渡辺亨チームが医療サポートする:早期肺がん編
ヘリカルCT造影撮影により、右肺の上葉部に腺がんが見つかった
山本信之さんのお話
*1 たばこと健康へのリスク
たばこによるがん発生の危険率は、「本数(1日の平均本数)×喫煙年数」で表します。これが400以上なら「危険群」で、600以上なら「高危険群」です。たばこは肺がんだけでなく口腔がん、咽頭がん、食道がん、膀胱がん、腎がん、膵がんなどのがん発生に関与しており、たばこをなくすことができれば、がん患者を毎年9万人減らせるといわれています。そして、禁煙して10年も経てば、もともとたばこを吸わない人に近い危険率に戻るといわれています。
元国立がん研究センター研究所疫学部長の平山雄さんが発表したデータでは、非喫煙者の死亡リスクを1とした場合、肺がん死亡率が喫煙者で平均4・5とされています。同じ肺がんの治療を受けても、喫煙者は手術後に肺炎などの合併症を起こしやすいし、ある種の抗がん剤で治療をしたとき、間質性肺炎などの合併症を起こしやすくなります。
日本人の喫煙率は減っているものの、先進国の中では飛び抜けて高い地位にあります。


*2 せきとたん
風邪でせきやたんが出ることはよくありますが、風邪なら4、5日で良くなるのが普通です。せきやたんが1カ月以上続くようなら、肺がんの疑いが出てきます。特に血が混じっている血たんが出たときは要注意です。たとえば肺がんが空気の通り道である気管支にできていて、それが崩れて出血した可能性が強くなります。血たんもたんの中にポツンとあざやかな色の赤い血が混じっていたり、チョコレート色の血がついているなどの種類がありますが、一般に血たんが出た人の10人に1人は肺がんといわれています。一方、腺がんというタイプのがんの一種である細気管支肺胞上皮がんの場合は、せきが出てサラサラしたたんが1日2、3リットルも出ます。せき、たん、血たんの段階で見つかった肺がんは、比較的進行度が早いものの、治る可能性は十分あります。異常に気づいたらぜひ検査を受けてください。
*3 肺がんの遺伝性
世間ではしばしば「あそこの家系は胃がんの家系だ」「あの家は肺がんの患者がよく出ている」ということが言われてきました。私たち医師も、1つの家族の中で2人も3人も肺がんになるという例を経験することがあり、「がん家系」と��うものがあるのではないかということを雰囲気では感じています。しかし、がんの遺伝を学問的に証明することはまだできていません。かなり特殊な例でがんが多発するという家系はわかっていますが、これはある種の特殊な遺伝子の検査ではじめてわかることです。ですから何年か後に遺伝に関することがわかってくる可能性はありますが、今の時点では自分が肺がんの家系ではないかと心配するよりも、喫煙習慣のある人はたばこをやめることが最も大切な現実的対応といえます。
*4 日本人の肺がん
肺がん死亡者数は増加傾向にあり、従来日本人に多かった胃がん、及び子宮がんが減少傾向にあるのとは対照的です。男性では1993年には胃がんを抜いてがんの中で死亡原因の1位となったことはよく知られています。日本では、男性では50歳以上、女性では40歳以上の年齢層では肺がん死亡率に増加傾向が認められますが、その増加の度合いはやや鈍化の兆しをみせるようになりました。ただ、日本では人口の高齢化が進み、肺がん死亡数全体としては、今後も増加傾向が続くと予想されています。

*5 肺がんの危険因子
肺がん発生の最大の危険因子は喫煙です。喫煙には本人が吸う直接喫煙のほか、他人の煙を浴びる間接喫煙のリスクも小さくないとされますが、これらの他に指摘されている肺がんの危険因子は、大気汚染、ラドンなどの放射性物質の被曝、職業的な因子(特にアスベスト被曝)、さらには栄養や遺伝といった要素も指摘されています。
ベータカロチンの摂取量が少ないと肺がんの発生率が増えるという報告があったため、ベータカロチンを補給するれば肺がん発生を抑えることができるかどうか、比較試験が行われました。ところが、ベータカロチンをたくさん補給するほど肺がんが多くなるという逆の結論が出てしまったのです。栄養に関しては、何が肺がんの発がん予防に効いているかについてはわかっていません。あまり特別な栄養素に注目するより、バランスのよい食事を心がけることが大切です。
*6 胸部X線とヘリカル(低線量高速らせん)CT
病期 | CT導入前(%) | CT導入後(%) |
---|---|---|
1A 1B | 18人(42) 5 (12) | 62人(76) 4 ( 5 ) |
2A 2B | 3 ( 7 ) 3 ( 7 ) | 4 ( 5 ) 0 |
3A 3B | 8 (19) 1 ( 2 ) | 5 ( 6 ) 3 ( 4 ) |
4 | 5 (11) | 4 ( 5 ) |
[検診で発見された肺がんと症状で見つかった肺がんの予後の違い]
肺がん検診はこれまではX線検査と喀痰細胞診による検診が有効な方法とされており、この肺がん検診によってがんが見つかった人の5年生存率は、30~40パーセントといわれています。しかし、小さいがんの場合や血管・肋骨などの陰に隠れてしまう場所にあるがんの発見は困難でした。
肺がん検診へのヘリカルCTの導入は10年前から始まり、現在は全国で50以上の施設に導入されています。
ヘリカルCTは、体を前と後ろから撮影するばかりでなく、輪切りの画像としてとらえることができる装置です。X線管が体軸を中心に連続的にらせん状の撮影を行います。実際にはX線管が1秒間に1回連続的に回っている中を患者さんを乗せたテーブルが一定速度で移動する仕組みです。これまでのX線は20枚撮影するのに20回の呼吸停止が必要でしたが、ヘリカルCTでは20秒の息止めを1回するだけで検査終了となります。これまで発見が困難だったがんをとらえることも可能になりました。肺がん発見率は上昇し、発見される肺がんの病期はより早く、発見される肺がんの予後も良くなっています。この結果、ヘリカルCTで見つける肺がんの治療後の5年生存率は60パーセントを超えるようになったといわれます。
*7 造影撮影
ヘリカルCTには単純撮影と、造影剤(水溶性ヨード造影剤)を静脈から点滴しながら行う造影撮影があります。造影撮影を行うと、単純撮影より血行の動きや臓器の機能がよくとらえられ、病変を見つける能力が高まるのです。普通は静脈内に注入された造影剤はすみやかに尿中に排泄されます。
*8 二重読影(ダブルチェック)
検査画像の見落としや誤診を防ぐために、経験豊富な複数の医師が画像情報の読み取りを行うのが、二重読影です。画像から所見が認められた場合は、さらに過去のフィルムとの比較読影も行われます。
*9 肺がんの種類

肺がんは大きく非小細胞肺がんと小細胞肺がんに分かれます。一般に小細胞肺がんは非小細胞肺がんに比べて進行が早く、ほとんどの場合手術ができません。ただし、抗がん剤の効果は小細胞肺がんのほうが高くなります。また、非小細胞肺がんの中にも、扁平上皮がん、腺がん、大細胞がんがあります。最も多いのは、肺の末梢(枝分かれした気管支の部分)にできることが多い腺がんで、肺がんの半分を占めます。次に多いのは肺の根元(気管支の根元)にできることが多い小細胞がんと扁平上皮がんです。非小細胞がんの中では、このような組織型の違いで、治療方法の選択に大きな差はありません。ただし、最近は腺がんに効果の高いイレッサのような抗がん剤も出現しており、なるべく組織型を確定しておくことをお勧めします。
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