治療法を選択するための3大因子、「肝障害度」「腫瘍数」「腫瘍径」をしっかり把握することが大切 治療法がよくわかる「肝癌診療ガイドライン」のすべて
がんが単発なら切除手術を選択
患者さんの状態によって、どのような治療が選択されるのだろうか――。治療アルゴリズムに沿って解説していくことにしよう。
ケース1 「AまたはB」 「単発」

65歳男性の切除した肝がん。大きさは8センチにもおよぶ
68歳女性のCT画像。肝臓に5センチのがんがあるのがわかる
肝障害度がAまたはBで、腫瘍数が1個の場合である。治療アルゴリズムによれば、選択される治療は切除手術と、条件付きで経皮的局所療法となっている。肝障害度がBで、腫瘍径が2センチメートル以内という条件を満たす場合に限って、経皮的局所療法も選択することができるわけだ。
「腫瘍が1つだけの場合には、その大きさに関わらず、切除手術が第1選択になります。肝臓の状態がよくて、がんが単発の場合には、大きさが5センチでも10センチでも、切除手術の成績がいいので、こうなっています」
切除手術が第1選択で、経皮的局所療法は条件を満たした場合にだけ行えることになっているわけだが、残念なことに、この部分は守られていないこともあるようだ。経皮的局所療法を専門としている一部の医師によって、肝障害度Aの患者さんに対し、ラジオ波焼灼療法などの治療が行われているというのである。
「どうせ再発するのだから、ということで経皮的局所療法を行っているようですが、それは間違っています。肝障害度Aで単発という条件を満たした場合、長期生存に関しては切除手術のほうがはるかにいいですからね。最初の治療として何を選択するかは、患者さんの予後に大きな影響を及ぼします。このアルゴリズムを守ってほしいですね」
手術と経皮的局所療法のどちらも選択できる場合
ケース2 「AまたはB」 「2、3個」 「3センチ以内」
肝障害度がAまたはB���、腫瘍の数は2個か3個で、腫瘍の大きさが3センチメートル以内の場合、治療法としては切除手術と経皮的局所療法のどちらも推奨されている。この条件を満たすときには、どちらの治療法を選択しても、ほぼ同等の結果が期待できるということである。
「3個以内、3センチメートル以内というのは、経皮的局所療法の適応限界とされています。勧められるのはここまでという限界ですね。この条件を満たす患者さんは、基本的には手術でも経皮的局所療法でもいいのですが、心臓が悪いとか、出血傾向が強いとかで、手術が適さないこともあります。そういう人でも治療できるのが、経皮的局所療法の強みです」
ケース3 「AまたはB」 「2、3個」 「3センチ超」
肝障害度と腫瘍数はケース2と同じだが、腫瘍径が3センチメートルを超えている場合である。大きさが経皮的局所療法の適応限界を超えているので、推奨される治療法は、切除手術と肝動脈塞栓療法になる。
「腫瘍数が3個までであれば、腫瘍の大きさに関わらず、手術も適応になります。経皮的局所療法はできませんが、代わりに肝動脈塞栓療法が推奨されています」
半数の患者さんが受ける肝動脈塞栓療法
ケース4 「AまたはB」 「4個以上」
肝障害度はAかBだが、腫瘍の数が4個以上ある場合、選択できる治療法は、肝動脈塞栓療法と動注化学療法になる。
「腫瘍が4個あっても手術で取ることはできるし、取っていた時代もあります。ただ、そういう人の肝臓はがんができやすい状態なので、手術してもすぐに再発してしまうのです。ですので、腫瘍が3個までが手術の適応となっています。4個以上だと経皮的局所療法の適応限界も超えているので、第1選択の治療法は肝動脈塞栓療法で、動注化学療法も選択することができます」
肝動脈塞栓療法と動注化学療法を比較すると、広く行われているのは肝動脈塞栓療法だ。適応範囲が広いため、この治療を受ける患者さんは多い。
「100人患者さんがいると、第1次治療として肝動脈塞栓療法を受ける人が50人くらいいると思います。また、第1次治療で手術や経皮的局所療法を受けた人でも、再発すると、多くは肝動脈塞栓療法の適応となります。この治療法は、腫瘍の数や大きさの条件が悪くなった患者さんを、しっかり支えてくれているわけです」
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