有効な治療法を適切なタイミングで!進行肝がんの治療戦略

監修●池田公史 国立がん研究センター東病院肝胆膵内科長
取材・文●柄川昭彦
発行:2014年12月
更新:2015年2月


肝動注化学療法か分子標的薬による治療

化学療法には、肝動脈から抗がん薬を注入する肝動注化学療法と、分子標的薬による全身化学療法の2つの方法がある。

肝動注化学療法は、肝動脈にカテーテルを送り込み、そこから抗がん薬を注入する治療法だ。使用される薬剤は、アイエーコール単独、5-FU とアイエーコールの併用などである。

「がんに対して直接的な効果が現れやすいのは、肝動注化学療法です。がんが縮小することもありますし、縮小した人では生存期間が長くなる場合もあります。ただし、肝動注化学療法に関する大規模な比較試験が行われておらず、生存期間を延長したという臨床試験データはありません」

これに対し、分子標的薬のネクサバールは、臨床試験で効果が確認されているという。代表的なのが、海外で行われたSHARP試験である。

手術や局所療法ができない進行肝がんの人を対象に、ネクサバール群とプラセボ(偽薬)群に割り付け、比較試験が行われた。その結果、がんが進行するまでの期間と生存期間の両方で、ネクサバール群がプラセボ群を上回るという結果が出たのだ(図3)。

もう1つ、日本は加わっていないが、アジアを中心としたアジア・パシフィック試験も行われている。この試験でも同じような結果が出ているという(図4)。

図3 進行肝がんに対するネクサバールの効果
(全生存期間、SHARP試験)

出典:Llovet JM et al.N Engl J Med 2008;359:378-90
図4 進行肝がんに対するネクサバールの効果
(全生存期間、アジア・パシフィック試験)

出典:Cheng AL et al,Lancet Oncol.2009;10:25-34

5-FU=一般名フルオロウラシル ネクサバール=一般名ソラフェニブ

血管新生を阻害することで がんの増殖を抑える

「ネクサバールによる治療で、がんが進行するまでの期間や生存期間が延長することは確認されていますが、実際に使ってみると、がんを小さくする効果はあまり期待できませんでした。それでも、延命に寄与するのが、この薬の特徴なのです」

ネクサバールは、マルチキナーゼ阻害薬と呼ばれる分子標的薬で、ターゲットとする分子が何種類もある。

「いろいろな作用がありますが、その中心となっているのは血管新生阻害作用です。がんは自分が増殖するため、���しい血管を作って血流を増やそうとします。その血管ができるのを阻害することで、がんが増殖するのを防ぐ働きをするのです。そのため、がんを小さくする力はあまりありませんが、増殖するのを防ぎ、患者さんの生存期間を延長するのに寄与するのです」

作用のメカニズムから考えても、がんを縮小させる力は弱いが、増殖するのを抑えてくれる薬なのである。

ネクサバールは経口薬で、1日に2回、朝夕に内服する。血管にカテーテルを入れるために入院が必要となる肝動注化学療法に比べ、簡便であるのもネクサバールによる治療のメリットと言えるだろう。

長く治療するためにも 副作用に対して適切なケアを

図5 ネクサバール服用中に発現しやすい副作用

ネクサバールによる治療を受ける際には、副作用に十分注意する必要がある(図5)。副作用によって治療を継続できなくなってしまう場合もあるので、できるだけ長く薬を使い続けるためにも、適切なケアを受けることが必要になってくる。

「患者さんにとって最もつらいのが手足症候群です。手のひらや足の裏に皮膚障害が現れ、痛みによって歩きづらくなることもあります。これを予防するには、クリームなどによる保湿が大切で、治療を始める前から皮膚の保湿を開始するようにしています。それでも症状がひどくなった場合には、ステロイド外用薬を使用します」

がんだけでなく 肝機能の維持が治療継続の鍵に

延命効果が確認されているネクサバールを治療に生かすためには、肝動脈化学塞栓術からどのタイミングで移行するかを、慎重に判断する必要がある。

「十分な効果を得られなくなった肝動脈化学塞栓術をいつまでも続けていると、肝機能が悪くなり、結局ネクサバールによる治療にたどり着けないことも考えられます。かといって、治療効果が高い肝動脈化学塞栓術がまだ効く段階で、ネクサバールに切り替えてしまうのはもったいない。効果のある薬をいかにしっかり使うかが重要です」

肝機能は1度悪くなってしまうと、移植をしない限り、元の状態に戻ることは難しい。治療を続けていく上では、がんだけではなく、いかに肝機能の状態を維持していくかが、重要になってくると言えるだろう。

残念ながら進行肝がんにおいて、近々画期的な新薬が登場することはないという。ただ現在、「肝動注化学療法+ネクサバール併用群VS.ネクサバール単独群」の比較試験が進められており、併用群の治療成績が上回れば、現在ある薬剤で新たな治療選択が増えることも考えられる。今ある薬剤を上手に使いながら、新たな治療オプションの登場を待ちたい。

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