的な飲酒によって肝がんを発症する人が増えています」と横山さんは指摘します。
C型肝炎治療後の約2,000人を追跡した研究では、1日60g(500ml缶ビール3本相当)以上のアルコール摂取を続けていると、10年で2割近くが肝がんを発症していたというのです(図4)。

「今後は、C型肝炎治療を完了した人たちに、アルコール摂取の注意喚起をしていくことが重要だと思います」
肝がんはひとたび発症すると、次々に出てくるのが特徴。その点では食道がんや頭頸部がんと同様ですが、内視鏡で見張ることのできる食道や頭頸部と違い、肝臓は画像診断しかありません。しかも画像で見えるようになった時点で手の施しようがないことも多く、やはり難しいがんと言えるでしょう。
安全なアルコール量ってあるのですか?
以前は「適量の飲酒は寿命を延ばす」「酒は百薬の長」「赤ワインは体によい」などと言われた時代があり、飲酒の免罪符のようになっていました。しかしこうした見解は現在、世界的に否定されています。
「アルコールに安全量はありません。飲酒した時点からリスクが始まり、飲酒量に比例してリスクが高まります。とくに大腸がん、乳がんは顕著です。そのリスクには体質、性別、年齢などによる違いがあるので一概には言えませんが、1日の純アルコール摂取量が30~40gを越えてくると、間違いなく危険だということは覚えおいてほしいと思います。これはもちろん、20gなら大丈夫という意味ではありません」
アルコール濃度9%の缶酎ハイ500mlの純アルコール量は36gなので、この時点ですでに危険水域。少なくともALDH2低活性の体質の人は、日々の飲酒量を極力減らすことが重要と言えそうです(図5)。

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