腎臓を温存する部分切除のほうが長生きできる!? 小さな腎がん、「腎全摘」「腎温存」どちらがよいか

監修:亀山周二 NTT東日本関東病院泌尿器科部長
取材・文:半沢裕子
発行:2012年9月
更新:2013年4月

再発の危険性はないか

[図6 腎がんの手術療法]
図6 腎がんの手術療法

とはいえ、患者さんが気になるのは「腎臓を残して、本当に再発しないのか?」ということだろう。

これについて知っておきたいのは、たとえ腎臓を1つとっても、わずか数%だが、もう片方の腎臓に再発する可能性があるということだ。部分切除を受け、残った腎臓に再発する可能性も1~2%はあるという。

しかし、亀山さんはいう。

「T1aの腎がんに関しては、腎摘除と腎部分切除で、再発率も5年および10年生存率もまったく差がありません。ですから、『腎臓は2つあるから、がんになったほうは全部とってしまおう』という治療は、考え直すべきです。実際、T1aでは、腎部分切除がすでに標準治療になっています(図6)」

腎臓を温存したほうがいい理由はもう1つある。早期腎がんでも、再発・転移する可能性はゼロではない。このとき、もし腎摘除で腎臓を1つ失っているところに、転移した反対側の腎臓を全部とることが必要になったら、腎機能はすべて失われ、人工透析に頼らなければならなくなってしまう。しかし、最初の手術で片側の腎臓が少しでも温存されていれば、腎機能を維持できる可能性がある。

亀山さんが担当している患者さんにも、こんな人がいる。

「生まれつき、腎臓を1つしか持たなかった方に、2005年、72歳のとき、腎臓に11㎝のがんが見つかりました(3期)。最初は腎摘除を勧められましたが、転院して腎部分切除を行いました。3年後、肺に転移しましたが、分子標的薬の投与を受けながら、7年後の今日まで元気に過ごし、腎機能もほとんど低下していません」

ただし、残念ながら、がんのできた場所が臓器の深部で重要な血管に近いなど、がんが小さくても部分切除できない場合もわずかだがある。早期がんでは部分切除の可能性を確認しつつ、医師と相談して治療法を決める必要がある。

開腹か腹腔鏡下か

1期の患者さんが悩むもう1つのポイントは、「開腹手術か腹腔鏡下手術か」ということだろう。

おなかに1㎝大の穴を4~5個開け、そこから内視鏡(腹腔鏡)や手術器具を入れ、腹腔鏡で映し出される画像を見ながら手術を行う腹腔鏡下手術は、今日さまざまながんで行われている。

「泌尿器科の領域でも、副腎と腎臓の小さながんに対して行う方向性がだされました。年々多くの病院が行うようになり、比較的安全な手術実績をだしています。お腹を皮膚から腹膜まで切開して行う開腹手術に比べると、低侵襲(体への負担が少ない)であることは間違いありません。開腹手術の後遺症である腸の癒着が起こりにくいという利点もあります」

だが、問題は「技術が確立し、資材やスタッフの揃った病院は十分といえないこと」だと亀山さんは説明する。

[図7 腎部分切除の切除範囲]
図7 腎部分切除の切除範囲

体位は側臥位で、第6肋骨から腹直筋外縁まで切除する

また、現在のところ、腹腔鏡下で行う手術としては、腎臓を丸ごと取る腎摘除がほとんど。腹腔鏡下で腎部分切除を行うのは、さらに高度な技術を必要とするため、実施施設は限られている。

患者さんの気持ちとして、体への負担が少ない腹腔鏡下手術を希望するのは当然だが、自分の住む地域に十分信頼できる成績をもつ病院がない場合は、むしろ開腹による腎部分切除を受けたほうがいいといえるだろう。亀山さんも言う。

「今日、開腹手術でも傷は10㎝程度と、20㎝も切った昔と比べ物にならないほど小さくなっています。また、切開を4㎝程度に抑え、腹腔鏡とセットで手術を行うなど、開腹手術のデメリットを減らす工夫も各病院で追求されています(図7)」

ラジオ波焼灼術や凍結療法も

先に書いたように、部分切除は決して簡単な手術ではないので、患者さんとしてはその技術や症例数を参考に、病院を選ぶことが必要になる。もし、自分がかかっている医師が腎摘除をすすめ、腎臓を残したい気持ちが強いなら、やはり部分切除に実績のある病院を訪ね、セカンドオピニオンを得ることが大事だろう。

なお、小さな腎がんに対する治療法として、経皮的局所療法を行っているところもある。皮膚の上から針を刺して、がんの部分だけを焼く「ラジオ波焼灼術」、同様にがんを凍結させて取り除く「凍結療法」などがその代表だが、これらの治療法を選択するメリットはあるだろうか。亀山さんはいう。

「ラジオ波焼灼術も凍結療法も、『腎癌診療ガイドライン』では推奨度がC1、つまり、『エビデンス(科学的根拠)は十分ではないが、日常診療で行ってもよい』とされる治療です。かなり小さいもの、がんが臓器の表面にとどまっているものに限られると思いますし、すでに体調が悪く、全身麻酔や手術に耐えられないという患者さん以外には、選択するメリットが少ないように思います。早期の小さな腎がんの場合、部分切除でも腎摘除でも、また、開腹手術でも腹腔鏡下手術でも、10年の生存率が95%を超えている現在、まずは主治医と相談し、適切な手術を受けられることが重要だと思います」


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