治療法を選択するための3大因子、「肝障害度」「腫瘍数」「腫瘍径」をしっかり把握することが大切 治療法がよくわかる「肝癌診療ガイドライン」のすべて
3大療法は、「手術」「局所療法」「塞栓療法」
治療アルゴリズムに登場する治療法は、「切除手術」「経皮的局所療法」「肝動脈塞栓療法」「動注化学療法」「肝移植」「緩和医療」の6種類である。それぞれについて、どのような治療なのかを簡単に解説しておこう。
切除手術
門脈という血管の分岐形式に従って肝臓を8ブロックに分け、がんができているブロックをそっくり取り除く手術が行われる。この手術法を区域切除術という。血流を考慮して肝臓を系統的に切除するため、それ以前の手術法に比べ、治療成績が飛躍的に向上している。また、出血量が少なくなり、手術による死亡率も激減し、現在では1パーセント程度になっている。

肝機能が正常であれば肝臓の65パーセントまで切除できるが、慢性肝炎だと30パーセント程度、肝硬変ではその半分の15パーセント程度しか切除することができない。
医師が実際に肝臓を見て、手に取って切除するため、がんを確実に取り除くことができるのが長所。また、切除した肝臓も詳しく調べるため、どのようながんがあり、それを取り切れたかどうかも明らかになる。開腹するため、患者さんに与える身体的な負担が大きく、2週間程度の入院が必要となる。
経皮的局所療法
超音波検査で確認しながら、体の外から肝臓に針を刺し、がんを死滅させる治療法である。現在ではラジオ波焼灼療法が一般的だが、その他にマイクロ波凝固療法やエタノール注入療法がある。
最初に開発されたのはエタノール注入療法だった。刺した針からエタノールを注入し、がんを壊死させる治療法である。
マイク���波凝固療法は、針の先端部分の電極からマイクロ波を発し、高熱によりがんを焼き切ってしまう治療法である。
ラジオ波焼灼療法では、針の先端部分の電極からラジオ波を出す。ラジオ波はマイクロ波より波長が長いため、あまり高温にはならないが、広い範囲の組織を死滅させることができる。
経皮的局所療法の長所は、患者さんの身体的負担が軽く、入院期間が3~5日と短い点。欠点は、がんがすべて死滅したかどうかを確認できない点である。また、最近ではラジオ波焼灼療法だけでは効果が低いことが判明し、肝動脈塞栓療法を併用した複合療法が一般的になっている。
肝動脈塞栓療法
肝臓には門脈と肝動脈という2つの血管から血液が送り込まれるが、がんは肝動脈からの血液で養われている。そこで、脚の付け根などから血管にカテーテルを挿入し、それを肝動脈まで送り込んで、スポンジ状の栓で血管を塞ぐのがこの治療法である。肝動脈に栓をすると、がんに酸素や栄養を送り込めなくなり、がん細胞が死ぬことになる。
栓をする前に、肝動脈に抗がん剤を注入する肝動脈化学塞栓療法も行われている。
患者さんにとって身体的な負担の少ない治療法で、入院も1週間程度ですむ。ただし、がんを完全に死滅させることは難しく、再発するケースが多い。


72歳男性のCT画像。10センチあった肝がん(上)が、肝動脈塞栓化学療法によって、3センチまで縮小した
動注化学療法
肝動脈までカテーテルを送り込み、そこから抗がん剤を注入する治療である。一般的に肝臓がんには抗がん剤はあまり効かないが、肝動脈に注入することで、全身化学療法より有効性が高まり、副作用も軽くなると言われている。ただし、この点に関しては十分な科学的根拠はない。
現在よく使われている抗がん剤は、5-FU(一般名フルオロウラシル)とシスプラチン(一般名)の併用、ファルモルビシン(一般名エピルビシン)、インターフェロンと5-FUの併用などである。
肝移植
患者の病気になった肝臓を全て切除し、提供者(ドナー)からの健康な肝臓を移植する治療である。日本では1990年から行えるようになった。ただし、脳死によるドナーがほとんど期待できないため、日本では生体肝移植が中心になっている。
すぐれた治療成績をあげているが、日本で行われている肝がんに対する肝移植は、現在でも年間100例に満たない。
緩和医療
肝臓がんに対する積極的な治療は行わず、QOL(生活の質)を低下させないために症状を抑える治療が行われる。
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