顔が赤くなる人のリスクは89倍! 飲酒による食道がんの危険をもっと知ってほしい

監修●堅田親利 京都大学大学院医学研究科がん免疫PDT研究講座特定准教授
取材・文●半沢裕子
発行:2025年3月
更新:2025年3月


食道がんを早期発見、早期治療はできませんか?

「私たちの研究目的はまさにそこにあります。食道がんの予防は1次予防、2次予防の2つを考えています」

1次予防はがんにならないためのもの、2次予防とはがんを早期発見し早期治療することで、がんによる死亡を減らすことです。

「1次予防のためには、アルコール代謝酵素(ADH1B/ALDH2)の遺伝子型を調べ、それに基づいた飲酒教育をすることだと思っています。遺伝子型は頬の粘膜を綿棒で擦り取る簡便な検査でわかります。理想的には成人前に検査を行い、自分のタイプを知っておくことですが、遺伝子検査は今日でも抵抗感があるようです。それでも、検査をすることにより食道がんは激減するはずで、私たちとしては引き続き推進したいと考えています」

2次予防は〝顔が赤くなったが、そのうち飲めるようになった〟というハイリスクな人を早期発見し、内視鏡検診が行えるようにすることです。

「食道がん問診票から点数の高かった人(11点)117人に対し内視鏡検診を行ったところ、4.27%の人に食道がんが見つかりました。これはかなり高い数字です。大腸がんの便潜血反応検査での陽性確率は約4%で、現在この4%の人に対して大腸内視鏡検査が行われています。これと同じことが食道がんでも保険でできるようになることが望まれます」(図6)

「お酒は飲めません」と言いにくいのですが?

海外の多くの国では酒やタバコの宣伝・広告は禁止されています。日本でもタバコのテレビCMは自主規制により放映されなくなりましたが、酒については今でもCMがたくさん流れています。

「ここまでお酒と食道がんの関係が明らかになったのに放置することはできないと、日本食道学会もアルコールと食道がんに関する啓発活動部会を作り、啓発活動を始めました。2024年にはポスターをつくり、各病院に配布しています」

「こうした活動を通じて、アルコールが食道がんの直接的原因になることに加えて、とくに少量のお酒で顔が赤くなる人は要注意であることを社会に広く知ってもらえれば、対応も変わってくるのではないかと考えています。『自分は食道がんハイリスク』と説明したら、すんなり理解してもらえる社会を目標にしています。私たちも研究データをどんどん出し、学会で啓発活動を行い、警鐘を鳴らしていこうとしています」

また、高性能の胃カメラを使用すれば頭頸部などの早期���んも発見できることがわかってきたため、学会もこれまでは咽頭は消化器に含めませんでしたが、咽頭も消化器内視鏡の通り道だから日本消化器内視鏡学会でも診ましょうということになってきているそうです。

「食道がんが治った人は、飲酒をやめて他のがんの発生も防ぎたいものです。そのためのサーベイランスも必要です。私たちは食道がんの人を400人ほど登録し、全身をCTや大腸内視鏡などで観察するコホート研究を開始しています。食道がん経験者に別ながんが発生するか、どのくらい命にかかわるのか、あと3~4年で結果が出せると思います」

食道がんや頭頸部がん以外にもアルコールが原因のさまざまながんがあります。

「そこで、他のがん種もサーベイランスする必要があるという考え方に最近は変わってきています。新型内視鏡NBIは、早期のがんに見られる異常な血管がよく見えるため、早期発見がより可能になっています。だからこそ、お酒を飲んで顔が赤くなる人は、食道がん・頭頸部がんの危険が非常に高いことを知って、問診票などでリスクの高い人は内視鏡検査を受けてほしいと思っています」

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