門脈塞栓術、静脈再建術を活用し、肝機能を保つ手術が今注目 肝臓をなるべく温存。それが肝がん治療のカギ
肝がんでは局所療法が盛ん

腫瘍の数が3個以内、大きさが3センチ以内の場合、手術とともに経皮的局所療法も選択可能です。手術ができない人や望まない人はこちらを選びます。経皮的局所療法とは、お腹に刺した針を利用して直接腫瘍にダメージを与える方法。針の先端から発するマイクロ波の高熱でがんを焼き切るマイクロ波は凝固療法、針からエタノールを注入して、がんを壊死させるエタノール注入療法、そして、局所療法で1番治療効果が高いとされるラジオ波焼灼療法があります。これは超音波画像を頼りに体の外から肝臓へ針を刺し、ラジオ波の熱でがんを破壊する治療法です。肝がんは局所で膨らむように大きくなるタイプが多く、他のがんと異なり、局所療法がよく行われるのも特徴の1つといえるでしょう。
手術もラジオ波焼灼療法も適応できる症例については、どちらを行うべきかが、長い間議論となっています。
「それぞれに長所と短所があります。手術は腫瘍を直接肉眼で見ながら確実に切除できますが傷が大きく、回復に時間がかかります。ラジオ波焼灼療法は傷が小さく、回復が早いものの、直接病変を見ることはできません。いずれも短期的な治療効果は認められていますが、長期的にはどちらが優れているか結論が出ていません。そのため、私たちは3センチ以下、3個以下の初発の肝細胞がんに対する治療法では、どちらが有効かを比較検討する試験を行っているところです」

【主な副作用】
痛み、出血、発熱、腹膜播種、胆管や腸が痛む、がん細胞が生き残る可能性

【主な副作用】
痛み、出血、発熱、腹膜播種、胆管や腸が痛む、がん細胞が生き残る可能性

【主な副作用】
腹痛、腹膜播種、胆管や腸が痛む、がん細胞が生き残る可能性
肝臓の動脈を塞いでがんを兵糧攻め
手術も局所療法もできない場合、肝動脈塞栓療法が行われます。これは、足の付け根からカテーテルを入れてスポンジ状の栓で血管を塞ぐ治療法です。肝がんには肝動脈から栄養を取り入れる特性があるため、そこを塞ぐことによって栄養を送りこめないようにしてがんを兵糧攻にするのです。しかし、この治療法はがんを完全に死滅させることは難しく、再発も多いのです。
動注化学療法は、カテーテルによって肝動脈へ抗がん剤を直接注入する治療法。5-FU(*)とシスプラチン(一般名)を併用する方法や、ファルモルビシン(*)を注入する方法、インターフェロンと5-FUを併用する方法などがあります。
進行再発肝がんの治療法として、肝動脈塞栓療法と動注化学療法以外に最近注目されているのが、がん細胞の特定の分子に作用してがんをたたく分子標的薬です。09年には、ネクサバール(*)が進行再発肝がんに保険適用になりました。今後は手術後の補助化学療法、手術前にがんを小さくして手術しやすくする術前化学療法にも使うことが期待されていますが、今のところ、その評価がはっきりするところまでには至っていません。
*5-FU=一般名フルオロウラシル
*ファルモルビシン=一般名エピルビシン
*ネクサバール=一般名ソラフェニブ
日本では肝移植は少ない
肝がんの治療において欧米と日本で明らかに事情が違うのが肝移植です。
「欧米のガイドラインでは肝がんの治療といえば肝移植が主流ですが、日本の場合は脳死ドナー(提供者)が少なく、生体肝移植が中心なのでなかなか実施できません」
肝移植の実施基準である「ミラノ基準」では腫瘍の数が3個以下、腫瘍の直径が3センチであれば、肝障害度がCで移植が認められ(腫瘍が1個なら腫瘍径5センチ以内)、保険も適用になるのです。とはいえ、日本において肝移植はまだ特殊な治療法といえます。
肝がんでは手術、ラジオ波焼灼療法、肝動脈塞栓療法の3大療法が初回治療全体の3割ずつ行われ、化学療法や放射線療法はほとんど行われていません。
「肝がんの治療は、その進行度に応じてさまざまな治療法がありますが、今後はウイルスのコントロール、肝硬変に対する対策も大切です。肝機能を少しでもよくできれば、再発が減って肝がんの治療成績は上がるからです。そして、分子標的薬など新薬の有効性が認められれば、治療手段は増え、肝がん治療の将来は大いに期待できると思います」
長谷川さんは力強く、こう説明しました。
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