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心身の苦痛は我慢せず医療者に訴える 治療前後から始まる痛みや息苦しさは改善できる!

監修:田中桂子 静岡がんセンター緩和医療科医長
取材・文:池内加寿子
発行:2007年7月
更新:2013年4月

痛みの緩和は、WHO方式除痛法が基本。薬剤もいろいろ

[WHO方式がん3段階除痛法]
図:WHO方式がん3段階除痛法

肺がんでは、治療による痛み、病気そのものによる痛みなど、治療の前後から身体的な痛みを感じることがあります。前者には、手術後の痛み、抗がん剤の副作用による痛みやしびれなど、後者には、肺の膜(胸膜)への転移や、骨への浸潤・転移による痛みなどがあります。

「肺がんの開胸手術の際には、肋骨を開くときに肋間神経を傷めることが多く、開腹手術より術後の痛みを感じることが多いかもしれません。また、背骨などの骨に転移すると、圧迫骨折による痛みなども起こります。これらの痛みに対しては、WHO(世界保健機関)方式による3段階除痛法で対処するのが基本です。8割以上の患者さんの痛みがとれることがわかっています」

できるだけ経口投与で、規則正しく、除痛ラダー(右図参照)に沿って薬剤を積み重ね、個々人の適量を決定し、副作用にも配慮するのが原則です。

WHO方式 3段階除痛法

STEP1 NSAIDs(アスピリンなど)

鎮痛薬には、オピオイド(医療用麻薬)と非オピオイドがあります。どんな痛みでも、まず、非オピオイドのNSAIDsと呼ばれる鎮痛薬(非ステロイド抗炎症薬)を使って除痛します。代表的薬剤には、頭痛や生理痛にも使われるアスピリン、インドメタシン(商品名インダシンもしくはインテバン)、ジクロフェナクナトリウム(商品名ボルタレン)などがあります。

「薬剤それぞれに得意分野、不得意な分野がありますが、NSAIDsは、骨転移の痛みにも有効です。これは、骨破壊に関与するプロスタグランジンを阻害するためと考えられ、次のステップでも併用することが推奨されます」

ただし、NSAIDsは神経の痛みに弱いのが難点。神経系の痛みがあるときは、後述の「鎮痛補助薬」を併用します。

なお、肺がんの場合は乳がんや前立腺がんと異なり、ビスフォスフォネート製剤が骨転移の痛みに有効とのエビデンスはなく、高カルシウム血症に使われることはあっても、痛みや病的骨折の予防として使われることはほとんどないそうです。

STEP2 弱オピオイド(コデイン)

NSAIDsで痛みが十分に取れないときは、軽度から中程度の疼痛のための弱オピオイド鎮痛薬のコデインを追加する、とされていますが、日本ではあまり使われていません。

「コデインは量を増やしていってもあるところで効果がストップするため、痛みの強さが増していくときは、第2ステップをとばして第3ステップの強オピオイド(モルヒネなど)を少量から使うというやり方が現在の主流です」

STEP3 強オピオイド(モルヒネなど)

[モルヒネのいろいろ]
図:モルヒネのいろいろ

●モルヒネ 強オピオイドの代表はモルヒネ。1日180ミリグラム以下で85パーセントの人の痛みはとれるといわれています。

「天井知らずで量を増やすほど効果が高くなります。痛みもしっかりとれ、呼吸困難もラクになる万能薬です」

ただし、他のオピオイドに比べて副作用も強く、便秘はつきもの。眠気、吐き気、混乱などが起こることもあり、特に腎臓の機能が低下している場合、副作用は出やすくなります。便秘に対しては下剤を上手に使って防ぎましょう。導入時に予防的に吐き気止めを使うと吐き気が起こりにくくなり、薬に慣れると吐き気もなくなることが多いようです。また、それまでの痛みによる不眠が解消され、一時的に眠気が起こることも多いもの。これも次第に改善するのが普通です。眠くて困るようなときは、眠気をさます薬を使うこともできます。

モルヒネには、飲み薬(錠剤、粉薬、水薬)、座薬、注射薬などさまざまな種類があるので、痛みの程度や生活の仕方に合わせて処方してもらいます。飲み薬には、ゆっくり長く効く徐放性タイプと、効き目が早く効果の持続時間が短い速放性タイプがあります。よく使われるMSコンチンは徐放性の錠剤で、1日2回、12時間ごとに服用します。速放性の塩酸モルヒネ(粉末)やモルヒネ水(商品名オプソ)は、突発的な痛みに臨時に追加するレスキュードーズ(救済薬)として使います。

●オキシコドン 最近発売された半合成オピオイドで、少量の錠剤があるので便利です。1日2回服用する徐放性の錠剤(商品名オキシコンチン)は、モルヒネより副作用が比較的少なく、腎障害のある患者さんにも使いやすいので、日本でもよく使われるようになりました。

速放性の散剤(商品名オキノーム)は、レスキュードーズに使います。

●フェンタニル 貼り薬(商品名デュロテップパッチ)と注射液(商品名フェンタネスト)の2タイプがあります。貼り薬は、手のひらより小さな薄いシートで、2.5ミリグラム(モルヒネ約60ミリグラムに相当)から10ミリグラム(同240ミリグラムに相当)まで4サイズ。おなかや胸などどこに貼っても、鎮痛成分が皮膚から吸収されます。3日に1回貼り替えればよく、副作用も強オピオイドの中ではマイルドです。

[オピオイドローテーション]
図:オピオイドローテーション

「張り薬は量の微調整が難しいため、外来での導入時や少量でよい人には使いにくく、やや高価なのが難点ですが、量が決まって慣れてくると非常に便利。です」

◆オピオイドローテーション

モルヒネ使用時に副作用が強く、除痛効果が得られない場合、他のオピオイドに替えると、最小限の副作用で有効な除痛を得られます(右図参照)。オキシコドンやフェンタニルを使用しているときに、息苦しさが出てきたら、呼吸困難に効果的なモルヒネに戻すということもあります。

鎮痛補助薬

「骨に転移して神経を障害するときや、手術後や抗がん剤治療中のしびれるような、電気が走るような痛みなどの神経障害性疼痛(ニューロパシックペイン)には、早期から鎮痛補助薬を使い、NSAIDsと弱オピオイドか強オピオイドを重ねていきます」。

鎮痛補助薬としては、三環系抗うつ薬、抗痙攣薬、抗不整脈薬などを用います。

その他の方法

「痛みがあるときは薬だけで対応するのではなく、生活の工夫をすることも大切です」

たとえば、リハビリ医や整形外科医の診断・指導のもとでコルセット、松葉杖、車椅子などを使用して、痛みのある部位に余計な負荷をかけないようにすることもできます。


こうして痛みが消えた!Aさん(65歳)の場合

肺がんの抗がん剤治療後、背骨(胸椎)への骨転移により「背中が痛くて眠れない」と訴えていたAさん。緩和医療科の外来で、第1ステップとしてNSAIDsを始めましたが、痛みが増してきたので、第3ステップの徐放性オキシコンチンを5ミリグラム1日2錠から開始。体を動かすときに痛いので、動く前に予防的に、そして痛いときに追加として速放性のオキノームを内服したところ、痛みが消えて安眠できるようになり、だるさや気持ちのつらさも改善し、食欲も出てきました。


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