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最新標準治療 肺がん編 がんの進行具合を十分に考慮した上で、正しい治療の選択を

監修:中川健 癌研有明病院副院長・呼吸器外科部長
取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2006年4月
更新:2013年9月

3期の治療

術後補助療法か、放射線化学療法か

3期は、前にも述べたように、がんが肺を越えて隣の臓器に浸潤したり、縦隔リンパ節に転移したりしていますが、まだ肝臓や脳など、遠くの臓器には転移していない状態です。つまり、がんは原発巣から転移を始めているが、本格的な転移にまではまだ至っていないという非常に微妙な過渡期にある段階です。潜在的な転移の起きている確率はかなり高いことは確かなのです。したがって、この段階の治療も、手術を中心とした局所治療で叩いたほうがいいのか、化学療法を中心にした全身治療で乗り切ったほうがいいのか、大きな分岐点になるところです。同じ3期といっても3Aと3Bでは治療法が大きく異なることになります。

「3A期、ことにリンパ節転移の程度が軽い場合、すなわち縦隔リンパ節が1個だけ腫れていたり、その腫れが少し大きいといったような場合は、2期までと同じく、手術に術後補助化学療法をするのがいいでしょう。しかし、3A期でもリンパ節の腫れが大きい場合や3B期であれば放射線化学療法が推奨されます」(中川さん)

放射線化学療法とは、放射線と抗がん剤を併用する治療で、ここ数年、食道がんや子宮頸がんなどの分野でめきめき頭角を現してきた新しい治療法です。この併用療法は、本来は同時併用することが基本で、そのために放射線も抗がん剤も通常単独で使用される場合に比べて少し弱めの量が設定されています。この3期肺がんでは、シスプラチン(商品名ブリプラチン、ランダなど)を含む併用化学療法と放射線治療との同時併用が最も効果的であることが、大規模な臨床試験で明らかになっています。併用薬剤としては、シスプラチン+ビンデシン、ビノレルビン、カルボプラチン+タキソールなどが用いられます。

「だからできるなら同時併用がいいのですが、しかし、同時併用すれば、確かに効果は上がるのですが、骨髄抑制や間質性肺炎などの副作用も出やすいデメリットもあります。そこで、体力的に同時併用が無理な患者さんに対しては、抗がん剤治療を先行して、その後に放射線治療を連続的に行っていくこともしています」(中川さん)

なぜ進まない? 導入化学療法

ところで、少し前に、3A期の推奨される治療法として手術に補助化学療法と記しましたが、実は、それ以前は、癌研有明病院では、3A期の患者さんに対して導入化学療法という方法が採用されていました。これは、乳がんでは術前化学療法とも呼ばれている治療法で、まず最初に化学療法を行い、がんが小さくなったところで、手術でがんを取り除くという2段構えの治療です。これを肺がんでも実施していたというわけです。

「肺がんの場合、がんが小さ��なったからといって、乳がんのように温存療法ができるとか、切除範囲が小さくなるというわけではありません。しかし、導入化学療法は、遠隔転移を抑制するメリットがあります。肺がんの再発の多くは、術後の目に見えないがんによる遠隔転移が原因と考えられています。これが抑えられるわけです。しかも抗がん剤の感受性もわかるという利点もあります。そう考えれば、この治療はなかなかいい治療と思われるのですが、残念ながら大規模な臨床試験での実証がまだないのです。またこの治療が効かない場合には、手術のタイミングを逃すことになります。ですから、現在は停滞した状態です」(中川さん)

[非小細胞肺がんの標準治療]
図:非小細胞肺がんの標準治療

4期・再発の治療

全身治療の化学療法が中心

[抗がん剤による効果の症例]
写真:抗がん剤投与前

抗がん剤投与前。肺に多数の転移が見られる(小さな白丸の部分)

写真:抗がん剤投与後

抗がん剤投与後。多数あった肺転移が激減。著効を示した

4期は、原発巣からがんが遠隔の臓器へ飛んでいった状態ですから、明らかに全身病といっていいでしょう。これに対して効果を発揮するのは、手術でもなければ放射線でもない、化学療法です。再発した場合の治療法も、基本的に4期と同じです。使用する抗がん剤は、術後補助化学療法でも使われたプラチナ系抗がん剤と新規抗がん剤による2剤併用療法が基本です。プラチナ系抗がん剤は、シスプラチンか、カルボプラチン。新規抗がん剤は、今や新規といえるものではありませんが、90年代に開発されたタキソールやビノレルビン、ゲムシタビン、イリノテカンなどの抗がん剤です。この前者と後者をどういうふうに組み合わせても効果にほとんど差がないといわれます。ただし、高齢者には、ビノレルビンやゲムシタビンの単剤投与が行われます。

問題は、こうした併用療法が効かなくなった場合です。前の2剤併用の、組み合わせを変えるというわけにはいきません。セカンドライン(2次治療)としてエビデンスがあるのは、併用療法ではなく、抗がん剤単剤の治療なのです。具体的には、タキソテールや分子標的薬のイレッサなどです。ことに腺がんで、女性で、喫煙しない方ならイレッサは効きやすいことがわかっています。

もちろん、化学療法以外にも、適応する治療はあります。

「限局した部位にがんがあれば、化学療法をした後に、放射線を追加する場合もあります。また、脳転移は単発であれば手術も適応になります。もう1つ、放射線のピンポイント照射の1つであるガンマナイフもよく、この場合は数個の転移でも治療可能です。肺転移も数が少なければ治癒することもあります」(中川さん)

このように、がんは進行具合によって最善の治療法が違っています。したがって、正しい治療法を選択するには、まず、ご自分のがんの進行度をしっかり把握し、それを基準に考えていくことが大切になるのです。

[非小細胞肺がんの標準治療]
図:非小細胞肺がんの標準治療

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