渡辺亨チームが医療サポートする:早期肺がん編
たくさんの選択肢の中から、私は開胸手術を選択した
中川純一さんの経過 | |
2003年 10月15日 | 人間ドックで「右肺に影があり、肺がんの疑いがある」といわれる |
10月20日 | K病院でヘリカルCT検査を受ける |
10月23日 | ヘリカルCT検査の結果、「1b期腺がんの疑い濃厚」との診断 |
10月30日 | 確定診断のための気管支鏡検査を実施 |
11月2日 | 3.4センチ大の2b期腺がんと確定診断 |
11月10日 | 手術のため入院 |
2003年10月に早期肺がんが見つかった中山純一さんは、翌年1月からの中国赴任が予定されていた。
「負担の軽い治療で早く治したい」と焦る中山さんに、医師は標準的な開胸手術を推奨する。
必要不可欠な確定診断
2003年10月23日、中山純一さん(仮名・48)はK病院でヘリカルCT検査の結果から、「肺の腺がんの疑い濃厚」と知らされ、かなり動揺していた。そんな中山さんの様子を見て、告知した呼吸器内科のN医師は、「がんだとしても3.4センチの大きさで単発ですから、十分治すことができると思います」と励ますような口調で話す。妻も「早期の肺がんなら簡単に治るはずよ」と言っていたのを思い出した。中山さんは気を取り直し、質問をする。
「じつは来年から中国勤務を予定しているので、できるだけ早く職場復帰をしたいのですが、治療にはどのくらい時間がかかるでしょうか? すぐに治療にかかってもらうわけにはいかないでしょうか?」

気管支鏡による検査はこう行われる
N医師はこう答えた。
「画像所見で肺がんが疑われたといっても、病理学的に調べなければ腫瘍が本当にがんであるかどうか、またそのがんがどんなタイプのがんかということを確定できません。もし予想と違っていれば必要のない治療や不適切な治療を行うことになってしまいます。やはり、できるかぎり確定診断をつける努力をしたほうがいいと思います(*1肺がんの確定診断)」
2003年10月30日、中山純一さんは肺がんの確定診断用の気管支鏡検査を受けるために、再びK病院の検査センターを訪れた。検査の前は、少なくとも4時間は食物や飲み物を一切とらないように言われているので、この日は朝から飲まず食わずだった。
最初に不安を抑えるために鎮静剤が出された。検査中には声帯のけいれんやせきなどを出にくくするための薬も出され、のどと鼻に麻酔薬がスプレーされる。���して、口から肺の気道内へと気管支鏡が通された。ちょっとのどに当たって、中山さんは一瞬「おえっ」となりそうだったが、そのあとはほとんど苦痛と感じることもない。N医師はX線画像を凝視しながら、慎重に気管支鏡の操作を進めていった。検査は20分くらいで終わり、肺の腫瘍組織が摘出されている。
「がんであることが確定されました。大きさは3.4センチ、転移はなく1b期です(*2肺がんの進行度(病期))。非小細胞肺がんの腺がんで(*3腺がんと扁平上皮がん)、部位は肺の右上葉の末梢型です(*4肺門型と肺野型)」
検査の翌日、N医師はこう告げた。
開胸手術か胸腔鏡手術か
「肺がんの治療法はいろいろあるので、どれがいいのかはこれから当院で外科の先生たちとカンファレンスを開いて方針を決めたいと思います(*5治療方針の決定)。ただ、中山さんは手術ができる状態なので、原則的には開胸で行う標準的な手術をお勧めすることになるでしょう(*6手術の選択)。もちろん中山さんご自身のご希望もあると思いますが、何かお考えはありますか?」
N医師は、中山さんの治療法についてこんなふうに話した。じつは中山さんには考えていることがあった。 「胸腔鏡を使った手術があるそうですが、どうなんでしょうか? できるだけ早く治したいというのが私の最大の希望です。胸腔鏡手術(*7)は回復が早いそうですが」
N医師は答えた。
「じつはうちでは積極的には胸腔鏡下手術は行っていません。胸腔鏡手術が開胸手術と同様に安全で、かつ確実に病変部を切除できるという十分な根拠を見いだせないという考えからです。一方の、開胸手術も昔に比べればずいぶん傷も小さく、回復も早くなってきました(*8開胸手術の縮小化)。侵襲という面でそれほど胸腔鏡手術に見劣りしなくなっていると思います。また、あえて胸腔鏡手術をご希望でしたら、A大学付属病院の先生をご紹介します。明後日、うちの方針をご説明いたしますので、それまでにもう一度お考えをまとめていただけませんでしょうか。この資料には外科手術以外の肺がんの治療法についても説明してあります。ぜひお読みください」
N医師は、こういうと肺がんの治療法についてまとめた小冊子を中山さんに渡した。中山さんはがんとの闘病という重い現実を突きつけられながらも、N医師の患者の言うことに耳を傾け、患者に情報を公開しようという態度に好感を持つことができた。
結局、開胸手術を選択
「手術は避けたいところだけど、ほかに何か治療法はあるのかな?(*9治療法の選択肢)」
「よく雑誌などで、“切らないで肺がんを治す最新療法”という記事を読むわよね」
中山さんは、家へ帰ると妻の美恵子さんとN医師からもらった資料をあれこれ探したり、インターネットを検索しながら自分の肺がん治療について検討した。もちろん焦点は、上海転勤に間に合うように、できるだけ早く退院ができ、後遺症の小さな治療法を選びたいということである。
「放射線にも3次元ピンポイント照射と重粒子線治療とかいろいろあるんだな。どう違うのかな?」
「レーザー治療もあるわよ」
しかし、どの治療法について調べてみても「早期の肺がんは手術が第1選択であり、手術できない場合、この治療法が選択肢に入る」との記述がある。また、新しい治療法は長期の治療成績がわかっていない。もちろんそのほとんどの治療法はN病院では受けることができないので、選ぶとすれば転院する必要がある。「高度先進医療(*10)」という高額な治療法もあるが、中山さんにとっては他の治療法と比較してそれだけ経済的な負担をするだけの価値があるようには思えない。
「やはり手術しかないな。胸腔鏡手術もK病院では受けられないというし、必ずしも開胸手術よりは長生きに結びつくというわけでもないらしい。結局K病院で手術してもらったほうがいちばん早くて確実そうだ」 中山さんはこう結論を出した。その翌日N医師も同じことを中山さんに告げた。
「カンファレンスの結果、やはり開胸で手術を受けていただくのが最適と判断されます。縮小手術ができるかどうかぎりぎりのところですが、大きさも3センチを越えており、世界的な標準的手術である、開胸による肺葉切除と縦隔リンパ節郭清を行うという方針にしました。ただし、切除後の病理結果によっては、手術だけで終わらず、抗がん剤治療などの追加治療が必要になることもあります」
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