味覚も言葉も損ねない舌がんの小線源治療 知ってほしい!手術よりもはるかにQOLが高いことを
放射線障害を防ぐコツは歯科医の存在


放射線源の刺入期間中、スペーサを付けない場合、25カ月目(2年1カ月目)で約19パーセントの患者に放射線潰瘍によって下顎骨の露出がおきてしまう。50カ月目(4年2カ月目)で約28パーセント、75カ月目(6年3カ月目)で約43パーセント、100カ月目(8年4カ月目)で約59パーセントの患者さんが下顎骨露出という放射線障害を招き、年を追うごとに増えていく。一方、スペーサを付けた場合は、放射線潰瘍による下顎骨の露出は数パーセント程度。
もっとも、スペーサなら何でもいいわけではなく、放射線障害を招かないような構造のスペーサが必要。しかし、そのようなスペーサをきちんと作っているところが少ない。
「幸いなことに東京医歯大では歯学部の病院が併設されています。私たちはその専門の歯科医と密接に連携して小線源治療を行っているため、適切なスペーサが作れます。だから放射線障害を招くことはほとんどないのです」(渋谷さん)
歯科医とタイアップしていない病院では、しばしば簡便型スペーサ(歯科用モデリングコンパートやガーゼ)を医師がつくって小線源治療を行っているが、プロの歯科医がつくるスペーサとは似て非なるものだ。しっかりと下顎に装着できないため放射線が当たり、放射線障害を招いてしまう。小線源治療を受けるときは、歯科医と連携しているか否かを事前に確かめておいたほうがよい。
舌の形態も機能も維持できる小線源治療
舌がんの進行病期は1期から4期の4段階に分けられる。1期は腫瘍の最大径が2センチまで、2期は2~4センチ、3期が4センチ以上だ。4期はさらに3段階に分けられ、4A期は舌が動かないほど大きな腫瘍で、4B期はそのうえにリンパ節転移があるとき、4C期は遠隔転移がある場合だ。
舌がんの治療は前述したように手術による切除が主流だ。他臓器に転移した4C期の舌がんはごく稀にしか見られないので、舌の再建術を加えた手術+再建���で治療されることがほとんどだが、その中で小線源治療の対象となるのは1期と2期の舌がんである。
「切除箇所の小さい1期の舌がんは、手術でも機能障害を招くことは少ない。しかし、舌がんの約10パーセントを占める舌の先の部分のがんは、舌足らず等の構音機能障害をもたらすことから、小線源治療のほうが絶対的によいといえます。また、2期のがんは1期よりさらに切除箇所が大きくなり、さまざまな機能障害を招く可能性が高くなるので、手術より小線源治療のほうがふさわしい。治療成績も5年生存率が1期84パーセント(東京医歯大病院放射線科)、2期76パーセント(同)で、手術と比べてまったく劣りません」(渋谷さん)
舌の形態も機能も維持できる小線源治療
()内は症例数(1998年)

3期、4期の舌がんの治療成績は、小線源治療より手術のほうが優れているというデータが出ている。ただし、舌がんは表面がびらんした表在型と、表面の組織が崩れる潰瘍型、表面に盛りあがってくる腫瘤型の三つのタイプに分かれるが、3期でも表在型に対する小線源治療の成績は手術のそれと同じくらいだ。
しかし、腫瘍の厚みが増すほど、手術の治療成績が小線源のそれより勝ってくる。
一方、最近は機能と形態が温存できる小線源治療の特長が広く認められはじめ、従来の1期、2期を超える舌がんに対しても小線源治療が試みられるようになってきた。
「最近は(1)俳優や歌手、僧侶、教師など自らの微妙な発声を大事にしたいと願う患者や、(2)初回に手術を受けた再発舌がんや重複舌がんの患者の中で小線源治療を強く望む人が増えてきたのです」(渋谷さん) 1期、2期を超えた舌がんに小線源治療を行う場合、首のリンパ節へ微小転移している可能性が高いことから頸部リンパ節郭清を加える。手術で頸部リンパ節郭清を行うのは普通だが、小線源治療にリンパ節郭清を加えることで、手術の治療成績に匹敵する成果を挙げている。
現在、欧米でも舌がんに対する治療は手術が主流で、小線源治療を行っているのは日本とヨーロッパの一部のみ。なぜ小線源治療が普及しないのかというと、小線源治療のテクニックの習得や設備の維持に多くの労力が割かれるためである。
「しかし、舌がんに対する小線源治療は、舌の機能と形態が温存できる点で、手術より勝っていることは間違いありません。費用の点でも小線源治療は手術(部分切除)とほぼ同じ20万円前後(患者負担はその1~3割)で、再建術を加えると50万円以上になる手術と比べると経済的にも優れています」(渋谷さん)
今後、患者にやさしい治療法として、舌がんに対する小線源治療のニーズは、高まりこそすれ低下することはないだろう。さらに一層の普及が望まれる。
施設名 | 担当者 | 電話 |
---|---|---|
北海道大学放射線科 | 西岡健 | 011-716-1161 |
札幌医科大学放射線科 | 晴山雅人 | 011-611-2111 |
国立札幌病院放射線科 | 西尾正道 | 011-811-9111 |
国立函館病院放射線科 | 斎藤明男 | 0138-51-6281 |
岩手医科大学放射線科 | 中村隆二 | 019-651-5111 |
東北大学放射線科 | 山田章吾 | 022-717-7000 |
群馬大学放射線科 | 中野隆史 | 0272-20-7111 |
筑波大学放射線科 | 大原潔 | 0298-53-3210 |
埼玉がんセンター放射線科 | 楮本智子 | 048-722-1111 |
千葉がんセンター放射線科 | 幡野和男 | 043-264-5431 |
横浜市立大学放射線科 | 荻野伊知郎 | 045-261-5656 |
神奈川がんセンター放射線科 | 山下浩介 | 045-391-5761 |
神奈川歯科大学放射線科 | 桜井孝 | 0468-25-1500 |
東京女子医科大学放射線科 | 三橋紀夫 | 03-3353-8111 |
国際医療センター放射線科 | 伊丹純 | 03-3202-7181 |
都立駒込病院放射線科 | 唐沢克之 | 03-3823-2101 |
東京医科歯科大学放射線科 | 渋谷均 | 03-5803-5683 |
東京慈恵会医科大学放射線科 | 兼平千裕 | 03-3433-1111 |
東京医療センター放射線科 | 土器屋卓志 | 03-3411-0111 |
国立がん研究センター中央病院放射線科 | 加賀美芳和 | 03-3542-2511 |
癌研究会付属病院放射線科 | 山下孝 | 03-3918-0111 |
帝京大学放射線科 | 杉山丈夫 | 03-3964-1211 |
新潟大学放射線科 | 笹本龍太 | 025-223-6161 |
新潟がんセンター放射線科 | 斎藤真理 | 025-266-5111 |
信州大学放射線科 | 鹿間直人 | 0263-35-4600 |
浜松医科大学放射線科 | 西村哲夫 | 053-435-2242 |
愛知がんセンター放射線科 | 不破信和 | 052-762-6111 |
京都大学放射線科 | 光森通英 | 075-751-3419 |
大阪大学バイオ集学放射線科 | 井上武宏 | 06-6879-3481 |
兵庫成人病センター放射線科 | 広田佐栄子 | 078-929-1151 |
奈良県立医科大学放射線科 | 吉村均 | 0744-22-3051 |
三田市民病院放射線科 | 吉田岑雄 | 0795-65-8000 |
岡山大学放射線科 | 小林満 | 086-223-7151 |
川崎医科大学放射線科 | 今城吉成 | 086-462-1111 |
国立呉病院放射線科 | 山本道法 | 0823-22-3111 |
広島大学放射線科 | 広川裕 | 082-257-5555 |
安佐市民病院 | 和田崎晃一 | 082-815-5211 |
九州大学放射線科 | 国武直信 | 092-641-1511 |
九州がんセンター放射線科 | 和田進 | 092-541-3231 |
九州医療センター放射線科 | 上原智 | 092-852-0700 |
熊本大学放射線科 | 馬場裕之 | 096-344-2111 |
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