肝がんでも治療が始まった「体にやさしい」HIFU治療

監修:森安史典 東京医科大学病院消化器内科主任教授
取材・文:町口 充
発行:2009年10月
更新:2013年4月

超音波ガイド下HIFUはメイド・イン・中国

HIFUには大きく分けて2種類があり、1つは直腸から超音波を発生させるプローブを挿入して照射するタイプのもの。もう1つが、肝がんの治療で使われているような体外から照射するタイプだ。

直腸から入れるタイプはアメリカやフランスで開発され、主に前立腺がんや前立腺肥大症の治療に使われている。一方の体外から照射するタイプはイスラエルと中国で開発され、東京医科大学病院で使われているのは中国製。イスラエルの装置はMRIガイドで操作するのに対して、中国の装置は超音波で得られる画像を頼りに(ガイド)操作する。

「MRIガイドのものはおもに子宮筋腫や乳がんなどの治療に使われます。温度を知ることができる、肥満など患者さんの条件に左右されない、などの利点もありますが、装置が高額で操作するには労力が必要、超音波に比べると空間分解能が低い、つまり細かい画像が得られにくい、などの弱点があります。
これに対して、超音波ガイドはリアルタイムでモニターできる、空間分解能が高い、治療もそれを映し出す画像も同じ超音波なので理解しやすい、造影超音波を使うと血流のチェックができて治療の評価がしやすい、などの利点があり、肝がんのほか、膵がん、腎がんなどの治療にも使われています。ただ、空気があると音波が伝わらないので、肺がんなどには不向きです」

有効性はどうなのか? これまでの臨床試験の結果は、いずれも外国での試験結果だが、肝がんの患者68例のHIFU治療中、30例をHIFU治療のあと切除したところ、全例で焼灼されているのが確認された。

また、474例の進行肝がんに対するHIFU治療で、87パーセントが症状改善したとの研究報告がある。

HIFUと肝動脈塞栓術(TACE)併用と肝動脈塞栓術単独の無作為比較試験も行われていて、HIFU+肝動脈塞栓術の生存期間が11.3カ月だったのに対し肝動脈塞栓術単独では4カ月と、生存期間の有意な延長が認められたという。

同大病院では2009年1月から肝がんのHIFU治療が始まっているが、現在は有効性・安全性を研究中の段階。このため、本来なら外来でも可能だが、入院して治療を受けてもらっているという。

[治療前]
治療前のエコー画像
[治療後]
治療後のエコー画像


HIFU治療前後のエコー(超音波)画像。矢印の部分が病変

焼ける範囲が非常に小さい
3センチで3時間��かる問題点

問題点もある。それは焼灼域、つまり治療できる領域が非常に小さいということだ。1回の照射で焼灼される範囲は3ミリ×3ミリ×10ミリ。米粒より少し大きいくらいだ。1個のがんを焼こうとすると照射を何度も繰り返さないといけない。

そこで、コンピュータで大きさを設定して、少しずつ焼灼域をずらしながら1列に焼いていって面をつくり、面を重ねていって塊にするという細かい作業を行う。

このため治療するのに時間がかかり、3センチの大きさの腫瘍を焼灼しようとしたらラジオ波なら15分だが、HIFUだと3時間ぐらいかかる。

1回の照射時間は約1秒。これを1度に3~5回連続して照射するが、この3~5回連続を1回分として300回照射すると3時間かかり、ようやく焼灼が完了するという。

「それでも、針を刺すわけではないので、麻酔は必要ないし、出血の心配もないので分割照射が可能です。今日はここまでやって、翌日次の面をやりましょうと分けて治療することができます」

同病院では3センチの腫瘍の場合、1日1時間の治療を3日間に分けて行っている。

副作用もまったくないわけではない。人によっては超音波が皮膚を通るとき、多少ピリピリすることがあるという。「お灸に似た感じ」と表現した患者もいるという。

また、肋骨に超音波が当たると傷みを覚えることがある。このため、なるべく骨にあたらないような工夫が必要となる。

骨に当たるとエネルギーが半分に落ちて治療効果も弱まってしまう。それならとエネルギーを倍にすると、皮膚とか骨、ほかの臓器にやけどなどの悪影響を及ぼす可能性があるので、注意深く行わなければならない。

図:HIFUの照射
ドーム型の装置を体に直接当てる。そこから病巣まで先細りになるように集中しながら照射する

写真:HIFU治療装置から照射される超音波
矢印の部分が腫瘍。HIFU治療装置から照射される超音波はこのように集中する

画期的治療法になるか
マイクロバブルの増強効果

焼灼域が小さい、あるいは肋骨などに邪魔されて効果が出ない、といった問題点を解決するため研究が始まっているのが、マイクロバブルを増強剤として使う方法だ。現在はまだ動物実験の段階だが、人に対する臨床研究も始まろうとしている。

マイクロバブルとは直径が数ミクロンの気泡のことで、超音波診断ではすでに造影剤として用いられ、効果を上げている。

超音波診断では、0.5ccのマイクロバブルを静脈から注射し、血液循環によって肝臓に到達したところを画像で観察するが、治療する際は、検査のときの20分の1の量を投与すればいいという。

「マイクロバブルに対して超音波を当てると、小さいエネルギーでも広く焼くことができます。従来だと3日間で3時間かけて3センチの腫瘍を焼いていたのが、マイクロバブルを増強剤として使うと、同じエネルギーで焼ける時間はわずか2分ですみます」

今のところは研究段階でもあるため診断用のマイクロバブルを用いているが、治療に特化した新しいマイクロバブルの開発も期待されており、有効性・安全性を確かめた上で、早期の実用化が待たれるところだ。

アメリカでは3センチ以下の肝がんが見つかるケースはゼロに近いが、日本では3センチぐらいで見つかるケースが7割も占めるという。

小さいものを見つけてピンポイントで治療しようとしたら、やがて、HIFU治療が肝がん治療の主要な選択肢の1つになるかもしれない。

マイクロバブルを使用せずに照射
マイクロバブルを使用して照射
HIFUで照射を行ったウサギの肝臓。(左)マイクロバブルを使用せずに照射・(右)マイクロバブルを使用して照射。マイクロバブルを使用した方がよく焼けているのがわかる


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