進行別 がん標準治療 流れは手術から、機能や形状を温存する化学放射線治療へ
再発、遠隔転移がん
注目されるタキサン系抗がん剤
頸など周囲のリンパ節に転移したり、局所で広がった局所進行がんに対しては、化学放射線治療がかなり効果をあげることがわかってきました。では、再発がんや遠隔臓器に転移したがんに対して、抗がん剤はどの程度の効果があるのでしょうか。 頭頸部がんは数が少ないこともあり、今のところ個々のがん種別に行われた臨床試験は少なく、ほとんどの臨床試験は頭頸部がん全てを対象に行われたものです。
欧米では、以前はメソトレキセート(一般名メトトレキサート)が頭頸部がん治療によく使われていましたが、その後さまざまな抗がん剤で単独あるいは併用による治験が行われてきました(下表参照)。しかし、「奏効率(腫瘍が縮小する率)は3~4割で、平均生存期間はいずれも6~7カ月。ランダもしくはブリプラチンを超えるものはないのです」
再発、遠隔転移した進行がんに対する抗がん剤の効果は、それほど高いものではなく、標準的治療も決まっていません。ただ、これまでの臨床試験の結果からみて、「ランダもしくはブリプラチンを含む多剤併用療法がいいだろう」とされているそうです。
世界でよく行われているのは、ランダもしくはブリプラチンと5-FUの併用療法(FP療法)です。これで、奏効率は3割5分ぐらい、9カ月生存する人も35パーセントくらいという数字が出ています。
「再発すると厳しいですが、今タキサン系抗がん剤が注目されている」といいます。単剤ではあまりいい成績は上がっていないのですが、FP療法にタキソテールやタキソールを上乗せすると、5~6割に縮小効果があり、生存期間も9カ月、11カ月といった数字が報告されています。
「まだ、あくまでも臨床試験段階です。期待される治療ですが、一般の治療で行うべき段階ではありません」と田原さんは語っています。

TS-1とシスプラチンによる化学放射線治療

*PR=有効。部分寛解
*CR=著効。完全寛解
今年5月のアメリカの臨床腫瘍学会で、田原さんが発表したのが、新たな抗がん剤の組み合わせによる化学放射線治療です。
対象は、リンパ節転移など局所進行がんの人を中心とした17人です。この人たちに従来から化学放射���治療のベースとして使われているランダもしくはブリプラチンに加え、新しくTS-1を投与。平行して放射線治療を行いました。その結果、放射線障害による粘膜炎がかなりひどかったものの、何とほとんどの人で肉眼的ながんが消滅するという驚くべき結果が出ました。81パーセントの人で、画像上、がんが消えたのです(右表参照)。
中には、10センチもある大きながん(下咽頭がん)が消えた人もいました(写真参照)。「ふつうならば、もう治療はできないと見放されるようながんも消えていたのです」。現在までに、がんが消滅した人の中で1人だけ再発して亡くなった人がいますが、あとの人はみな生存しています。
しかし、この治療法は、まだわずかな人を対象とした結果であり、安全性、効果ともに、多くの人で検証する必要があり、「一般臨床で行う治療法ではない」と田原さんは語っています。現在国内の多施設での臨床試験の準備が進んでいるそうです。「今後は、きちんと臨床試験ができる基盤を整えていくこと、そしてがんの種類による違いを明らかにして、咽頭がんと喉頭がんぐらいは少なくともきちんとした標準治療を固めていきたいと思っています」と田原さんは語っています。
臨床試験やデータを公表して、きちんとした科学的評価を行っていくこと、そしてその効果をみてもらうことで、医師にも化学放射線治療の知識を深めてもらいたいと田原さんは考えています。

治療前
下咽頭がんが直径10cm近くもふくれていた

治療後
がんが完全に消滅し、現在も生存中
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