肝臓にやさしく身体にも優しい、反復繰り返し治療できる点が注目される 新剤形抗がん剤の登場で進化する肝がんのIVR治療

監修:淀野啓 鳴海病院院長
取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2009年9月
更新:2013年4月

早期のがんにはラジオ波焼灼療法

肝臓がんの病期は、1期から4期に分類される。分類基準は(1)腫瘍が単発である(2)腫瘍の直径が2センチ以内である(3)脈管に浸潤していない――の3点で、いずれの条件も満たしている場合は1期、2項目が合致している場合は2期、1項目が該当する場合は3期、いずれの条件もあてはまらない場合は4期に区分される。ちなみに4期のなかでも、肝臓外に転移がある場合は、4B期に分類される。

そのなかで1~2期の比較的早期のがんに適用されるのは肝切除手術や、ラジオ波による治療だ。ラジオ波焼灼療法は、超音波あるいはCTで患部を観察しながら、ラジオ波を用いて摂氏100度前後の熱で、がんを焼く治療法。この治療は早期の肝臓がんに対するもっともポピュラーな治療法で、5年生存率も70~80パーセントに達している。とはいえ、この治療では対象範囲が限られている。

「ラジオ波による1回の焼灼範囲は直径3.5センチが限界です。実際の治療では、浸潤の可能性を考えて周辺の組織も焼灼範囲に含めます。そのことを考えると直径2.5~3センチの腫瘍がこの治療の限界とも考えられます。実際、肝臓がんの肝臓移植についての国際標準とされるミラノ基準と同じような、3センチ未満の腫瘍が3個以内の場合に限ると条件づけられています」(淀野さん)

肝臓がんに新たな道を拓いた抗がん剤

[肝動脈(化学)塞栓療法(TACEまたはTAE)]
図:肝動脈(化学)塞栓療法(TACEまたはTAE)

では、それ以上に腫瘍が大きかったり、血管浸潤などがある場合はどんな選択肢があるのだろうか。

1つは、肝動脈(化学)塞栓療法と呼ばれる治療法だ。淀野さんが肝臓がん治療の主軸にすえている治療法であり、IVRによる肝臓がん治療の半分がこの治療で占められている。2期以降で、血管浸潤がある場合の治療、また手術やラジオ波焼灼療法後の再発した症例で、肝動脈(化学)塞栓療法や肝動注化学療法が行われているという。実際にどんな治療なのか。

「肝臓がんはほとんど例外なく肝動脈を介して栄養を取り込んでいます。そこで大腿部のつけ根からカテーテルを挿入し、肝臓の腫瘍部��まで到達させ、ジェルパート(商品名)などのゼラチンスポンジ塞栓物質を流し込むことでがんに栄養を与えている動脈を塞ぎ、がん細胞を兵糧攻めして壊死させる治療法です。最近ではリピオドール(※1)に抗がん剤を混ぜて投与し、その後さらに塞栓することで、がん細胞を2重に攻撃する肝動脈化学塞栓療法が一般的です。当然ながら、この場合には、リピオドールや塞栓物質によってがん細胞の栄養摂取ルートを断つとともに、抗がん剤で直接がん細胞を攻撃するという『ミサイル療法』としての効果も期待できます」

と、淀野さんはこの治療のメリットを指摘する。

ところで、この治療法が最近注目を集めているのには理由がある。

すでに述べたように、肝臓がんに効果を持つ抗がん剤はごくわずかに限られている。その数少ない1つであるシスプラチン(一般名)は、従来の製品(商品名ランダ)では、低濃度(1ccあたり0.5ミリグラム)の水溶液製剤であり、シスプラチン100ミリグラムを投与する場合には200ccと大容量溶液での投与となり、投与に時間がかかりすぎた。またリピオドールと混じりにくいという欠点があることからなかなか治療に用いられなかった。しかしシスプラチンを1粒30ミクロン以下の極微細な粉末状に加工したアイエーコール(商品名)と呼ばれる新薬が登場してからは、状況が大きく変化したという。

「アイエーコールは、10ccのリピオドールに100から200ミリグラムの量を混ぜることができるようになりました。抗がん剤の濃度が高くなることで、がんを攻撃する効果も高まり、安定性も利便性も向上しています」と、淀野さんは語る。

ちなみに淀野さんは以前から、そうした微粉末状にすることの利点をよく理解しており、2日がかりでシスプラチンを凍結乾燥させて微粉末化した院内製剤を作成し、治療に用いていた経験があるという。

[リピオドールと混ざりやすくなったアイエーコール]
リピオドールと混ざりやすくなったアイエーコール

この治療で用いられるカテーテルの直径の先端が1ミリ以下で、挿入後も体には5ミリ程度の傷しか残らない。実際の治療ではカテーテル挿入後、腫瘍の位置や栄養動脈を正確に確認してからリピオドールや抗がん剤、塞栓物質が注入される。淀野さんによると、注入に要する時間は10分程度、治療終了後カテーテルは速やかに抜き取られ、すべての治療を含めても所要時間は1時間程度という。もっとも治療後は4~5時間程度の安静が必要だ。入院期間はほとんどの場合1~2週間程度だ。

もちろん患者の体にもたらされるダメージが小さいことも、この治療法の大きなメリットだ。カテーテルなどの器具を用いることで、動脈を傷めてしまったり、動脈瘤の発生、感染症の危険などのリスクも少しある。しかし、治療対象が限局されているため、全身にダメージが残ることは少ない。淀野さんの患者の中には、この治療法を15回も繰り返したケースもあるほどだ。

※1 リピオドール=油性の造影剤


同じカテゴリーの最新記事