腎機能が低下しにくく、全生存率も高い 転移のない、小さな腎がんは「全摘」ではなく、「部分切除術」を!
術後にわかる良性腫瘍の場合には
腎臓がんの手術では、手術してみて初めて病名が明らかになることがある。手術前にきちんと画像検査をしていても、手術してみたら良性腫瘍だったということが起こるのだ。
「良性腫瘍だった場合、腎摘除術を行っていたら、明らかな過剰治療になります。その点、腎部分切除術なら腎機能を残すことができ、過剰治療を防ぐことにつながります」
もう1つ、腎部分切除術のメリットがある。実は、腎臓がんになった人は、5パーセントほどの確率で、反対側の腎臓にもがんが発生するのだ。
「もし、最初のがんで腎部分切除術を受けていれば、たとえ腎摘除術が必要になっても、腎機能を残せます。その点、最初に腎摘除術を受けると、反対側にがんができたとき、治療の選択肢が狭くなってしまいます。悪くすれば腎機能を失い、透析が必要になります」
腎臓は2つあるが、残せるものなら残しておいたほうがいいようだ。
どちらの手術でも生存率は同じ?

ここまで腎部分切除術のメリットを紹介してきたが、どちらの手術でも生存率に差がなかった、という研究結果も報告されている。それについても紹介しておこう。
ヨーロッパの多施設で行われた腎部分切除術と腎摘除術の比較試験で、対象となったのは5センチ以下の腎がん。T1a期より少し大きなものも含まれていたわけだ。
比較試験の結果は、どちらの手術を行っても生存率には差がない、というものだった。対象者を無作為に2群に分けて比較した試験なので、統計学的には信頼性の高いデータということになる。ただ、この研究にはいくつかの問題点も指摘されている。
「最も問題なのは、手術後の腎機能がわかっていない点です。腎部分切除術を行ったことにはなっていますが、それで本当に腎機能が温存されていたかどうかがわからないのです」
その他、予定していた症例数よりかなり少ない症例数で検討している、追跡不能例���すべて死亡として処理している、といった問題点もあるという。
「確かにエビデンスレベルの高い研究結果ですが、他の研究や我々のデータでは、腎部分切除術のほうが生存率もよくなっています。患者さんのためにも、私は腎機能を残す腎部分切除術を積極的に行っていきます」
少し大きながんでも腎部分切除術が可能
(糸球体濾過量45未満になるのを防げる割合・摘除術との比較)

現在、東京女子医科大学では、T1a期より大きな腎臓がんに対しても、腎部分切除術が行われている。転移のないT1b期(4~7センチのがん)に対する腎摘除術と腎部分切除術の治療成績を比較すると、症例数が少ないのではっきりしたことは言えないが、ほとんど差はないそうだ。差があるのは、手術後の腎機能である。
「T1b期に対する腎部分切除術の後は、T1a期に対する場合よりも、手術後の糸球体濾過量が少し低下します。切除する部分が大きくなるので、こうした傾向が現れるのです。しかし、腎摘除術を行った場合には、もっと大幅に低下してしまいます」
がんの大きさが4~7センチでも、腎機能を残すことができ、生存率に差がないのであれば、腎部分切除術を選択したくなる。将来的には、T1b期でも腎部分切除術が標準治療となる可能性もありそうだ。
腹腔鏡下での腎部分切除にも期待
また、もう1つの方向性としては、腹腔鏡を使った腎部分切除術も行われるようになっている。開腹手術だと20センチほど切開するが、腹腔鏡手術だと、1.5~2センチの切開が4~5カ所ですむので、患者さんの負担も少ない。その上、腎機能を残すことができるというわけだ。ただ、内視鏡下腎部分切除術を行える施設は、まだあまり多くないそうだ。
「腹腔鏡下手術はともかく、開腹での腎部分切除術はもっと普及すべき治療だと思います。最近は、腹腔鏡を使って腎摘除術を行うことが増えています。切開は小さくてすみますが、片方の腎臓を取れば、体は大きなダメージを受けます。将来のことを考えれば、たとえ開腹しても、腎臓を可能な限り温存したほうがいいはずです」
もちろん、誰もが腎部分切除術を受けるべきだというわけではない。
「腫瘍のある位置によっては、腎部分切除の難易度が高くなるものもあります。また、たとえば80歳で、転移のないがんの大きさが4~7センチのT1b期なら、腎機能の温存より、安全に手術することを優先し、腎摘除術を選ぶことも考えられます。逆に比較的若い患者さんであれば、できるだけ腎部分切除術を選択すべきだと思います」
腎がんの手術を受けるときには、腎部分切除術が可能かどうか、主治医に相談してみるとよいだろう。
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