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進行肺がんでも生存延長。抗がん剤による「維持療法」に期待

監修●坂 英雄 国立病院機構名古屋医療センターがん総合診療部長
取材・文●七宮 充
発行:2012年11月
更新:2013年7月

新しいアプローチ「維持療法」

■図3 ペメトレキセドを用いた維持療法の効果
■図3 ペメトレキセドを用いた維持療法の効果

L. Paz-Ares, et al., ASCO2012 Abstract LBA7507

もう1つ、非小細胞肺がんに対する新しいアプローチと期待されているのが「維持療法」です。

従来の治療は、導入としてプラチナ製剤を含む併用療法を4~6サイクル行い、がんが退縮したり病勢がおさまるといったん治療を打ち切り、がんが復活したときにまた2次、3次治療を始めるというスタイルでした。

一方、維持療法は、休薬観察期間を設けず、併用薬のうちの1剤をそのまま継続し、がんにもう一撃を加えようという方法です。坂さんによると、もともとは白血病など血液がんで用いられていた手法で、それを固形がんに応用したものだといます。

ただ、非小細胞肺がんを対象としたこれまでの試験はことごとく失敗し、研究者の間からはその有効性に疑問が投げかけられていました。

ところが最近、この考えを打ち破る成果が公表されたのです。これはパラマウント試験と呼ばれる海外の臨床試験で、進行した非小細胞肺がん(3B、4期)で、化学療法を受けたことのない939例を対象にしています。

まず、導入療法と呼ばれる初回治療(シスプラチン+アリムタ)を4サイクル行い、一定の治療効果のみられた539例をアリムタ投与群とプラセボ群に分け、維持療法を行いました。その結果、維持療法開始からの全生存期間は、アリムタ13.9カ月、プラセボ11.0カ月で、アリムタ群に有意に長くなっていました(図3)。

また、無増悪生存期間(病勢の進行がみられないで生存している期間)も、アリムタ群で有意に延長していました。

国内の試験でも良好な結果が

■図4 JACAL試験・全生存期間
■図4 JACAL試験・全生存期間

Kumagai T. et al., JSMO 2012, IS7-11

また、日本でも非小細胞肺がんを対象にしたジャッカルという試験が実施されています。こちらは、パラプラチンとアリムタ併用による導入療法を行い、その後、アリムタの維持療法��行うというもので、パラマウント試験と同じように、良好な結果が得られています(図4)。

このパラマウント試験は最初の治療で用いた薬剤のひとつを引き続いて用いる維持療法の有効を初めて証明したもので、坂さんは「標準治療法を変えるインパクトのある結果」とし、「これを裏づけとして、今、非小細胞肺がんに対する維持療法が広がりつつある」と話しています。

患者さんからのメッセージ せっかく救ってもらった命、前向きに生きていきたい

本多正克さん本多正克さん(75歳)

名古屋市に暮らす本多正克さん。現役時代は印刷会社の営業マンとして、市内の得意先を走り回っていた。病気らしい病気はしたことがなく、健康には人一倍、自信を持っていた。ところが、リタイア7年目に突然のがん宣告。しかも、進行していて手術ができないという。「どうして自分が? まさに青天の霹靂でした」と当時を振り返る。

肺がんなんかになるはずがない

本多さんは若い頃からの愛煙家。サラリーマン時代も、退職してからも毎日1箱は吸っていた。立派なヘビースモーカーだ。ただ、以前から痰がつまることがよくあり、奥さんからは「がんになるから止めなさい」とたびたび注意を受けていた。「でも聞き流してました。『うちの家系にはがんになった者はいない。がんになんてなるはずがない』と高を括っていましたね」
しかし、小言が重なるとちょっと気になる。潮時は、タバコの値上げが決まったとき。これで最後にしようと5カートンほど買い込んだ。数カ月でタバコはすべて煙となり、それを機にきっぱりと禁煙した。
ところが皮肉なことに、禁煙して3カ月後に、肺がんが発見される。きっかけはやはり痰だった。
「痰の詰まりがいつもよりひどく、うっとうしい。風邪かなと思い、近くのクリニックを訪れたのです。ほんの軽い気持ちでした」
症状を聞いた医師は、念ためとX線写真を撮った。すると、そこにわずかな異常が。精密検査を受けたほうがいいと名古屋医療センターに紹介状を書いてくれた。
揺れる気持ちで赴いたセンターでの診断はクロ。肺がんと告知される。

化学療法で影が消えた

がんが肺の中に散らばっているので、手術は難しく、抗がん剤で治療するとの説明。「正直もうダメだなと思いました」と本多さん。
数日後に入院し、パラプラチンとアリムタによる化学療法がスタートする。しかし、不安とはうらはらに経過は順調だった。1週間後には退院、その後は3~4週間ごとの通院で、合計6サイクルの治療を完了する。半年後には、肺がんの影も完全に消えた。現在は、アリムタによる維持療法を続けている。
初回の化学療法では、多少の吐き気、むくみなどの症状があったが、維持療法を開始してからは、日常生活に支障をきたす副作用はほとんどなく、元気にフィットネスグラブに通っているという。
実は本多さん、数年前、やさしく小言をいってくれた奥さんを亡くしている。気持ちの張りを失っていたところに、肺がんというダブルパンチ。苦しみながら1人生きていくのはつらい。治療などせず、このまま放っておいてほしいという思いが、何度か頭をかすめたという。
しかし、健康を取り戻した今、気持ちも変わった。
「せっかく救ってもらった命。前向きに生きていきたい」。本多さんは明るい表情でそう語ってくれた。

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