初となる治療薬登場の可能性 肺がんに対するがん悪液質対策
期待される がん悪液質治療薬
がん悪液質を改善させる薬剤はステロイドのみという現状にあって、アナモレリン(一般名)の臨床試験が行われ、がん悪液質を改善する経口薬として期待されている。すでに海外では第Ⅲ(III)相試験まで行われ、日本でも、臨床試験(第Ⅱ(II)相)が進められているところだ。
まず、アナモレリンとはどのような薬なのか。
「簡単に言うと、食欲を増進させるホルモンであるグレリンと似た働きをする薬剤になります。体内では、胃でグレリンというホルモンが産生され、脳の下垂体中枢、食欲中枢に作用して、食欲を増進させ、成長ホルモン、タンパク合成の促進、筋肉量の増加などを促すことがわかっています。アナモレリンはグレリンと同じ作用を持つ薬です。しかも、グレリンは半減期が10分程度と非常に短いのに対して、アナモレリンは経口摂取でき、小腸で取り込まれるために、半減期が7時間と長いのが特徴です。そのため、炎症によって食欲が落ちている人にグレリン様作用を加えて食欲を増進させ、体重増加、除脂肪(骨格筋)体重の増加、筋力の改善、QOL改善を目指すことを目的にしています」(図2)

患者の活動性が増し、食欲も増進
臨床試験では、手術が適応とならないⅢ(III)/Ⅳ(IV)期もしくは術後再発の非小細胞肺がん患者で、過去6カ月以内に5%以上の体重減少が認められ、食欲不振、倦怠感、全身筋力低下などが認められる約160人を対象とした。プラセボ(偽薬)、100㎎、50㎎(各1日1回、12週間服用)の3群で検討し、その間も化学療法などがんに対する治療は並行して行われた。
悪液質の特徴である「筋肉低下に伴う体重減少」の改善を見るため、主要評価項目は除脂肪体重(骨格筋の重さ)、握力とし、副次評価項目として体重、QOLなどを見ることとした。
「その結果、主要評価項目の除脂肪体重、握力ともに、平均するとプラセボ群とアナモレリン群では、統計学的な有意差は出ませんでした。ただ除脂肪体重については、投与8週、12週時点と経時的に見ていくと、明らかに100㎎群で増加していることが確認されました」(図3)

一方、副次評価項目である、QOL、体重については、有意な改善が見られた。例えば、QOLについて細かく見ていくと、「活動性の面では、『日常生活』『30分位の散歩』、さらには『1人での入浴』といった項目に関して、100㎎群で明らかに活動性が増していることがわかっています。
また、身体状況についても『食欲はありましたか』『食事がおいしいと思いましたか』という質問に対して、100㎎で有意な改善が見られ、食欲増進作用が非常に高いことがうかがえます。担当の医師たちも、食事を食べられるようになって患者さんが元気になったことを肌で感じていました」、と横山さんは指摘する(図4)。

一方、副作用としては下痢や悪心などが見られたものの、軽度で少なく、とくに目立ったものは確認されなかったという。
難治性の状態でも QOL改善に向けて
この試験結果を受けて、再度第Ⅱ(II)相試験が行われており、現在データの解析中だという。
「良い結果が得られれば、第Ⅲ(III)相試験に進めると思います。まだ患者さんが使えるようになるまでには時間がかかりそうですが、有望な経口薬だと期待しています。肺がん治療の臨床医として、悪液質に対する治療薬がステロイド以外にない中で、患者さんやご家族は、QOLの改善を非常に望まれていて、そこを何とかしたいという思いが強くあります。新たな治療の手段が出てくることを期待しています」
ともすれば、生存率を高める花形の治療に目が向きがちだが、難治性の状態でも、患者さんのQOLを高める手段についてさらに研究が進むことが望まれる。
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