特別企画『世界頭頸部がんの日』予防と早期発見を目指して、正しい知識を世界規模で普及

取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2015年8月
更新:2015年11月


<治療の現状>❷化学放射線療法
 広がる化学療法と放射線療法との併用治療の選択肢

藤井正人さん

頭頸部がんは治療が様々に分かれる。そこで大切になって来るのが「集学的治療」。外科療法、放射線療法、化学療法の力を適切に合わせてより効果の高い治療をしようというものだ。その中で近年研究が進んでいるのが化学放射線療法。国立病院機構東京医療センター臨床研究センター耳鼻咽喉科部長の藤井正人さんに最新情報を伺った。

化学放射線療法で手術と同等の成績

「頭頸部がんは部位ごとに治療法は多岐にわたり、予後にも差がありますが、ほとんどの部位で化学療法を中心とした集学的治療が不可欠になっています」と藤井さんは語る。

部位による違いはあるが、基本としてステージⅠ、Ⅱの場合は手術や放射線単独治療を行うが、ステージⅢ以上になると化学療法を使った集学的治療が主体となる。集学的治療とは、頭頸部外科、腫瘍内科、放射線科の医師だけではなく様々な医療スタッフが協力し、よりよい治療を提供しようというものだ。「進行がんでは放射線療法を主体とした治療が手術と同等の成績を示しています」

つまり、適切に判断された化学放射線療法と、適切に判断された手術とは生存率が変わらないことを意味する。

アービタックスで併用療法治験

頭頸部がんにおける化学療法は1970年代にシスプラチンが使われ始めたのが最初。「シスプラチンは現在でも効果が一番確立されているキードラッグ」であり、標準治療の第1選択はシスプラチンとなっている。しかし、腎機能への毒性が強いという難点もある。

多剤併用療法ではシスプラチンと5-FU の併用、さらにこの2剤にドセタキセルを加えた3剤併用療法も広く行われている。再発してしまった場合の2次治療としては、パクリタキセル。単剤での効果はシスプラチンよりも劣るが、作用機序が異なるためシスプラチンに耐性になった場合に使用する。腎機能への毒性は弱いが、骨髄抑制や血液に副作用が出る。

そして3年前に日本でも承認された分子標的薬セツキシマブにも期待がかかっている。「セツキシマブの使用はどんどん広まり、当センターでも積極的に用いています」。使い方は、放射線治療との併用と、再発・転移した際のシスプラチン、5-FUとの3剤併用療法で、延命効果が認められている。

現在も医師主導で併用治療の臨床試験が進められているが(図3)、セツキシマブも対象に含まれている。新薬としても、免疫療法的な薬剤や上皮成長因子受容体(EGFR)に作用するチロシンキナーゼ阻害薬が開発途上との情報もある。

シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ 5-FU=一般名フルオロウラシル ドセタキセル=商品名タキソテール パクリタキセル=商品名タキソール セツキシマブ=商品名アービタックス

■図3 切除可能な進行頭頸部がんに対する
臓器機能温存を目指した治療開発(ECRIPS試験)

治療はあきらめない

化学放射線療法の存在感を改めて藤井さんに聞いた。

「手術ができないときに、あきらめるのではなく、化学放射線療法で可能な限り根治を目指すことができます。再発・転移はあるかもしれませんが、化学療法を工夫することでQOL(生活の質)を維持しながら長期生存を目指すことができます。治療をとにかく試みるべき。患者さんや家族は専門医と十分に話し合って、治療に取り組むべきです」

そして、情報選択の大切さを強調した。「頭頸部がんに関してはいろんな治療法があり、状況に応じて使い分けます。患者さんもたくさんの情報の中から選択していかなければなりません」

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