傷口が小さく負担が少ない 腹腔鏡による腎がんの部分切除
数あるメリットで普及が強く望まれる

[血流を止めるのに使用する腹腔鏡用血管クリップ]
内視鏡下テンポラリー血管クリップ アプリケーター
φ12.5㎜、有効長400㎜
腹腔鏡による腎がんの部分切除は、開腹手術による腎全摘や部分切除より高度な技術を要する。一般的に腎臓の外側へ向けて発育するタイプの腫瘍は、マイクロ波で焼き切りながら止血が可能な電気メスで比較的容易に切除できるが、腎臓の内側(腎盂・腎杯)に向けて発育するタイプや、腎門部(腎動脈、腎静脈、尿管が集まっているところ)に隣接するタイプの腫瘍は切除するのがきわめて難しい。血管や尿管、腎杯などが、しばしばマイクロ波電気メスによって損傷を受けやすいからだ。
後者のタイプの腫瘍は、まず腎動脈等の血管をクリップで止め、阻血後にぎりぎりの安全域を設けて切除する。もし血管等が損傷したら、腫瘍の切除後に縫い合わせてから阻血を解除する。ただし、阻血が長引くと腎機能の低下を招き、一旦、低下した腎機能は回復することがないから、短時間のうちに処置しなければならないという時間制限がある。
「通常、血流を止めてから30分以上経過すると腎機能の低下を招きます。しかし、腎臓を冷やすと腎機能を低下させずに阻血時間の延長が可能であるということがわかり、最近はビニール袋に入れた氷で腎臓を冷却するなどしながら手術しています。腎臓は氷などで20度前後に冷却しておくと、阻血時間が1時間を超えても腎機能の低下を招きません」(寺地さん)
腎臓を温存する腹腔鏡による腎がん部分切除は、こうしたさまざまな工夫によって普及してきた。高度な技術を要するため、まだ限られた病院でしか行われていないが、患者にもたらされるメリットは大きい。
腹腔鏡による腎がん部分切除の第1の利点は、腎臓が2つとも残るので、腎機能の低下に対する心配が少ないという点だ。将来、事故や怪我、病気などによって片方の腎臓が障害を受けても、もう片方の腎臓でカバーできる余裕が持てる。
第2の利点は手術で切らなかった���う片方の腎臓にがんが発生しても、十分な治療を施すことができる点だ。腎がんの患者のうち、もう1つの腎臓にがんができる可能性は1~2パーセントといわれる。最初にがんが発生した腎臓を残し温存しておけば、もう片方が4センチ以上の進行がんとして発見された場合でも、ためらわずに腎全摘術を受けられる。
第3の利点は先述したように患者の肉体的負担が少なく、早期の社会復帰が可能な点だ。
第4の利点は術後の病理検査で良性腫瘍と判明した場合でも、腹腔鏡による部分切除ならば腎臓を失うことが避けられるという点だ。北海道大学医学部付属病院では腎臓がんという診断の下に手術で切除した組織を調べたところ、68例中7例が腎嚢胞や腎血管筋脂肪腫などの良性腫瘍だったことが報告されている。誤診率は10パーセントにのぼったのだが、これは現状の腎がんに対する検査・診断能力の限界といえるものだ。いまのところ致し方ないとはいえ、腹腔鏡手術による腎部分切除ならばダメージを最小限に抑えられる。
腎がんは抗がん剤による化学療法や放射線治療がほとんど効かない。手術で切除するのがもっとも有効な治療法だからこそ、患者にやさしい手術が望まれている。腹腔鏡による腎がん部分切除の普及が強く望まれるゆえんである。
腹腔鏡による腎がん部分切除を行っている主な病院
・東海大学医学部付属病院
・京都大学医学部付属病院
・天理よろづ病院
・東京女子医大付属病院
・北海道大学医学部付属病院
・北里大学医学部付属病院
・名古屋大学医学部付属病院
・関西医科大学付属病院
・神戸大学医学部付属病院
・慶應大学医学部付属病院
・滋賀大学医学部付属病院
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