再発を防止する薬、腫瘍を縮小する薬の効果と可能性 術後補助化学療法で生存率が向上。術前化学療法にも期待
新しい抗がん剤の開発も進む
術後補助療法に用いる新しい薬の開発も活発だ。アメリカでは、血管新生抑制剤であるアバスチン(一般名ベバシズマブ)の研究が進んでいる。カルボプラチン、パクリタキセルにアバスチンを加えると、進行がんで効果の上乗せが期待できることがわかったので、これを補助療法に利用しようという動きがあるという。
一方、日本では、5-FU系のUFTが有効とわかったため、もう少し5-FUの効果を増強したTS-1(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)という飲み薬に注目が集まっている。
TS-1はアメリカでも注目されていて、すでに進行肺がんに対して第2相試験が進行中であり、その結果が待たれる。日本でも、術後補助療法TS-1単剤とか、シスプラチンとTS-1を使った臨床試験が近い将来に行われる可能性があるという。
もう1つ、坪井さんが注目するのが分子標的薬のイレッサ(一般名ゲフィチニブ)だ。イレッサは、薬による重症肺障害あるいは重症肺炎という深刻な副作用の問題があるものの、東洋人、女性、腺がん、非喫煙者に効きやすいという特徴がある。なぜ東洋人かというと、上皮成長因子受容体(EGFR)の遺伝子配列に異常がある人に効きやすいことがわかり、この遺伝子異常がある人が東洋人に多いからだ。日本人では2~3割、女性はもっと多くて40~50パーセントにも及ぶという。
「そこでたとえば、個別化医療の第1歩として、手術した標本の中にEGFRの遺伝子異常があった患者さんには、イレッサを使った補助療法がいいかもしれないというので、それを検討する臨床試験が考えられます。イレッサには副作用の問題がありますが、補助療法なら、使う症例を選ぶことでリスクを軽減できる可能性があります」
術前化学療法にも期待
ところで、術後化学療法が有効であるなら、術前化学療法に効果は期待できないだろうか。
たしかにそういう考え方はある。理論的背景としては、手術前に原発巣を縮小させることで完全切除率を向上させる、手術前に微小転移巣を制御することで術後の遠隔転移の防止につながる、全身状態の良好な段階での化学療法の効果――などがあげられている。坪井さんもこう語���。
「私の個人的な経験から術前化学療法がいいなと思うところは、手術の前のレントゲンで影のある人でも、抗がん剤が効く人はその影がググッと縮まる。すると、患者さんは治ろうとする意欲が湧くし、われわれ医者も志気が上がります。補助療法とはそもそも、そのような影はなく、目に見えない転移を抑えるというのがコンセプトですから、病巣が小さくなるのが目に見えてわかるという点で、効果が実感できる治療法といえます」
しかし、非小細胞肺がんに対する術前化学療法は、いまだ臨床試験が完遂しておらず、その予後に与える意義は不明なのが現状。したがって、今のところ試験治療として試されている段階であり、日本の肺がん治療のガイドラインでも、「標準治療として行うよう勧めるだけの根拠が明確でない」としている。
それでも今後、検証が進んで、臨床試験でもいい成績が得られるようになれば、有効な治療法として推奨される可能性はあるといえるだろう。

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