渡辺亨チームが医療サポートする:肝臓がん編
再発と闘ったすえ、ホスピスでのおだやかな最期を選んだ
石井浩さんのお話
*1 肝臓がんの全身性抗がん剤治療
肝臓がんに対する全身抗がん剤治療でがんを小さくする効果が期待できるのは約10パーセント程度といわれています。しかし、がんが小さくなることと治ったり延命したりすることとは必ずしも結びつきません。つまり、肝臓がんが遠隔転移した場合に、有用な抗がん剤(あるいはその組み合わせ)は残念ながらないというのが現状です。
遅れている脳死肝移植
石井浩さんのお話
*2 肝硬変の他覚所見
肝臓は予備能が高いので、肝硬変で肝臓の一部に障害が起こっても、残りの部分がそれをカバーして働くため、症状が出ません。しかし、病状の進行とともに、外からでもわかる様々な症状が出てきます。黄疸はビリルビンと呼ばれる色素が血液中に異常に増加するために、皮膚や白眼が黄色くなってくる現象です。そのほか、肝硬変の進行とともに次のような症状が現れます。
クモ状血管腫
胸や肩、二の腕などに、クモが足を伸ばしたような形で中央が赤く盛り上がった斑紋が現れます。細い血管が拡張するために起こります。
手掌紅斑
手のひらの親指の付け根と小指の付け根(母指丘、小指丘)が赤くなります。
女性化乳房
男性患者だけに現れる症状です。女性ホルモンは男性の体内でも作られていますが、それがよく代謝されなくなるために、乳房や乳首が大きくなり、下着にこすれて痛みを覚えることもあります。
出血傾向
血液を固まらせる働きのある血小板の数が低下したり、肝臓で作られる凝固因子が不足するため、一度出血すると止まりにくくなる傾向があります。血液の固まる速度を示すプロトロンビン時間が延長することが目安になります。
腹部静脈の浮き上がり
肝臓につながる門脈の血圧が上がる(門脈圧亢進)のため、おへその周辺の静脈が拡張し、お腹の表面に青いミミズがはっているように浮き上がります。
腹水
漏出液が腹腔内にもれ出て、たまりやすくなります。
*3 チャイルド分類
チャイルド 分類A | 腹水や黄疸がなく、全身状態がよい |
チャイルド 分類B | 軽度の腹水や黄疸があるが、全身状態はよい |
チャイルド 分類C | (重度の腹水や黄疸があり、全身状態は悪い |
肝がんの重症度を示すために、他のがんでも用いる「ステージ(病期)分類」のほか、肝硬変の進行度で分類する「チャイルド分類」���併用します。A、B、Cの3つの段階のうちどれに分類されるかによって治療法などが決まります。チャイルド分類を決めるものは、脳症の有無や程度、腹水の有無や程度、血清ビリルビン値、血清アルブミン値、プロトロンビン時間(血液が固まる速さを計測してプロトロンビンというタンパク質の量を知る試験)の5つの要素です。チャイルド分類A、B、Cではおよそ右の表のような状態となります。
*4 化学予防
ビタミンKは、血液を固めるのに必要な「プロトロンビン」というタンパク質をつくるために不可欠なビタミンです。このビタミンKが肝臓がんの再発を抑えるかどうか臨床試験で検討されています。
非環式レチノイドはビタミンAの誘導体といわれるものです。長期にわたって服用することにより肝臓がんの再発を抑制するかどうかが検討されています。
これら両者を服用することにより肝臓がんの再発予防に役立つのではないかと期待されていますが、まだ薬の安全性を試す第1相臨床試験が行われているだけで、本当に有効かどうかはわかっていません。
*5 肝移植
海外では肝臓の脳死移植が進んでいて、肝臓がんの治療には肝移植が切除手術と並んで標準的に使われています。日本の移植は生きている人から、肝臓の左葉と右葉という2つの区域のどちらかを切り取って移植する生体肝移植がほとんどです。生体肝移植はドナーの危険性も無視できないために、日本では肝移植そのものがまだ広く普及していません。また肝炎ウイルスを原因とする肝臓がんでは、移植後の再発の問題もつきまといます。肝細胞がんに対する肝移植の一般的な適応は「ミラノ・クライテリア(3センチ以下の肝細胞がんの個数が3個まで、もしくは1個であれば5センチ以下)」という基準が有名です。しかし、肝細胞がんの大きさや個数に関わらず、他臓器への遠隔転移があれば肝移植の適応はありません。
*6 肝硬変の合併症
肝臓に流れ込む血液の流れは2系統あります。ひとつは肝動脈であり、もうひとつは門脈です。肝動脈血流は心臓から力強い拍動、血圧で肝臓に流れ込みますが、門脈血流は拍動のない低圧の腸間膜静脈からより低圧の肝臓内へ圧勾配でゆるやかに流れ込みます。肝硬変になり肝臓の中へ門脈血流がスムーズに流れなくなると、門脈血の大渋滞がおこり圧力が高まります。これを「門脈圧亢進症」といいます。
肝臓に流れなくなった血液は肝臓を迂回して心臓へ戻る道筋(側副血行路)のひとつである食道静脈に集中し「食道静脈瘤」をつくります。食道静脈瘤を胃カメラでみると血管がでこぼこに膨らんで蛇行し、赤黒いこぶ状にみえます。
門脈圧が高まるとリンパ流も停滞し、水分が腹腔内に漏れ出てたまりやすくなります(腹水)。その量は時に10数リットルにもおよび、いわゆる「カエルばら」を呈します。
また、肝臓を迂回する側副血行路が発達すると、肝臓の解毒作用を免れた血液が全身にまわります。この結果、とくに有害物質に弱い脳が真っ先に影響を受け、意識障害や精神症状を起こしますが、これが「肝性脳症」です。
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