肝臓がん、これだけは知っておきたい基礎知識 手術だけでなく化学療法の進歩にも期待
がんの状態と肝機能から治療法を選択する
肝臓がんは、比較的転移しにくいという性質を持っている。そのため、外科手術をはじめとする局所療法が、根治治療として行われてきた。しかし、肝臓がんの切除手術は、他の消化器の手術とは根本的に違う側面があるという。
「がんの種類によっては、がんのできている臓器を大きく切除することができます。たとえば、胃がんであれば胃の全摘手術があります。患者さんは食事量が減ってやせますが、問題なく社会生活を送ることができます。同じように、胆管や胆のうも、あるいは膵臓も、全摘しても人間は生きていけます。膵臓を全摘するとインシュリンを注射で補うなど管理が大変ですが、十分社会生活を営むことは可能です。ところが、肝臓をすべて切除したら人間は生きていけません。そこで、どれだけ肝機能を残すことができるのかを考えながら、治療していく必要があるのです」
肝臓の切除手術を行うのであれば、患者さんが生きて行くのに十分な肝機能を残せることが、最低限必要になってくるわけだ。そこで問題になるのが、肝臓がんのほとんどが、肝硬変や慢性肝炎の肝臓に発生してくるという事実。肝機能が低下しているところにがんが発生してくるので、治療が困難なことも多いのだ。
「肝臓がんの治療では、がんの大きさ、数、できている位置といったがんの多様性と、肝臓の機能がどの程度低下しているかという肝機能の多様性の両面を考えなければなりません。たとえば、肝機能がよければ手術できるがんでも、肝機能が低下しているために手術できないということはよくあります」
肝臓がんの治療法は多様だが、肝機能が高いほど選択肢が広く、肝機能が低下するほど選択肢が狭められることになるわけだ。
切除できるがんなら手術が最も根治性が高い
がんの状態と肝機能の状態から手術可能と判断される場合であれば、最も治療成績が優れているのは切除手術だという。肝臓がんの切除手術では、肝臓を8つの区域に分け、がんのできている区域を切除するという方法がとられている。
「肝臓の血流を考え、どの血管から血液が送られてくるかによって、1~8の区域に分けています。1つの区域は同じ血流支配を受けているので、区域ごとに切除することで根治性が高まり、肝臓を最大限残すことができるわけです。区域の中には、それより小さい区画があり、小さながんでは、ある区画だけを切除するという手術も行われています」
肝機能をなるべく残すためには、肝臓を小さく切除したい。しかし、ただ小さく切除しても、残した組織に血液が送られないのでは意味がない。肝機能を最大限残すためには、肝臓の血流を考えに入れた、区域や区画で切除するのが合理的なのだ。
肝硬変で肝機能が著しく障害されている場合には、切除手術はできない。しかし、がんがあまり進行していなければ、肝移植という方法がある。
「切除手術に比べればリスクの高い治療法ですが、この方法しかない患者さんで、長期予後が期待されるなら考えるべきでしょう。健康保険が使えるようになって、移植手術の症例数も増えてきています」
移植の対象となるがんには、大きさが3センチなら3個以下、5センチなら1個以下という基準がある。
手術以外の治療法もたくさん登場している
肝臓がんの治療は、がんが肝臓にとどまっていても、肝機能が低下していれば切除手術は行えない。また、肝機能が悪くなくても、がんがたくさんできているために、切除できないこともある。そこで、手術以外の局所療法がいろいろ開発されてきた。
「外科的な切除ができない場合には、カテーテル治療がよく行われています。肝動脈塞栓療法とか、抗がん剤の選択的動注療法といった治療法ですね。それから、体外からがんに針を刺して行うエタノール注入療法、ラジオ波焼灼療法という治療法もあります」
カテーテル治療とは、カテーテルという細い管を血管に入れ、それを肝動脈に送り込んで行う治療法だ。肝動脈を栓で塞ぎ、がんに血液が送られないようにするのが肝動脈塞栓療法。肝動脈に抗がん剤を注入し、高濃度の抗がん剤が肝臓に流れていくようにするのが、選択的動注療法である。
エタノール注入療法は、体外からがんに注射の針を刺し、エタノールを注入してがん細胞を壊死させる治療法。ラジオ波焼灼療法は、先端に電極のついた針をがんに刺し、高周波で周囲を加熱して、がん細胞を壊死させる。
「ラジオ波焼灼療法は、エタノール注入療法より成績がいいことが徐々にわかってきました。ただ、切除手術と比較してどうかということは、まだラジオ波焼灼療法のデータが十分に出ていないのでわかりません」
もう1つ、保険適応の治療法ではないが、粒子線治療(炭素線、陽子線)が先進医療として行われているという。粒子線は、通常の放射線と異なり、体の深部で大きなエネルギーを発生させる。そのため、周囲の正常組織への影響を極力抑え、がんに大きな線量を照射することができるのだ。医療費は高額になるが、肝臓がん治療の選択肢の1つである。
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