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渡辺亨チームが医療サポートする:肺がん編

取材・文:林義人
発行:2004年4月
更新:2019年7月

肺がんの再発にイレッサによる治療を選んだ理由

山本信之さんのお話

*1 化学療法後の再発

抗がん剤治療しかできなくなった非小細胞肺がんの患者さんの平均余命は約10カ月です。抗がん剤治療を開始してからの平均的な再発時期は6カ月後ですから、治療を終了して2~3カ月で再発するケースが多く見られます。


*2 再発肺がんの治療薬

再発したとき非小細胞肺がんに対して、有効性が確認されている薬剤にタキソールがあります。肺がんに有効とされる他の抗がん剤と比較した臨床試験の報告、症状緩和の治療と比較した臨床試験の報告がそれぞれ一つずつあって、症状緩和も延命期間もタキソテールのほうが有意に優れていたことから、タキソテールが再発肺がんの標準治療になりました。ほかの抗がん剤については、まだそのような比較試験が行われていないのが現状です。アメリカなどではファーストライン(1次治療)でシスプラチンもしくはカルボプラチンを含んだ2種類の抗がん剤を使用した化学療法を行って、再発した場合のセカンドライン(2次治療)でタキソテールを用いるケースが多く見られます。

そこへ出てきたのがイレッサという薬です。この薬は再発の肺がんの患者さんにも腫瘍縮小効果を発揮します。日本人の20~30パーセントで腫瘍を縮小する効果を示し、がんを大きくさせない割合も含めれば60パーセントくらいの症例に効果があるのではないかと思います。タキソテールの場合は日本人に対する腫瘍縮小効果は10~20パーセントといわれていますから、イレッサの腫瘍縮小効果は1.5~2倍程度ということになります。ただし、腫瘍を小さくできることが延命にどう結びつくかはまだわかっていません。

イレッサは日本人100人を対象とした臨床試験で、平均13カ月の延命効果があることがわかっています。再発肺がんで13カ月間の延命は長いといえますが、世界標準のタキソテールの効果と比べたわけではありません。そこで、日本人の再発非小細胞肺がんの患者さんにおいてタキソテールとイレッサを比較する臨床試験が進行中です。

そのため、現時点ではタキソテールとイレッサの効果優劣は不明であり、もしどちらかの薬剤を選択するとすれば、使用法の違い、副作用の種類の違いということになるでしょう。

[再発肺がんにおけるイレッサとタキソテールの効果の比較]
イレッサ タキソテール
延命効果 現状ではどちらが優れているかは不明
腫瘍縮小効果 20%~30% 10%~20%
使用法 1日1錠を内服 3週間に1度
2時間程度の点滴
副作用 発疹、薬剤性肺炎 脱毛、白血球減少など
治療による死亡頻度 双方の差はなく、0コンマ数%程度

*3 イレッサの副作用

もともとイレッサはがん細胞にだけ特異的に働く副作用の少ない薬といわれ、しかも飲み薬だったことから、最初は気軽に使われていたのです。ところが、薬剤性の肺炎を高頻度で起こす可能性があることがわかってきました。発売された2002年末までに100人を超える患者さんが亡くなり社会的な問題になっています。そのほかイレッサの副作用は、下痢、皮疹(にきび)、肝機能異常などが目立っていますが、一般の抗がん剤に多い脱毛はありません。

*4 イレッサの間質性肺炎について

薬剤性肺炎の問題は完全クリアになったわけではありませんが、最近では、危険因子がある程度判明してきております。肺障害は、喫煙経験のある患者さんの発生率がそうでない患者さんの5倍くらい高く、またもともと肺の悪い患者さんなどにも発生のリスクが高いことがわかってきました。

これらの患者さんに注意してイレッサを処方すれば、かなり肺炎を抑えることができるでしょう。

薬剤性肺炎は、できるだけ早く見つけてイレッサの服用を中断してもらい、ステロイドを投与するというのが、今のところ唯一の対処法です。早く見つけるためには、肺炎の好発期間である2週間~1カ月間は頻繁に外来に通ってもらうか、入院してもらい、週に2回くらいレントゲン撮影したり、熱や咳をチェックすることが大切です。しかし、1カ月を過ぎると、肺炎が起こる頻度は少なくなります。

*5 イレッサの感受性

イレッサは肺がんで初めて、がん細胞だけに特異的に作用するように考えられた分子標的治療薬です。当初は副作用は少なくて、がんを小さくする効果も少ないだろうと考えられていました。

ところが、使ってみると、がんを小さくする効果があり、なおかつ副作用も強いということがわかったのです。

イレッサが有効な人はがんが極端に小さくなり、1週間も経たないうちに症状が消えるケースも珍しくありません。

そもそもイレッサはがん細胞を増殖させる役割があるHER1(EGFR)という受容体をターゲットにした抗がん剤として設計されました。ところが、その後の検討で、HER1が陽性の患者さんでもイレッサが無効だったり、陰性でも有効だったりして、HER1だけ見てもあまりイレッサの効果を予想できないことがわかってきました。

現在はHER1のほかに何かイレッサの感受性を探ることができるマーカーがないかということを検討している最中です。

*6 遺伝子治療の考え方

遺伝子治療は10年くらい前から期待感を持って、欧米や日本の特定施設で行われてきています。

しかし、肺がんの分野の医療技術を先端的に研究しているアメリカのテキサス大学MDアンダーソンがんセンターでは、肺がんは遺伝子治療だけではコントロールできないだろうという考え方を示すようになっており、抗がん剤との併用に切り替えています。

今のところ遺伝子治療は肺がん治療の主流になるとは考えづらい状況です。

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