分子標的薬をよく知り、QOLを保ちながら、自分らしい生活を送る 転移性腎がん治療が大きく変わったことはご存じですか?
選択肢が多いことのメリット
ただ、アフィニトールにも問題がないわけではありません。mTORという酵素は糖・脂質代謝に関係するとされ、高血糖、高脂質を招くリスクもあるといいます。このため、糖尿病や脂質異常症などの合併症を持つ患者さんは、糖尿病のコントロールをしっかり行ってからアフィニトールの治療を行うことが重要です。
「患者さんの中には、今使っている薬が効かなくなって切り換えるのは、がんが悪くなっているからだとマイナスイメージでとらえる方もいるようですが、決してそんなことはありません。治療の選択肢がたくさんあったほうが、長く人生を送っていく上で有利です。いくつもの選択肢があれば、その中でどれが今の自分に最適かを選ぶことができ、むしろ長生きにつながるとプラス指向でとらえてほしいですね」
がんの治療薬には、「順列組み合わせみたいなものがある」と堀江さんは指摘します。
同じ薬を使い続けると、どうしてもがん細胞は慣れてしまい、その薬の作用を上手に回避するようになります。こんなとき、違うルートからがん細胞にダメージを与えるような薬に切り換えると、より大きな効果が得られる場合があるのです。
このためチロシンキナーゼ阻害剤が効かなくなったらアフィニトールを使い、効かなくなったらまたチロシンキナーゼ阻害剤というように薬を替えていくと有効なことがあり、それが可能なのも、多くの分子標的薬が登場してきたからこそでしょう。
QOLの維持につながる飲み薬
アフィニトールは1日1回、5ミリグラムの錠剤2錠を服用します。1日のうちで同じ時間帯になるように決めて、空腹時に飲みます。グレープフルーツやグレープフルーツジュース、セイヨウオトギリソウを含む健康食品とは一緒に服用しないようにします。薬の濃度を変えずに一定にするためです。

一方、同じmTOR阻害剤でもトーリセ���は、週1回通院して30分から1時間かけて静脈から点滴により投与します。
「アフィニトールは自宅や仕事場などで服用すればいいので、患者さんにとっては通院が少なくて済み、扱いも簡単です。仕事をしている人にはメリットが大きいと思います。しかし、その分、自分で管理しながら服用していく必要があります。飲み忘れに気をつけなければなりません。飲み忘れたからといって、その分もと2回分まとめて飲むようなことはしてはいけません。また副作用が出てくるとつい飲みたくなくなる人がいますが、そうすると治療効果も下がりますので注意する必要があります」
そこで、堀江さんは患者さんに「服薬日記」などをつけることを勧めています。
「毎日の服用や出てきた症状などについて、『服薬日記』に記録しておくといいでしょう。書き留めると、薬を飲んだことのチェックになるし、飲んで治療していくことの自覚も出ます。また、治療の最初のころは何が起こるかわからないので患者さんは不安に思いますが、書くことでその不安も次第に取れてきます」
注意すべき副作用は?
前にも述べたように、mTOR阻害剤の副作用は管理可能な副作用が比較的多いのが特徴ですが、注意する必要があるものもあります。間質性肺炎、感染症、口内炎などです。
「mTOR阻害剤による間質性肺炎は、起こったとしてもすぐに医療者に連絡をして、薬を減らしたり、お休みする、または適切な治療を行うことで改善、治癒するのが特徴です。1番気をつけなくてはいけないのは発熱や咳、呼吸がしづらいなどの症状が出たら必ず受診することが大事。風邪かなと思うような症状でも診てもらったほうがいいでしょう」
服用によって体の中のリンパ球が減ったりするので、ふだんかからないような感染症にかかることがあります。冬場は手洗いやうがい、マスクをするなどして、感染症にかからないよう注意しましょう。また、結核やB型肝炎の既往歴のある患者さんは、眠っている細菌やウイルスが目を覚まして悪さをする可能性があるので、あらかじめ主治医に申し出る必要があります。
- 1 口の中を清潔に保つ
- 2 うがいをする
- 3 痛みをやわらげる
(痛み止めの薬を使う)
副作用として1番起こりやすいのは、くちびるやほほの内側、舌などに炎症を生じる口内炎。
「ひどくなる人は少ないです。ふだんからこまめにうがいするなどして、口の中を清潔にしておくことが重要です」
副作用は、個人差もあります。毎日の生活の中で、いつもと違った症状や体調の変化などに気づいたら、「服薬日記」などに記録しておくといいでしょう。それを外来受診の際に見せるなどして、主治医や看護師、薬剤師などと日ごろからコミュニケーションをとっていくことも大切。
「1番大事なことは、患者さん自身が副作用などに負けずに、病気を治療していくんだという強い気持ちを持つことです。それを助けるものとして、治療手引きなどの資料があり、主治医や看護師とのコミュニケーションも大事なので、困ったことがあれば私たちに何でも聞いていただきたいですね」

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