肝・胆・膵がんの基礎知識 新しい化学療法など治療選択も多い 解剖学的には近接 がんの観点からは類似点と相違点が

監修●森実千種 国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科医員
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2013年10月
更新:2019年9月

それぞれの治療の最新情報を

肝がん

肝がんには、ラジオ波焼灼療法(病巣に直接電極針を刺入し、100度Cの高熱でがん細胞を壊死させる治療)や、肝動脈化学塞栓療法(カテーテルを肝臓の動脈に挿入して抗がん薬や血流遮断のための塞栓薬を流す治療)といった内科的な処置による治療が多く行われています。

最近では、重粒子線治療や陽子線治療といった放射線治療や、凍結融解壊死療法(クライオアブレーション)や薬剤溶出性ビーズを使用した肝動脈化学塞栓療法など、新たな技術や治療法が開発・提案されています。いずれも期待されている治療法ですが、これらの治療が今まで一般的に行われてきた治療と比べて効果や副作用の面でより優れているのか、という点についてはこれから詳しく検討されていくことになります(いずれも2013年8月現在保険診療では行えません)。

また、抗がん薬に関しては、2008年にネクサバールという分子標的薬が肝がんに有効であることが海外で示され、翌年から日本でも使えるようになりました。近い将来に、もっと有効な、もしくは新たな治療選択肢として新しい薬が登場することが期待されています。

胆道がん

進行胆道がんにおいて、ジェムザールとシスプラチンの併用療法が予後改善に寄与していることが証明されています。現在は、ジェムザールとTS-1の併用療法が期待されていて、ジェムザールとシスプラチンの併用療法と治療成績を比較する大規模な第Ⅲ相試験が国内で進行しています。

術後化学療法に関しては、確立されている方法はありませんが、ジェムザール、TS-1、ゼローダなど、いくつかの期待されている薬剤について第Ⅲ相試験が海外で行われていて、その結果が待たれます。

膵がん

進行膵がんに対しては、長い間、ジェムザール単剤治療、またはジェムザール+タルセバ併用療法が最善の治療法として用いられてきましたが、2010年にジェムザール単剤に対して、4剤併用のFOLFIRINOX療法がより有効である、という臨床試験の結果が海外から報告されております。

国内でも膵がんを対象にFOLFIRINOXの治験が行���れ、保険承認待ちです。さらに今年になってジェムザールとアブラキサンの併用療法がジェムザール単剤よりも優れているという成績が海外から報告されました。こちらも現在治験中です。そのため、これらの治療法は近い将来に患者さんに役立つことになるでしょう。

術後化学療法としては、今までジェムザールの術後6カ月間投与が推奨されてきましたが、日本で行われた第Ⅲ相試験の結果が今年(2013年)の1月に報告され、TS-1を術後6カ月間投与するほうが、さらに治療成績が改善されることわかりました。

ネクサバール=一般名ソラフェニブ ジェムザール=一般名ゲムシタビン シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシムカリウム ゼローダ=一般名カペシタビン

 

標準治療、臨床試験について
森実千種 国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科医員

がん治療を受けられる際に、ご自分が受けられる治療が「標準治療」なのか、「臨床試験」に参加する形で治療を受けられるのか、について意識してみることをお勧めします。とくに抗がん薬治療は、臨床試験を繰り返しながら少しずつ進歩していく領域なので、とても重要なことです。
標準治療とは、現時点で最善とされている治療法のことを言います。
この標準という言葉が曲者で、標準=並というイメージが持たれやすく(鰻の注文じゃ、並は一番安いですよね)、嫌がる患者さんもいます。しかし主治医が「標準治療」という言葉を用いる場合は、「特上」という意味で使っています。一方で、いくら現時点での「特上」といえども、「がんが完全に治り、副作用もない」理想的な治療法が発見されない限り、より良い治療法を求めて日々治療開発が続けられています。それが臨床試験です。
今ある標準治療は、これまでの臨床試験でよい成績だったために現在の地位を確立したわけです。肝細胞がんで言えばネクサバールが、胆道がんで言えばジェムザールとシスプラチンの併用療法が標準治療です。膵がんは今までジェムザール単剤療法やジェムザールとタルセバの併用療法が標準治療だったところに、臨床試験の結果でFOLFIRINOX(国内保険適用申請中)やジェムザールとアブラキサンの併用療法の成績が良かったため、標準治療に仲間入りした、ということです。
臨床試験に参加する、ということは現時点の標準治療よりも有効な治療に巡り合える可能性を秘めてはいますが、その保証はなく、実際には標準治療よりも有効性が劣ったり、副作用が強かったりすることもあり得るわけです。
そのため、ご自分の価値観などに照らし合わせて、「標準治療」を受けたいのか、「臨床試験」に参加したいのか、考えるとよいでしょう。 いずれにしても、1人ひとりの患者さんが、自分の生き方や考え方に沿った治療法を選択し、納得のいく治療を受けてもらえたら、と願ってやみません。

タルセバ=一般名エルロチニブ FOLFIRINOX=オキサリプラチン(一般名)+イリノテカン(一般名)+フルオロウラシル(一般名)+レボホリナート(一般名) アブラキサン=一般名ナブパクリタキセル(パクリタキセルのアルブミン懸濁型改良薬)

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