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進行度だけではなく、がんの種類によっても治療が異なることに注意! 『肺癌診療ガイドライン』のポイントをわかりやすく解説する

監修:吉村博邦 北里大学呼吸器外科名誉教授
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2008年7月
更新:2014年1月

放射線と抗がん剤の併用で手術と遜色のない成果が

3期は、3A期か3B期かで、治療の方法が変わってきます。

3A期は、がんは肺の外の胸膜や横隔膜にまで広がっていますが、リンパ節転移はがんができた側と同じ側の肺門部(肺の根元の部分で、太い気管支や肺動脈、肺静脈が肺に出入りするところ)や縦隔(胸の中の1番深いところで気管や食道、大血管の周り)のリンパ節に限られるものです。ここが、手術の適応になるか否かの境目です。

吉村さんによると「以前は、完全に手術でがんを切除できた例でも5年生存率は26パーセントといわれたのですが、ここに術後補助化学療法を加えると治療成績がかなり向上することがわかり、現在では完全切除例には術後補助化学療法を行うのが標準的治療」になっているそうです。

ただし、3A期といってもリンパ節転移の状態はさまざまなレベルがあります。縦隔や肺門部のリンパ節が腫れていなくても顕微鏡で病理検査をしてみると転移が見つかったというものもあれば、最初から明らかにリンパ節が腫れてゴリゴリしているような場合もあります。吉村さんによると「手術のあとでよく調べたらリンパ節転移があったという場合には、データにもよりますが5年生存率は30~40パーセントぐらいあります。ところが、手術前から明らかにリンパ節が腫れている場合は10パーセント以下、7パーセントぐらいです。したがって、手術しても意味はない、してはいけないというのが現在の考え方です」と吉村さんは説明しています。

ただし、最近こうした手術適応にならない3A期の非小細胞がんに対して、術前化学放射線療法が注目されています。手術前に化学放射線療法を行って手術をしたグループは、5年生存率が13パーセントに向上したという報告もあるのです。「化学放射線療法でがんが縮小するなど非常によく効いた人だけをみると、手術をすると5年生存率は25~30パーセントにもなるのです。ですから、実際には治療効果には個人差が大きいのです」と吉村さんは語っています。ただし、これはまだ標準治療とするほど十分な根拠がないので、今後の研究が待たれているところです。

一般的には、手術の適応にならない3A期の場合には、放射線と化学療法の併用が行われます。吉村さんによると放射線治療だけでは5年生存率は5~10パーセント程度ですが、放射線と化学療法を併用すると16パーセントに向上、さらに放射線化学療法のあとにもう1度同じ化学療法を行うと、さらに5年生存率が高まるという報告があるそうです。

「手術の適応にならないからダメというのではなく、抗がん剤と放射線を一緒に使��ばそれほど手術に遜色のない成績があがっているのです」と吉村さんは話しています。

[放射線+化学療法(第2世代レジメン)
化学療法後に放射線照射 vs 化学療法と放射線の同時併用効果の比較]

報告者 治療法 症例数 生存期間
中央値
(月)
2年生存率
(%)
3年生存率
(%)
5年生存率
(%)
P値
Furuse1) MVP+TRT(同時併用) 156 16.5 34.6 22.3 15.8 0.04
MVP+TRT(遂次併用) 158 13.3 27.4 14.7 8.9  
Curran2)
(RTOG)
CT1+TRT(同時併用) 610 17.0 37 28 21a) 0.046b)
CT1+TRT(遂次併用) 14.6 31 18 12a)
CT2+TRT(HFX)(同時併用) 15.2 32 22 17a)
MVP:シスプラチン+硫酸ビンデシン+マイトマイシンCTRT:胸部放射線
CT1:シスプラチン+硫酸ビンブラスチン  CT2:シスプラチン+エトポシド
HFX:多分割照射法 a)4年生存率 b)CT1+TRTとCT1からTRTの比較
1)Furuse K et al:Journal of Clinical Oncology 17 :2692-2699 (1999)
2)Curran WJ et al : Proceeding of American Society of Clinical Oncology 22 : 621 (2003)

3B期、4期は化学療法が治療の中心に

一方、3B期は手術の適応にはならないので、放射線と化学療法が治療の中心になります。

3B期は、心臓や大動脈にまでがんが広がり、胸水がたまったり、反対側の首や縦隔のリンパ節などにも転移した状態です。この場合もシスプラチンを含む抗がん剤の2剤併用療法と放射線療法が基本で、化学療法には、シスプラチンと新規抗がん剤を併用します。ただし、ゲムシタビン(商品名ジェムザール)などは放射線と併用すると肺炎を起こしやすいので、ビノレルビン(商品名ナベルビン)を併用することが多いそうです。

吉村さんによると、5年生存率は16パーセントほどで、手術できない3A期とそれほど変わりません。つまり、ここまでがんが広がっていても、放射線と化学療法でがんが消え、完治することがあるのです。

「今は、放射線療法がよくなってがんに目標を定めてきちんと当てることができるようになりました。昔は、当たっていないところから再発したり、よけいな放射線障害も起きたのです」

ちなみに、1期でも高齢だったり、心臓に持病があるなどの理由で手術ができない場合、放射線療法だけでも5年生存率は3割にのぼるといいます。それだけ、治療の精度が向上しているのです。

ただし、放射線治療も局所療法です。胸水がたまるなど放射線療法が難しくなると4期と同じで化学療法が中心になります。

4期は、離れた臓器に転移を起こした状態です。この場合は、放射線療法ができないので化学療法が基本になります。

「原則としては、シスプラチンと新規抗がん剤の2剤併用療法を3週間ごとに4コース行いたいのですが、個人差があります。順調にがんが縮小する人もいますが、白血球の減少などで回復を待っているうちにがんも勢いを増してしまうこともあるのです」と吉村さん。全身状態が悪くて併用療法ができない場合でも、単剤ぐらいは使える人が多いそうです。

再発した場合には、これまでに行ってきた化学療法、つまりシスプラチンを含む化学療法が効かなくなったと考え、別の薬、基本的にはドセタキセル(商品名タキソテール)を使うのが標準的です。その上で、骨転移による痛みや脳転移には放射線を照射します。この場合は、痛みなどの緩和が目的なので、照射量は根治を目指した治療に比べると少なくなります。

分子標的薬は推奨レベルCだが今後に大きな期待

このように、一口に標準的な治療といっても、実際には患者さんそれぞれによって治療に対する反応も異なり、条件も違います。ガイドラインの中でも、どんなに優れたガイドラインでも60~95パーセントの患者にしか当てはまらないもので、実際の患者さんにガイドラインの勧告があてはまるかどうかをよく吟味することが大切だとあります。ガイドラインのとおりに全員を治療すればいいというものではないことも覚えておきたいものです。

吉村さんによると、おおむね「肺がんは発見された時には4分の3が3期か4期で、そのうち3分の2が4期。手術できる人は1~2期と3期の一部の人であり、全体の3分の1ぐらいで手術を受けた人の半分が治るというのが、日本の現状です」と語っています。そういう意味では、まだまだ厳しい現状にあるといえます。

その中で、今期待されているのが分子標的治療薬です。ガイドラインの中では、まだ非小細胞がんに対する推奨レベルはCです。しかし、ゲフィチニブ(商品名イレッサ)は日本人で女性、非小細胞がんの中でも腺がん、喫煙歴がないという人に効くことがわかっています。ある種の遺伝子変異があるためです。効く人の場合「投与して3日目ぐらいから縮小し始め、驚くほど小さくなって2週間ほどで消えることもある」といいます。ただし、がん細胞にもいろいろなタイプが混じっているので、結局2年ぐらいで効かなくなくなる人が大半です。

この使い方として吉村さんは「この薬は保健適応でも1日2~3000円する高い薬です。根治に使っても意味がないので、進行して放射線化学療法も効かなくなってきたとか、骨転移で痛みがある、といった時に最後の手段として使うと、最後の1~2年、症状を楽にして過ごすことができます」と語っています。酸素が必要だった人が歩けるようになるなど、しばらくは目ざましい効果があるといいます。

また、今後タルセバ(一般名エルロチニブ)やアバスチン(一般名ベバシズマブ)など新しい分子標的薬が出てきますが、とくに血管増殖因子の働きを阻害するアバスチンは化学療法と併用するとがんが消えるなど、その効果が期待されています。「アバスチンは最初から使える薬になるかもしれません」と吉村さんは期待しています。肺がん治療は、今後さらに進歩すると期待されるのです。

[肺がんの進行度(TNM)分類]

原発腫瘤の大きさ Tis上皮内がん T1 ~3cm以内 T2 3cm~ T3 T4
Nは関係なし
Tは関係なし Tは関係なし
Nは関係なし
遠隔転移所属リンパ節
MO
遠隔転移なし
N0所属
リンパ節転移なし
病期0 病期1A 病期1B 病期2B 病期3B   病期4
N1   病期2A 病期2B 病期3A  
N2   病期3A 病期3A 病期3A  
N3         病期3B
M1 遠隔転移あり   病期4

上図の補足説明

T-原発腫瘍

T1 肺組織または臓側胸膜に囲まれており、気管支鏡的にがん浸潤が葉気管支より中枢に及ばないもの(即ち主気管支に及んでいない)
T2 腫瘍の大きさまたは進展度が以下のいずれかであるもの
・最大径が3センチをこえるもの 
・主気管支に浸潤が及ぶが、腫瘍の中枢側が気管分岐部より2センチ以上離れているもの
・臓側胸膜に浸潤のあるもの
・肺門に及ぶ無気肺あるいは閉塞性肺炎があるが一側肺全体に及ばないもの
T3 大きさと無関係に隣接臓器、即ち胸壁、横隔膜、縦隔胸膜、壁側心膜のいずれかに直接浸潤する腫瘍:または腫瘍が気管分岐部から2センチ未満に及ぶが、気管分岐部に浸潤のないもの:または無気肺あるいは閉塞性が一側肺全体に及ぶもの
T4 大きさと無関係に縦隔、心臓、大血管、気管、食道、椎体、気管分岐部に浸潤の及ぶ腫瘍:同一肺葉内に存在する腫瘍結節:悪性胸水を伴う腫瘍

N-所属リンパ節

N1 同側気管支周囲および/または同側肺門リンパ節および肺内リンパ節転移で、原発腫瘍の直接浸潤を含む
N2 同側縦隔リンパ節転移および/または気管分岐部リンパ節転移
N3 対側縦隔、対側肺門、同側または対側斜角筋前、または鎖骨上窩リンパ節転移

(日本肺癌学会編:臨床・病理肺癌取扱い規約、金原出版、東京(2003)、P42.43より要約)

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