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これだけは知っておきたい再発肺がんの治療 進化しつづける抗がん剤治療。希望を持ってがんと向かい合う

文:山本信之 静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科部長
発行:2008年1月
更新:2013年4月

頭部に転移が起こった場合

そのなかで頭部に転移が起こった場合を見ると、大きくは全脳照射と定位脳照射に分かれています。全脳照射というのは、その名称からもわかるように脳全体に放射線を照射する治療で、これが現在の肺がんが脳転移した場合の標準的治療法となっています。この治療法だと同じ脳のなかの目に見えない転移までも抑えられるメリットがある反面、正常な脳にも治療の影響が及ぶ危険があるデメリットもあります。

一方、定位脳照射は「光のナイフ」ともいうべきガンマナイフなどで、目に見える転移のある部分だけに放射線を照射する治療法で、正常な脳にはまったく影響を及ぼさないメリットがある反面、目に見えない転移を抑えることはできません。ちなみに、この治療法が行われるのは、目に見える転移がんが4個以内の場合に限られています。

この頭部への転移がんの治療でもわかるように、その人の状況によってがん治療の内容も変わってくることをご理解いただければと思います。

次々に登場する新・抗がん剤

[非小細胞肺がんの抗がん剤治療の変遷]
図:非小細胞肺がんの抗がん剤治療の変遷

最後に内科医という立場からもう少し、くわしく再発・転移がん、なかでももっとも患者さんが多い非小細胞がんに対する抗がん剤治療の現状をお伝えしておきましょう。再発・転移肺がんに対する抗がん剤治療の現状は、たしかに厳しいものですが、それでも最近になって、状況は大きく変化を遂げているからです。

まず現在、肺がんに対して用いられている主な治療薬はシスプラチン(商品名ブリプラチンもしくはランダ)、パラプラチン(一般名カルボプラチン)、タキソール(一般名パクリタキセル)など11種類です。よく肺がんの治療薬は少ないといわれますが、じっさいにはこれだけの治療薬があるのです。

そのなかでシスプラチン、パラプラチンはプラチナ系といわれる抗がん剤で、肺がん治療の中核として用いられているものです。シスプラチンは80年代に開発され、当時は現在ではあまり使われなくなったフィルデシン(一般名ビンデシン)、ベプシドもしくはラステット(一般名エトポシド)、マイトマイシン(一般名マイトマイシンC)などの抗がん剤と併用されて用いられていました。これは私たち専門家の間では、肺がんに対する第2世代レジメン(治療メニュー)と呼ばれています。

それが90年代になると、シスプラチンの改良型薬剤であるパラプラチンが開発され、さらにカンプトやトポテシン(一般名塩酸イリノテカン)、タキソール(一般名パクリタキセル)、タキソテール(一般名ドセタキセル)、ジェムザール(一般名ゲムシタビン)、ナベルビン(一般名ビノレルビン)などの抗がん剤も登場しています。シスプラチンもしくはパラプラチンとこれらを組み合わせた治療法は第3世代レジメンと呼ばれ、現在の肺がんに対する抗がん剤治療の主流となっています。

嬉しいことにこの第3世代レジメンは第2世代レジメンよりも効果の高いことが、すでに実証されています。言葉を換えれば10年という歳月で、肺がんに対する抗がん剤治療は一定の進化を遂げているといっていいでしょう。さらに現段階ではまだ評価は定まっていませんが、21世紀に入ってからもTS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)、カルセド(一般名アムルビシン)、イレッサ(一般名ゲフィチニブ)などの新薬が誕生しています。

変容する再発・転移肺がん治療

そうしたなかで薬剤の効果的な利用法も明らかになってきています。

たとえば前にいったように肺がんに対する抗がん剤治療は、効果が長続きしないという側面があります。とすると、ある抗がん剤の効果に限界が現われた場合には、別の抗がん剤を用いることになります。そのときに、それまで用いられていなかった場合には、タキソテールという抗がん剤が大変大きな効力を発揮することがわかっているのです。セカンドラインの抗がん剤として用いた場合、腫瘍縮小効果は10パーセント程度ではありますが、明らかな延命効果のあることが確認されているのです。

また最近になって開発されたイレッサは、一般の抗がん剤とは作用の性質が異なる分子標的薬といわれる薬剤で、効く人には高い効用があるものの、効かない人にはまったく何の効果も現さないことがわかっています。この薬を使った場合の死亡率は3パーセントで通常の抗がん剤の1パーセントに比べると、危険の大きい薬といえるでしょう。しかし現在では腺がん患者で非喫煙者の場合には、腫瘍が縮小する効果の得られることが多いことも判明しています。

こうしたことでわかるように再発・転移肺がんに対する抗がん剤治療は大きな変化を遂げ続けているのです。

最近ではまた、タルセバ(一般名エルロチニブ)という抗がん剤が新たに承認されていますし、これからは抗がん剤だけではなく、治療を困難にしている副作用を効果的に抑える薬剤もどんどん開発されていくことでしょう。そんななかで治療実績も向上しています。私が在籍している静岡がんセンターでも、腺がんの患者さんや非喫煙者の患者さんの延命率は、以前に比べると大幅に向上していることがわかっているのです。

たしかに抗がん剤では再発・転移肺がんの治療が困難であるのは事実です。しかし、快適な人生をより長く続けることは可能です。そのための新たな薬剤や治療技術も開発され続けているのです。もちろん無理をすることはありません。しかし現状が厳しいからといってあきらめたりせずに、明日に希望を持って病気に向かい合っていただきたいと願っています。

(構成/常蔭純一)


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