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がんの組織の種類によって治療がそれぞれ異なることに注意 縦隔腫瘍――あなたはどこまで知っていますか

監修:坪井正博 東京医科大学病院呼吸器外科准教授
取材・文:林 義人
発行:2008年7月
更新:2013年4月

針生険を避けたい胸腺腫

縦隔腫瘍はだいたい数ミリ以上の大きさならCTでとらえられる。CTで見つかった腫瘍が何かを質的補助診断するためには、MRI検査を行うことが多い。

「MRIで腫瘍の中の成分が水が主体ののう胞か、充実性の腫瘍かという見当がつきます。また、MRIなら腫瘍の中に出血あるいは歯とか髪の毛とか異物があれば見つけられるので、神経原性腫瘍や奇形腫などの診断がつきやすいのです」

さらに診断のためには腫瘍に針を突き刺して中の成分を採取して調べる針生検というものが行われる。腫瘍の部位が体表に近ければ外から針を刺すこともあれば、気管の周りにあれば気管から気管支鏡を入れてそこから針を刺すこともあるし、胸腔鏡で検体を採取することもある。また、部位によっては手術で検体を採取しなければならない場合もある。

「たとえば胸腺腫は初期であればカプセル(皮膜)で包まれた構造になっていますが、進行したいわゆる浸潤性胸腺腫であれば、腫瘍細胞がカプセルを破って胸腔や縦隔の中にこぼれると後にここから再発します。
生検のために針を刺すとこぼれてしまいやすいことから、私は胸腺腫が疑われる場合には基本的に針生検を避けて手術して完全に取り切ってしまうことを考えますし、患者さんには手術をお勧めします。カプセルが破れているかどうかはわずかな場合であればCTなどの画像診断で判断できず、手術して取ったものを顕微鏡で丁寧に観察しなければいけません。たとえば胸腺がんと胸腺腫の違いなどは、顕微鏡で見ると異型度(細胞の悪性度)が明らかに異なっているのがわかります」

縦隔腫瘍はその大半は良性なので、単純に考えれば切除しなくてもよい。しかし、画像だけでは良性の確定的な判断ができないこと、胸腺腫のように一見良性に見えるもののなかに悪性のものが潜んでいることなど、腫瘍が悪性かどうかを診断するために多くの症例で手術が必要とされている。

ただし、手術で腫瘍を摘出しても診断に難渋する例もある。たとえば悪性リンパ腫にはホジキン病と非ホジキン病があり治療法が違うが、この判別には病理の専門家さえ迷う例があるそうだ。

一方、縦隔腫瘍が悪性であるかどうかを診断するための補助として、血液に含まれる腫瘍特有の成分を目印とした腫瘍マーカーというものが用いられている。��隔腫瘍の中で胸腺がんはいくつかの扁平上皮がんのマーカーが反応する場合があるが、全体として腫瘍マーカーはそれほどあてにならず、参考にしかならない。

ただし、胚細胞性腫瘍ではAFP(α-フェトプロテイン)とかHCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)と呼ばれる胎児に関係したマーカーが特異的に上昇することがわかっていて、これが診断の材料にもなり、治療の指標にもなっている。

[胚細胞性腫瘍の種類と腫瘍マーカー]

  割合 AFP HCG CEA
精上皮腫 37.50%
胎児性がん 2 ++
がん奇形腫 14
奇形腫 29
卵黄のうがん 12 ++++
絨毛がん 2.5 ++++

最初の手術が肝心。確実性のある開胸手術

縦隔腫瘍でも何らかの方法で良性腫瘍と確実に分かっていれば理論的には切除しないでそのまま経過を観察しているだけでよいと考えられる。ただし、中にはおとなしそうに見えて徐々に進行するものがあるので診断内容を十分に理解する必要がある。浸潤性胸腺種の進行は緩やかで、最も進んだステージでも5年生存率は6割を超える。しかし、「どうせおとなしい腫瘍だから」と放っておくと後でとんでもないことに発展する例もある。

治療は縦隔腫瘍がどのような種類かによって診療科が分かれる。呼吸器外科として治療まで行う腫瘍は、主に浸潤性胸腺腫と胸腺がんだ。

「浸潤性胸腺腫のなかの一部は胸腺がんに限りなく近い悪性度を持ちますが、大半はカプセル(皮膜)に包まれているうちに切除してしまえば問題がありません。
しかし、カプセルを破ってこぼれた細胞が縦隔や胸腔に残っているととてもやっかいで、腫瘍を切除して一見治ったように見えていても必ず再発します。だから手術では必ず腫瘍の周りを大きく取ることになっているのです。
外科医によっては体への負担が小さいとされる胸腔鏡下で完全に取りきることを目指していますが、明らかに胸腺腫である場合、胸骨を割って行う手術がより確実に切除できるという意見が大勢を占めています。
胸腔鏡下で行うかどうかは腫瘍がどこにあって、どのくらいの大きさかによって決めるべきです。頻度が低いからあまり目立ちませんが、あとで再発した症例では『これは最初に行った手術がよくなかったな』と思うケースにも出会うことがあります」

[胸腺腫の隔床病期と5年生存率]

病期 病態(5年生存率)
1 肉眼的に、完全にカプセルに包まれている。顕微鏡的に、被膜への浸潤を認めない(100%)
2 周囲の脂肪組織または縦隔胸膜への肉眼的浸潤;被膜への顕微鏡的浸潤(98.3%)
3 隣接臓器(心膜、肺、大血管)への肉眼的浸潤(89.2%)
4a 胸膜播種または心膜播種(73.1%)
4b リンパ行性または血行性転移(63.5%)

肺がんの治療に準じて治療をする

胸腺腫の手術を行い、カプセルを破って中身がそばの血管、脂肪の中にまではみ出している場合は、術後に放射線治療を併せて行うこともある。ただし、この治療法を行ったほうが明らかに再発リスクを下げるというデータはまだない。たちの悪い胸腺がんに対しては必ず術後の放射線治療を行うが、症例が少なくこちらも本当にそれが有効だというエビデンス(科学的根拠)はまだない。

また、術前・術後の抗がん剤治療は行わない。まだ有効だというエビデンスがなく、肺がんなどに比べて抗がん剤の効果は低く、再発のリスクに比べればその毒性による副作用のリスクが大きいと見られるからだ。

「見つかったときに胸膜播種といって胸腔内で腫瘍細胞が種を撒いたように広がっている場合は予後がよくありません。抗がん剤治療を主体に、状況によって放射線照射を併せて行います。
ただし、本当にそれが治療法としてメリットがあるかどうかも確立していません。用いる抗がん剤も、まだどのような種類のものをどういうメニューで行うのがよいかわかっておらず、シスプラチン(商品名ブリプラチン、ランダ)とエトポシド(商品名ラステット、ベプシド)など肺がんの治療に準じて行っています」

また、胸腺腫の治療に当たって、重症筋無力症が合併していれば神経内科の専門医と合同で診療する。また赤芽球癆という血液の病気を合併していれば血液内科の専門医と一緒に診療することになる。

悪性リンパ腫については、呼吸器外科では診断のための腫瘍の摘出だけを行うが、治療は血液内科などが担当することになっている。

胚細胞性腫瘍についても手術は呼吸器外科で行うが、後は腫瘍内科とタイアップしながら進める。悪性の場合はまず抗がん剤治療を行い、腫瘍マーカーが正常化したら手術の適応となる。一般には抗がん剤が効きやすいがんだが、あまりうまくいかないケースもある。

神経原性腫瘍もほとんど良性で、整形外科とタイアップして切除手術を行うだけで治る。ところが、ごくまれに悪性のものがあり、ほとんど抗がん剤は効かず、放射線治療も難しく、坪井さんも「とても苦労したことがある」という。


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