3次元シミュレーションが可能にした究極の胸腔鏡下肺腫瘍縮小手術
3次元でとらえるから胸腔鏡下でも高度な手術が可能に
早期末梢型肺がんや転移性肺腫瘍については、できるだけ小さく取る亜区域切除、多亜区域切除が理想と考えられる。
ところが、前述したように肺の中では気管支、肺動脈、肺静脈は肺門から分岐しながら交差していて、腫瘍との立体関係はとても複雑であり、もちろんこの構造は1人ひとり全部異なっている。
そこで、手術前に3次元的に腫瘍とその周辺の様子を把握して、どこをどう切除していくのかを検討しておく。大貫さんはこうした動機から3次元的CGシミュレーションソフトの開発を手掛けた。
「人気の高い『メタセコイヤ』という3次元CGソフトを使って、私がアプリケーション化したのです。肺の中の様子を忠実に再現できる3次元画像を作成できるようにしました」
このソフトは連続CT上で気管支・肺血管、腫瘍の画像を入力デバイスでなぞっていくことで、それらの座標がインプットされるようになっている。
これにより切除部分のはっきりした立体画像を得ることができ、また一瞬にして視角を横側からにも裏側からにもできるし、拡大・縮小もできる。
「注意深くメスを入れなければならない箇所や切断が必要な箇所も一目でわかります。不必要な範囲の切除を避けて最小限の剥離ですみ、肺静脈を中心とした多亜区域切除が可能になりました。また、所要時間の点でも開胸手術にも劣りません」
このソフトの登場により、今までできなかった手術ができる施設が出てきそうだ。
また手術スタッフがそろって見ながら情報を共有できるので、術者がやっていることをみんながよく理解できるし、全体の技術向上にもつながりそうだ。すでに東京女子医大の関連病院や大分大学では導入し始めている。

切除面を目立たせた画像

切除面を含む肺の画像
早期肺がん症例の激増に3次元CG画像の活躍は広がる
最近では、早期末梢型肺がんの症例が多くなってきている。
こうした症例に対しては、ラジオ波による焼しゃく(*)や定位放射線治療(*)や重粒子線(*)などの放射線治療などの選択肢もある。大貫さんは、患者さんの希望や適応を見ながらこれらの治療法を取り入れることも多い。
「ただし、放射線治療については片肺について1回しか照射できないという問題があり、間質性肺炎(*)が起こるリスクもあります。さらに放射線の1番の問題点は、病変を取り切るわけではないので、その影響で7~10年経ってからかっ血したり、気管支拡張症のようなことが起こったりする(晩期障害)こと。この点で病変を取り切ってしまう胸腔鏡手術は、より高いQOLを期待できるでしょう。放射線治療をお勧めするのは、扁平上皮がんや小細胞肺がんなどのケースです」
胸腔鏡手術をサポートする3次元CGシミュレーションは、今後おおいに活躍の場を広げていくと考えられる。また、動脈、静脈、門脈という3つの血管が複雑に走る肝臓は、肺に似た構造を持つことから女子医大の肝臓チームも、このソフトに関心を示しているそうだ。
切除部に電気メスが当てられた。プッ、プッ、プッ、プッと電子音が聞こえ、同時に白い煙が上がる。腫瘍部分が完全に切除できたようだ。
「よし、うまくいったぞ」
大貫さんの声。マスクの向こうの表情が和らいだのがわかった。
*ラジオ波焼しゃく=超音波で観察しながら、がんに電極を挿入し、ラジオ波で焼き、がんを壊死させる治療法
*定位放射線治療=病巣にのみ強力な放射線を照射し、周辺組織に対しては極力放射線が当たらないように考え出された方法。ガンマナイフなど
*重粒子線=放射線の一種。ピンポイントに照射することができるだけでなく、がんに対する殺傷の力も高い。先端医療
*間質性肺炎=肺炎が、肺胞や肺胞壁(間質)に起こる。非常に致命的であると同時に治療も難しい
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