骨転移、進行非小細胞肺がん1次および2次以降の治療 肺がん診療ガイドライン改訂! 進行肺がん治療などで、薬剤の処方例が追加
アバスチンの有効性はグレードダウン
「Ⅳ期非小細胞肺癌1次治療」について、もう1つ特筆すべきことは、アバスチン*の投与についてだ。非扁平非小細胞肺がんに対するアバスチン投与は推奨グレードがAからB。高齢者に対するアバスチン投与はC1からC2とグレードダウンした。その背景について江口さんはこう話す。
「アバスチンについては、いくつかの臨床試験において、積極的にトップ推奨する結果が出揃っていないという点、出血リスクなどの安全性の点が検討されたと言えます。また高齢者の場合は、アバスチンを併用する治療法に有効性や安全性を判断するだけの資料がなく、喀血、コントロール不能な高血圧、重篤な大血管の病気や消化管の出血などの既往症がある人に対しては慎重にしなければならないのです」
*アバスチン=一般名ベバシズマブ
肺がん治療における高齢者の定義は75歳以上に

さらに、13年版の『肺癌診療ガイドライン』からは、非小細胞肺がんの治療における、高齢者の定義は、70歳から75歳へ引き上げられたこともトピックスといえる。
「肺がんは、高齢者の患者さんが多いですが、昨今の患者さんの中には、75歳以上であってもお元気な方が増えています。70歳以上の高齢者を対象とした第3相試験では、75歳以上の方が多く登録されているのも実情です。また、我々、肺がん治療の臨床の現場においても、暦年齢ではなく、患者さん個々の元気さの指標であるPSや肝、腎、心肺などの機能に基づいて治療適応を決めているのが現状です。そこで、今回のガイドラインでは75歳以上を高齢者と定義することになったわけです」(図6)
骨転移の支持療法はデノスマブが有効
「骨転移、脳転移、胸部照射」の項目では、とくに骨転移に対する支持療法(サポーティブケア)が特筆すべき点だという。
支持療法とは、進行がんにおける症状や治療における副作用を軽減して、患者さんのQOL(生活の質)を少しでも良くするための治療だ。
「骨転移については、デノスマブ*による支持療法が追加記載されました。デノスマブを投与することにより、骨折など、骨に関する病状が発現するまでの期間を延長できるということが比較試験で証明されました。また、骨転移における従来薬のゾメタ*は、腎機能に問題があると投与できませんでしたが、デノスマブは投与可能です」
*デノスマブ=商品名プラリア *ゾメタ=一般名ゾレドロネート
遺伝子変異の解明によりますます進化する肺がん治療
全がん種の中で、死亡者数1位という肺がん。しかし、分子標的薬イレッサの登場以降、タルセバ、アバスチン、ザーコリ*など分子標的薬もお目見えし、今後も遺伝子変異を標的にした治療薬が出てくることが期待されている。
「Ⅳ期非小細胞肺癌の2次治療以降」でも、これら分子標的薬の処方例が追加されている。非扁平上皮がんALK遺伝子転座陽性の前治療としてザーコリ未使用例の3次治療では、「ALK遺伝子転座陽性に対するザーコリ投与はPSが0-2の大部分を占める第1・2相試験にて、奏効率61%、無増悪生存期間10カ月と良好な結果を示している。しかし、投与に際しては適応の慎重な検討が必要」としている(図7)(図8)。
「分子マーカーの陽性陰性を診て、薬を選択するようになってきています。腫瘍細胞の遺伝子検査によって効きやすい薬がわかります。今後はさらに世界中の研究により、様々な遺伝子変異を見つけることができれば、MET阻害薬*、免疫チェックポイント療法など、第2、第3世代の薬が選択肢に入ってくるはずです。もちろん、一方では薬剤耐性*という新たな問題も出てくるわけですが、大局的にみれば、治療の選択肢がどんどん増え、患者さんによって治療が細分化されていくようになるでしょう」
適切な治療を受けるためには、手術をしない症例であっても、組織を採取して腫瘍細胞の遺伝子変異やがんの組織型を確定診断する検査を受けて治療に臨むことが、これからの肺がん治療においては重要だと、江口さんは強調している。


*ザーコリ=一般名クリゾチニブ *MET阻害薬=c-Metという受容体型チロシンキナーゼを阻害することで効果を発揮する分子標的薬 *薬剤耐性=治療に用いられる薬剤を反復投与するうちに、効力が低下していく現象
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