いかに最適な治療法を選択するか 肺がんの脳転移治療
推奨される放射線治療とは?

非小細胞肺がんでは転移が1つだけ(単発脳転移)の症例に対して、3㎝以上ならば手術プラス全脳照射、3㎝以下では定位放射線治療に全脳照射を加えるのがもっとも推奨される治療方法だ(図5)。全脳照射を追加することで局所再発が減少し、新たな病変を抑えることができるという。また、定位放射線治療単独の選択肢も残される。2個以上の多発脳転移には、全脳照射が標準的とされているが、4個以下(少数転移)の場合は、定位放射線治療単独でも生存期間が変わらないことが実証されてきている。臨床試験では、腫瘍の大きさが3㎝以下で脳転移の数が4個以下の場合について、全脳照射プラス定位放射線治療と、定位放射線治療単独とを比較している。
「定位放射線治療単独では新たな病変の出現が多かったものの、全脳照射に定位放射線治療をプラスした群と比べて、生存期間に有意差はありませんでした。つまり定位放射線治療単独も選択肢の1つになりうるわけです」
他にも現在さまざまな臨床試験が行われており、結果によっては治療方針が変わってくる可能性もありそうだ。
なお、小細胞肺がんの場合、脳転移を予防するため、抗がん剤治療がよく効いた患者さんに全脳照射を行う「予防的全脳照射」が推奨されている。これによって予後が延びることがわかっているからだ。
症状を早く取り除く手術

外科的治療に関して、患者さんの中には、「転移して治癒が臨めないのに頭���内の手術をするなんて……」と思う人も多いかもしれないが、奥田さんは「症状を良くする観点からも、外科的治療ができることは多い」と強調する。手術以外の治療法では、症状の早期改善は見込めないこと、症状改善が結果的に患者さんのQOL(生活の質)向上となり、その先の治療につながっていくからだ。頭にメスを入れて行う開頭腫瘍摘出術は、基本的に3㎝以上のものが対象で、全身麻酔がかけられ、3~6カ月の余命が確保できることなどが適応の条件。単発転移が1番いい適応例だが、多発転移でも可能だ。
「手術ができないものとしては延髄など脳幹にある病変や、手術によって障害が残る場合などがあげられます。あくまでも脳転移の手術では、QOLを良くすることが目的なので、患者さんの状態が悪くなるようなことはしません」
他にも手術法としては、「オンマヤ貯留槽留置術」という方法もある。脳内にポートを留置して、髄液腔内へ抗がん剤を投与したり、チューブから定期的に髄液を抜き、脳圧をコントロールする方法だ。
「ある70歳代の患者さんで、腫瘍部分に水がたまってしまう嚢胞性タイプの腫瘍で、寝たきりの方がいらっしゃいました。その方に局所麻酔で腫瘍部分にオンマヤ貯留槽を留置、注射針をさして水を抜くようにしたところ、腫瘍が縮小して症状が改善、歩けるようになりました」(症例6)
その他、脳脊髄液を外に逃がし、頭痛などの症状緩和をはかる「シャント手術」や、がん生検や水頭症*による症状を取り除く方法として「神経内視鏡手術」も行われている。
「高度な浮腫など重篤な症状を早く取り除くには手術以外に方法はありません。全身状態が悪く化学療法ができない患者さんの症状を早期に改善させることができたら、化学療法が再開でき、予後延長につながります。脳転移の治療では、致命的な状況を乗り切ることと、その先につなぐことも考えなくてはなりません」
*水頭症=頭蓋内に脳脊髄液が過量にたまることにより、脳そのものが圧迫を受けたり頭蓋内の圧が高くなったりすること
化学療法が効く場合も
脳には血液脳関門という、細菌やウイルス、薬物などをブロックする機能が備わっているため、脳転移治療で抗がん剤が選択されることは少ない。とはいえ、とくに小細胞肺がんでは化学療法の著効例も多く、パラプラチン*とエトポシド*の併用療法などによって、脳に転移した腫瘍が小さくなるようなケースを奥田さんは経験している。
また、イレッサ*やタルセバ*といった分子標的薬が高い効果を示すことから、これらの薬剤に反応のいい患者さんに対しては、脳転移の治療オプションの1つとして考えられると奥田さんは指摘する。
「脳転移治療では放射線治療や手術、抗がん剤といろいろな治療選択肢があります。今後は、個々の患者さんに合わせてそういった治療法をどう選んでいくのか、いわばテーラーメイド的な治療戦略が大切になってくると思います」
脳転移でもこれからは個別化治療がポイントになるというのだ。
*パラプラチン=一般名カルボプラチン *エトポシド=商品名ベプシド/ラステット *イレッサ=一般名ゲフィチニブ *タルセバ=一般名エルロチニブ
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