放射線治療で舌を温存し、治療後も味覚を損ねない生活を QOLを考えた選択肢、舌がんの小線源治療

監修:渋谷 均 東京医科歯科大学医学部腫瘍放射線学科教授
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2009年2月
更新:2019年8月

歯科用の局所麻酔で線源を留置

写真:小線源治療に使用される3種類の線源

小線源治療に使用される3種類の線源 セシウム針(左上)、イリジウムピン(右上)、金粒子(下)

小線源治療に使う線源には、直径2ミリほどのセシウム針、ヘアピンのような恰好をしたイリジウムピン、そして金を白金でくるんで放射線化した放射性金粒子などがあります。

セシウム針はフトン針を短くしたような針で、通常がんの部位に10本ほど差し込みます。イリジウムピンは、セシウム針に比べるとエネルギーはやや低くなりますが、細くて柔らかいのが特徴。固くて太いセシウム針より、患者さんにとっては苦痛が少ないのが長所です。柔らかいので、管になったガイド針を刺して、この管を通してイリジウムピンを挿入します。がんの厚みが薄い人にイリジウムピンが選択されるそうです。

さらに患者さんの負担が少ないのが、金粒子です。放射線金粒子は、小さな円柱型(直径0.8ミリ、長さ2.5ミリ)の粒で、注射針で舌に押し込みます。この場合は、全く違和感がなく、金でできていて錆びることもないので、「永久留置」、つまり入れたままになります。金粒子の放射線の半減期は非常に短くて2.7日。つまり、3日もすれば放射線の量は半分以下になり、すぐに放射線が出なくなってしまうので、放置しても大丈夫なのです。

渋谷さんは「針のほうがきちんと並べられるので、若くて元気な人にはセシウム針、少し年齢が高い人にはイリジウムピン、金粒子は5パーセントほど治療成績が落ちるので、いろいろな合併症があってできるだけ体に負担をかけたくない人の治療に」選択しているそうです。

実際には、まず入院前に治療による合併症を防ぐために、スペーサを作っておきます。金粒子の場合も、15個以上など数が多くなればスペーサを装着するそうです。治療は「線源の種類と数、配列をあらかじめ決めたうえで刺し、合計70グレイの放射線が照射されるようにコンピュータで線量分布を計算し、最終的な治療時間を決めて」行われます。

小線源の留置は、局所麻酔で行います。麻酔に使うのは、抜歯などで歯科医が使うのと同じ麻酔薬(リドカイン)です。「出血を少なくする作用もあるので、歯科用の局所麻酔がちょうどよい」のだそうです。針やピンの留置にかかる時間は、麻酔も含めて30分ほど、金粒子ならば15分ほどと短時間です。

セシウム針の場合は、針を留置すると舌が動かなくなるので、前日に鼻にチューブを留置して栄養(経管栄養)がとれるようにしておきます。いずれにしても、線源の留置にはそれほど時間はかかりません。このまま、放射線治療用の部屋で1週間過ごし、線源を抜き取ってスペーサも外して、一般の部屋に戻ることになります。

[左舌がんへのセシウム針治療]
左舌がんへのセシウム針治療

[左舌がんへのイリジウム治療]
左舌がんへのイリジウム治療

[左舌がんへの放射性金粒子治療]
左舌がんへの放射性金粒子治療

同じカテゴリーの最新記事