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手術の世界標準は「肺葉切除」。それよりも小さな切除でも安心か、現在臨床試験中 どこまで進んでいるか、肺がんの縮小手術

監修:鈴木健司 順天堂大学医学部付属順天堂医院呼吸器外科教授
取材・文:黒木要
発行:2010年6月
更新:2013年4月

前がん病変「すりガラス状陰影」の見極めが重要

[すりガラス状陰影CT画像]
すりガラス状陰影CT画像
向かって左側に、淡く映っている部分がすりガラス状陰影

そのCT画像ではがんは曇ったすりガラスのようにぼやけたように写るので「すりガラス状陰影」(GGO)という呼称があります。この病変は日本人の肺がんの大部分を占める「腺がん」の極めて早期の段階だと考えられています。切除してみると肺がんであることは確かなのですが、リンパ節転移がほとんど認められないからです。

「GGOの一部は腺がんの前がん病変であることがほぼ突き止められました。ただCT画像ですりガラス状の陰影を呈する病変は、肺の炎症の痕などまぎらわしいものがいくつもあって、それと将来的に腺がんになり得るGGOを区別しなければなりません。それがわからないと治療のしようがありません。たとえば炎症痕は放って置いても問題はなく、仮に切除したら明らかに過剰な治療になってしまいます」

最近、多くの研究の蓄積によって、すりガラスの模様のパターンなどから、腺がんであるものと、そうでないものの区別がつくようになりました。

「たとえばすりガラス状の陰影で、中央付近に周囲より濃く写る充実成分があって、その面積が広いほど転移する可能性が高いのです。そういう手がかりによってGGOを区分けして治療をすることが可能になっています。このGGOに対して、葉切除は身体負担が大きく、縮小手術がよい適応になるのです」

がんを取り残す危険は高くないか

では、肝心の縮小手術の治療成績はどうなのでしょうか。懸念されるのは、目に見えないがんの取り残しです。

肺がんの8割を占める非小細胞肺がんでは、大きさが3センチ以下で付近のリンパ節に画像上は転移のない1期の、いわゆる早期がんでも、治療後に10~15パーセントが再発するというデータ(肺がん全体では約40パーセントの再発率)があります。肺がんが難治がんたる所以ですが、手術範囲がより狭い縮小手術で、目に見えないがんを取り残す危険性が高まることはないのでしょうか。

実は1期の非���細胞がん患者247名を対象とした臨床試験が80年代に海外で行われています。これは縮小手術をする群が122例、葉切除をする群が125例を比較し、手術後の局所再発率や生存期間(無再発生存期間)などを一定の期間、追跡して調べたものです。

「それによると局所再発率は縮小手術群が葉切除群より3倍と高率でした。無再発生存期間は葉切除群の予後が良好でした」

海外の別の臨床試験では、手術後の5年生存率は縮小手術の区域切除では59パーセント、葉切除では77パーセントと、後者のほうが良好であったと報告されています。

反対に、縮小手術が葉切除と変わらないと結果が出た臨床試験は、エビデンス・レベルは少し落ちるがいくつもあります。

「縮小手術は葉切除よりずっと狭い範囲の切除ですから、理論的に考えても局所再発率が上がるはずです。問題はそれがどの程度なのか。日本人の肺がんは一般に欧米人の肺がんより悪性度は低いと見られているのですが、海外の臨床試験が対象としていなかったGGOで、縮小手術と葉切除の局所再発率はどの程度になるのか、5年生存率はどうなのか、といった点はまったくわかっていません」

現在そういった点を明らかにすべく、日本人を対象とした臨床試験が日本臨床腫瘍研究グループによって2つ行われています。1つは縮小手術が葉切除に比べて全生存期間でどれくらい劣るのかをエビデンス・レベルの高い試験で見るのが主目的。もう1つは縮小手術の部分切除の有効性と安全性をやはりエビデンス・レベルの高い試験で見るのが目的です。その結果が出るのはは早くても数年後です。

「縮小手術を今より安心して受けられるかどうかは、これらの試験によっておおよそ目途が立つといってよいかと思います」

縮小手術は希望できるか

では現状で、縮小手術を希望することは可能でしょうか。また希望しなくとも手術の選択肢としてそれが示されることはあるのでしょうか。鈴木さんは次のように答えます。

「適応条件に当てはまっていればあり得ます。自分で希望することも、医師から選択肢として示されることもあるでしょう。その場合、海外の臨床試験で報告された局所再発率などの説明が必ず紹介されます。それを考慮して受けるかどうか、お決めになればよいと思います」

それを自分で決めるのはなかなか大変です。鈴木さんは次のように助言してくれました。

がんにおける縮小手術として代表的なのは乳がんの乳房温存療法です。これも90年代になってから従来の標準療法であった乳房を全摘する乳房切除術と同等の治療成績が証明されたのですが、肺がんの縮小手術は乳房温存療法と同等に考えてはいけない、といいます。最大の理由は、乳房温存療法では乳房の部分切除後に目に見えないがんが残っている可能性を想定して放射線治療を加えたり、場合によっては薬物療法を加えたりします。しかし肺がんの場合は、乳がんに比べて放射線や薬物の効きが乳がんに比べて低いのです。したがって目に見えないがんに対する対策がとりにくい一面があるといえます。

こういった点を考慮しても、肺がんの縮小手術のメリットとデメリットは、患者さん個々によって違います。

GGOの人の場合、局所再発率を優先的に考えるか、体への負担軽減を優先的に考えるか、どちらも随意に選択できるので、余計に難しい判断となるかもしれません。

[小型腺がんの分類と治療法]
図:小型腺がんの分類と治療法
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