1. ホーム  > 
  2. 各種がん  > 
  3. 肺がん
 

肺がんの新しい遺伝子検査。どうやって調べるの?

監修●竹内賢吾 がん研究会がん研究所分子標的病理プロジェクト・プロジェクトリーダー
取材・文●半沢裕子
発行:2012年11月
更新:2013年6月

10年前の標本でも診断可能

現在、ALKの診断の95%はFISH法か免疫染色法で行われている。採取されたがん組織のほとんどは、通常の病理診断用にホルマリンで固定し、パラフィンブロックで保存されているが、どちらの方法もこの保存検体を使って行えるためだ。 保存検体が使えるのは、患者さんにとって非常にありがたい。再び生検を行わなくてもいいからだ。

竹内さんはいう。

「手術後10年間は大丈夫だったが、再発してしまった。その再発が体の深いところなので、もう1度組織をとることはできない。このような場合でも、10年前のパラフィンブロックを使い診断できます」

検査を行うのは医療機関の病理検査室か、医療機関が外注した検査会社だが、いずれの場合も患者さんの検体は、基本的に保存してあるという。

一方、RT-PCR法では、ホルマリンで固定した検体は使えない。固定するとRNAがズタズタに切れてしまい感度が落ちてしまうためだ。「RT-PCR法では、喀痰検査などで採取した検体や、凍結保存した組織などを使います。要は、検体によって診断法を使い分けるわけです」

高感度免疫染色法の開発

■写真4 従来の免疫染色法とiAEP法との違い

■写真4 従来の免疫染色法とiAEP法との違い

Takeuchi K, Choi YL, Togashi Y, et al. KIF5B-ALK, a novel fusion oncokinase identified by an immunohistochemistry-based diagnostic system for ALK-positive lung cancer. Clin Cancer Res. 2009;15:3143-3149

免疫染色法について、もう少し説明しておこう。

最初に見つかったALK融合遺伝子は、1994年、悪性リンパ腫におけるNPM-ALKだった。このとき、ALKタンパクに対する抗体がつくられ、ALK融合タンパクがあると茶色く染まる免疫染色法が可能となった。ところが、同じ抗体を使っても肺がんのEML4-ALK融合タンパクは染まらないケースがあったのだ。

「悪性リンパ腫のNPM-A LK融合タンパクに比べ、肺がんのEML4-ALK融合タンパクは、がん細胞内における量が少なかったんです。そこで、少ない量でも検出できるよう免疫染色の感度を高めました。ALKタンパクにくっつく抗体をがん組織にかけた後、その抗体にくっつく酵素が多くなるようにしたのです。酵素がある場所に色素をかけるとがんは茶色く染まります��つまり、1つのAL Kタンパクにくっつく酵素の数を増やすことで、少ないALKでも濃く発色することに成功したんです。これがiAEP法です」(写真4)

竹内さんが開発した高感度免疫染色法である「iAEP法」は、すでに診断キットとして商品化され一般病院や検査センターでも使われている。現在、体外診断薬としての承認に向けて準備中だ。

精度はどの診断法でも高い

■図5 ALK遺伝子検査の指針

■図5 ALK遺伝子検査の指針

肺癌患者におけるALK遺伝子検査の手引き(日本肺癌学会ホームページ参考)

日本肺癌学会が作成した「肺癌患者におけるALK遺伝子検査の手引き」では、2つ以上の方法によって診断するよう勧めている(図5)。

「初期の研究結果をもとにしているためでしょう。今は当初よりも精度があがり、どの方法でも結果に大差ないと思いますね。とはいえ、検査や診断を担当する人の習熟度で違いはありますし、そもそも100%の確度を持つ診断法は存在しません。

ALK陽性肺がんは比較的まれなので、今のところは念のため、2つ以上の方法で行うことを推奨しているということです」

現状では、最初に最も簡単で安価な免疫染色法を行い、陽性ならばFISH法で再確認するのが多くのパターン。検体によっては、RT-PCR法を行うこともある。

費用は免疫染色法が1番安く、患者さん自身の負担としては1万円~1万5000円くらい、FISH法とRT- PCR法がそれよりも高いくらい、というのが相場だ(ただし、まだ全ての検査が保険診療で認められていないため、正確には定まっていない)。

検査にかかる時間は、「すでに病理切片がある場合、免疫染色法で数時間。RT-PCR法で5時間程度。FISH法で2日間くらい」。ただし、検査会社に依頼している場合、主治医に結果が戻るまで1週間程は見たほうがよいそうだ。

現在ではEML4-ALK融合遺伝子についての情報が行きわたり、主治医が自発的に検査を検査会社などにオーダーすることも多くなったが、検査が行われているかどうか、どういう方法で行われたか、行われていればその結果を、患者さん自身が主治医に確認してみてもよいだろう。

遺伝子発見から新薬誕生も

竹内さんが率いる分子標的病理プロジェクトは、肺がんにおいて細胞を活性化させるチロシンキナーゼ部分がAL Kではなく、RETやROS 1である新たな融合遺伝子を発見し、今年2月に報告を行った。つまり、これらが陽性である患者さんにはRETやROS1を抑える薬を使うという新たな治療選択が生まれたのだ。

「今では、EGFR遺伝子変異陰性、ALK融合遺伝子陰性という結果が出ると、私が『RETやROS1融合遺伝子も調べますか?』と主治医に確認するケースも増えています」

もし陽性であれば、効くかもしれない薬を試す機会が得られる。

「ザーコリはROS1融合遺伝子にも効くといわれ、米国ではすでに有望な結果が出ています。RET融合遺伝子に効くと考えられるのは、たとえば腎がんに多く使われるネクサバール()です。がん研有明病院でも、小規模の臨床試験を開始しました」

個別化医療が進む肺がん治療。がんを引き起こす融合遺伝子が新たに発見されれば、その働きを抑える画期的な新薬が生まれる可能性は高い。1人ひとりのがんにあった治療を行うオーダーメイド治療が、もうそこまで来ているといえそうだ。

ネクサバール=一般名ソラフェニブ

1 2

同じカテゴリーの最新記事