さまざまなタイプの分子標的薬を使い分けながら、長期生存をめざす 転移性腎がんの治療に光明! タイプの違う分子標的薬が次々に登場
非淡明細胞がんにもmTOR阻害剤が効いた!
現在、初めて治療を行う腎細胞がんの患者さんにスーテントかアフィニトールのどちらかを割り当て、病気の進行に応じてもう一方にクロスオーバーさせる臨床試験が進められています。この結果によっては、アフィニトールが1次治療に使われる可能性も出てくると思います。
一方、もう1つのmTOR阻害剤トーリセルは、1次治療として、予後(*)不良のハイリスクな腎細胞がんについて臨床試験が行われ、インターフェロンと比較されました。その結果、無増悪生存期間も全生存期間も、インターフェロンより有意に延長したことが確認されました。この試験では、がんの組織型ごとにも効果が比較され、腎細胞がんの約2割を占める非淡明細胞がんに有効と確認されています。
アフィニトールとトーリセルの大きな違いは、アフィニトールが経口剤であるのに対し、トーリセルは注射剤であることです。アフィニトールは1日1回、5ミリグラムの錠剤を2錠服用します。最も大切なのは空腹時に飲むこと。食事の1時間以上前か、食後の2時間以降で、1日のうち同じ時間帯になるように決めて服用します。患者さんにとっては通院が少なくてすみ、扱いも簡単といえるでしょう。
一方、トーリセルは週1回通院し、30分から1時間かけて静脈から点滴により投与します。
*予後=今後の病状の医学的な見通し
対象患者 | 第3相試験に基づく 選択薬 | |
---|---|---|
1次治療 | 低リスク・中リスク | ス-テント |
アバスチン+インタ-フェロン | ||
高リスク(ハイリスク) | ト-リセル ス-テント | |
2次治療 | サイトカイン治療後 | ネクサバ-ル |
チロシンキナ-ゼ阻害剤治療後 | アフィニト-ル | |
mTOR阻害剤治療後 | チロシンキナ-ゼ 阻害剤臨床試験 |
副作用は比較的少なめ。セルフチェックを心がけて
- 基本的なブラッシング方法(バス法)でみがく
- 汚れの残りやすい部分(かみ合わせ、歯と歯肉の境目、歯と歯の間)はとくに注意してみがく
バス法によるみがき方
では、気になる副作用はどうでしょう。mTOR阻害剤で起きる副作用は大まかにいって3つです。
最も注意が必要な副作用は、間質性肺炎です。治療開始前から検査を定期的に行い、慎重に観察することと、咳、発熱、息切れなどの自覚症状が出た場合は、すぐに主治医、薬剤師に連絡することが大切です。
私たちの病院で間質性肺炎を起こした患者さんもCT(*)でごく早期に発見し、2週間の休薬で回復されました。回復したら薬を再開できるのも、アフィニトールのメリットでしょう。
口内炎もよく起こります。薬を飲み始めた直後1カ月以内に出ることが多いようです。ひどくなると唇や舌、口腔粘膜に潰瘍ができ、痛みます。しかし、正しい歯みがきの仕方を心がけて口の中を清潔にし、乾燥しないように気をつけることが重要です。また、痛みが強い場合は痛み止めの薬を使用します。がまんできない場合は薬を減らしたり、一時休薬したりします。
もう1つは骨髄抑制で、赤血球が減れば貧血になり、血小板が減れば出血が止まりにくくなり、白血球が減れば細菌感染しやすくなります。自覚症状が出たときは手遅れになる場合もあるので、検査と診察を欠かさず、異常があったらすぐ医師に相談してください。
とにかく、副作用対策で大事なのは予防と予知です。口内炎のように予防できるものは予防し、間質性肺炎や骨髄抑制のように予防できないものは予知に努める。つまり、観察や検査を欠かさず、副作用をできるだけ早く察知し、対処することです。
そのため、副作用について患者さんに事前にお話しすることが大切です。症状が出たとき、「やっぱり来た」と感じるか、「なぜこんなことが……」とあわてるかでは対応に大きな差が出ます。
分子標的薬の目的は、あくまでがんの増殖を抑えることです。副作用はつらいですが、できるだけ休まずに続けることで最大の効果が得られます。うまく副作用対策をし、何とか乗り切っていただければと思います。
*CT=コンピュータ断層撮影
新しい薬、新しい使い方。希望を持って治療に臨もう
最後に、4剤の登場で転移性腎細胞がんの治療がどう変わるか、簡単にまとめましょう。
米国臨床腫瘍学会で出された治療方針では、1次治療ではスーテントを、またハイリスクの予後不良例にはトーリセルを使うことが勧められています。インターフェロンの単独使用はもはや推奨されませんが、分子標的薬のアバスチン(一般名ベバシズマブ)と併用すると効果があるという報告があります。ただし、腎細胞がんの治療に対するアバスチンの使用は、まだ日本では保険承認されていません。
スーテントは腎細胞がんの1次治療に推奨されています。また、2次治療として、サイトカインが効かなくなったあとにはネクサバール、スーテントなどチロシンキナーゼ阻害薬が効かなくなったあとにはアフィニトールが推奨されています。
サイトカイン療法の出る幕は、世界的になくなりつつあります。日本では事情が違い、国内の統計でもインターフェロン単独が結果を出していますが、大きな流れとして単剤での利用は少なくなっていくと思われます。ただし、1次治療でサイトカインが効かない例にネクサバールを併用したところ、結果が出たという報告もあります。薬の使い方や効き方は日本と欧米ではかなり違います。そういった意味でも、日本独自のガイドラインを作ることも急務でしょう。
今後、さらに新たな分子標的薬が近い未来に使えるようになります。今回ご紹介したmTOR阻害剤アフィニトールも含め、それぞれの薬の特徴を十分に知って、副作用をうまくコントロールし、患者さんのQOL(生活の質)を保ちながら薬物治療を続けていくことが大事であると考えています。
(構成/半沢裕子)

Eur Urol. 2010 Feb;57(2):317-25.
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