症例を選択すればTKI単独療法でも十分に対応可能! 転移性腎細胞がん中リスク群での一次治療に対する治療薬選択

監修●本郷文弥 京都府立医科大学大学院医学研究科泌尿器外科学准教授
取材・文●植田博美
発行:2020年6月
更新:2020年6月


さまざまな症例を含む中リスク群の中にはTKIが適応する場合も

「国内では2008年から転移性腎細胞がんに分子標的薬の使用が可能になり、2018年には免疫チェックポイント阻害薬(ICI)併用療法も適応承認されました。

現在、IMDC分類のfavorable risk(低リスク)群においては、TKI単独療法(スニチニブまたはパゾパニブ)が推奨され、intermediate risk(中リスク)群やpoor risk(高リスク)群ではICI併用療法(イピリブマブ+ニボルマブ)が推奨されています。

しかし、どの薬剤を選択すべきかは必ずしも明確ではありません」と、本郷さんは転移性腎細胞がん治療の実情を述べる。

「腎細胞がんでは病理組織型、リスク分類、転移部位、年齢、合併症などを考慮して治療薬を選択しますが、特異的なバイオマーカー(生物学的指標)がなく、必ずしも明確な基準がないのが現状です。

「また、IMDC分類では、全体の60~70%の患者さんが中リスク群に該当するのです」

つまり、患者層が幅広いのだ。

そこで、特異的なマーカーではないものの、CRP(C反応性蛋白)は薬物療法の効果を予測しうると考えられています。

「同じ中リスク群の中に、リスク項目の数や転移部位の違い、CRP値の高低など、さまざまな因子を持つ患者さんが含まれるわけです。この中にはICIを使わなくともTKI単剤で十分対応可能な症例があると考えられます。

例えばCRPの測定値が低いことは、TKIを検討する重要な判断材料となります。また、腎細胞がんでは肺転移が一番多いのですが、肺やリンパ節への転移は予後が比較的よく、脳や骨への転移は悪いとも言われます。そういった転移の部位や、転移した腫瘍のボリューム(腫瘍量)なども考慮すべきでしょう」と本郷さんは話す。

CRP(C-reactive protein):C反応性蛋白の略称。代表的な炎症反応マーカーで、体内の炎症の程度が高いほど血液中のCRP値が高くなる。進行性腎細胞がんにおいては、治療開始前のCRP値が高いほど進行が速く、再発リスクも高い可能性が指摘されている

ICIは必ずしも無敵ではない

もう一つ、本郷さんがTKI単独療法を推す理由がある。ICI特有の免疫関連有害事象(irAE:副作用)だ。

ICIは免疫細胞の攻撃機能を高めるので、正常な細胞に対する免疫反応までが過剰になることがある。そのため自己免疫疾患のような副作用を��すことがあるのだ。その影響は皮膚、肺、胃腸、肝臓、腎臓、内分泌器など、全身のさまざまな臓器に及ぶ。

例えば比較的頻度の高い胃腸障害(下痢や大腸炎など)は、30~40%の患者に見られるという。稀ではあるが重篤になる可能性もある。

また、これらの副作用の可能性のため、自己免疫疾患や間質性肺炎の治療中、または既往歴のある人はICI治療を受けることができない。

もちろん、TKIにも副作用はある。代表的なものがネクサバールやスーテントで比較的よく見られる手足症候群だ。このほか高血圧や血球減少、下痢などが挙げられる。

「ただ、これらの副作用は、TKIの場合は服用を止めると治まるのですが、ICIの場合は治療を止めてもirAEは治まらないことが多いのです」

また、費用も気になることではある。薬剤費(保険点数)が減額されたものの、ICIは高額な薬剤だ。分子標的薬も決して安価ではないが、ICIほど高額ではない。どちらも高額療養費制度を利用できる。

「ICI併用療法はirAEの発現頻度も高く、先に述べたように治療対象に幅広い患者さんが含まれることを考慮すると、すべての中リスク群の患者さんにICI併用療法が適応になるかどうかは、検討する必要があります。ICIは必ずしも無敵とは言えないのです。

中リスク群の症例の中からTKIが適応可能な患者さんを見極めるためには、中リスク群の細分化が必要です。今後、さらに臨床と検討を重ねていくことで、TKI単独療法でも十分に適応可能な症例像が明らかになっていくでしょう」と、本郷さんは力説する。

手足症候群:手や足にしびれ・痛みを伴う皮疹や潰瘍が生じる

新しい治療薬が相次いで承認!

明るいニュースとして、昨年(2019年)から今年(2020年)にかけて腎細胞がんの新しい治療薬が続々と登場している。

2019年12月には、①インライタ+キイトルーダ併用療法、②インライタ+バベンチオ(一般名アベルマブ)併用療法-の2つのTKI+ICI併用療法が相次いで承認された。

さらに2020年3月には、分子標的薬の1つであるキナーゼ阻害薬のカボメティクス(一般名カボザンチニブリンゴ酸塩)が承認された。アメリカでは2017年に進行性腎細胞がんの一次治療薬として承認されているが、日本では二次治療以降での適応となる。

カボメティクスについては、現在アメリカで転移性進行腎細胞がん患者を対象とした「CheckMate-9ER」という、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の併用療法を比較する第3相試験が行われている。

同試験では、ニボルマブ+カボザンチニブ vs. ニボルマブ+スニチニブの比較で、前者において、無憎悪生存期間(PFS)・全生存期間(OS)・安全性の面での評価項目で有効性が認められたという。

「近年、進行性腎細胞がんに対する免疫療法において、分子標的治療薬を組み合わせた複合免疫療法の開発が活発化しています。カボザンチニブを含め、これらの新薬がどのくらい治療効果を発揮してくれるか、副作用はどの程度なのか、今後の臨床や検討で明らかになっていくでしょう」と本郷さんは期待を寄せている。

1 2

同じカテゴリーの最新記事