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世界の流れは、よりQOLを重視する治療法へ 肺がん世界最新レポート

取材・文:編集部
発行:2003年11月
更新:2013年4月

QOLを下げないことが再評価

写真:会場内

このように、イレッサという薬が夢の薬ではなく、リスキーな面があることが明白になった。しかし、逆に言うと、そのリスキーな部分を避けて、薬の適応を誤りさえしなければ非常に有効な薬であることも事実で、今学会ではこの点が改めて認識されることになった。と同時に、イレッサは効果の面ばかりか、QOL(生活に質)を下げないことでも再評価され、その点で注目されたのが、近畿大学腫瘍内科教授の福岡正博さんの発表だった。

彼が発表したのは、イレッサの投与量を変えて、患者に振り分けて投与したフェーズ2の臨床試験結果である。フェーズ2の臨床試験は第2相試験とも呼ばれ、薬剤の効果と安全性を確かめる試験である。

イレッサの承認用量は、日本では1日1回250ミリグラムとされているが、福岡さんはその倍の500ミリグラムも投与し承認用量と比較した。

結論から言うと、投与量が増えても、改善されたものはなく、腫瘍が半分以上に縮小する奏効率も、1年生存率も、症状改善率もむしろ下がる傾向が見られ、250ミリグラムが至適投与量であることが再確認された。

また、イレッサの効果が出る場合は、投与開始後4週以内であることが多く、その持続期間は5.8カ月~13カ月と長期間持続していること、効果が出る要素として、女性、腺がんがポイントになることも明らかにされた。

副作用としては、軽い下痢と皮膚にできる発疹ぐらいで、重いものは見られなかった。このことから、イレッサは患者のQOLを下げないということがわかり、その点は改めて注目されている。

術後補助療法が生存率を改善

写真:発表風景

手術後に再発防止を目的に様々な治療が行われることがある。術後補助療法と呼ばれる治療法で、化学療法や放射線治療が行われているが、肺がんでは、これまでこの治療法の有効性は認められていなかった。しかし、今学会では、その点で注目されるべき発表があった。

その一つは、抗がん剤のシスプラチンを含む術後補助化学療法の効果を検討した国際的な大規模な無作為化比較試験の結果が報告されたことだ。フランスのグスタブ・ルーシー研究所のシーリー・ル・セバリエにより発表が行われた。無作為化比較試験とは、���在行われている治療法と新しい治療法との効果の優劣を比較する試験である。

彼は、ステージ1~3の非小細胞肺がん患者1867人を、手術の後に、シスプラチンを含む術後補助療法を行うのと、何の治療もしないのとに振り分けて、その効果を調べた。シスプラチンと併用する抗がん剤には、エトポシド、ビノレルビン、ビンブラスチン、ビンデシンが用いられ、一部の患者には放射線治療も加えられた。

その結果、術後補助化学療法をしたほうが生存率を向上させ、再発するまでの期間も長くなることが明らかになったのだ。肺がんの分野で術後補助療法に意味があるとの結果がでたのは初めてのことで、大いに注目された。

ただし、シスプラチンと併用した抗がん剤のうち、エトポシド、ビノレルビン、ビンブラスチンでは良好であったが、ビンデシンの場合だけは、何もしない場合よりも劣る傾向が示されたという。また、副作用の点では、死亡者が7例(0.8パーセント)、最も重いグレード4の副作用(白血球減少、血小板減少、嘔吐など)は23パーセントも出たことは付け加えておく必要があろう。

見直される経口抗がん剤

この術後補助化学療法では、日本からも発表があり、注目された。ステージ1の腺がん患者に、経口抗がん剤のUFTを用いた術後補助化学療法の効果を検討した無作為化比較試験の結果報告で、国立沖縄病院外科医長の大田守雄さんによるものだ。

対象患者数は999人と先の国際的な試験に比べれば規模こそ小さいが、UFTを2年間投与した場合と、何もしなかった場合とが比較されたというのは意義深い。

結果は、UFTを投与したほうが何もしないよりも5年生存率で有意に勝っていたという。ただし、局所に再発する率や遠隔に転移する率、5年無病生存率では、両者に差が出なかった。

この発表でとりわけ注目されたのは、UFTの副作用が少ないことだ。副作用としては重いグレード3の副作用は14例(2.9パーセント)見られたが、いずれも生命に影響を及ぼす骨髄抑制ではなく、悪心・嘔吐や食欲不振などであり、最も重いグレード4の副作用は起こっていない。この点は、この学会の前に行われた米国臨床腫瘍学会(ASCO)でも、患者のQOLを落とさず、治療成績を上げたと高く評価され、UFTは「Best of ASCO」にも選ばれたほどだ。

これまで肺がんでは術後補助療法が行われてこなかったが、こうした発表から、今学会を機会に、その見直しが検討され出している。肺がんでも手術の後に、補助化学療法を加えたほうがいいのではないか、それを標準治療にしようとの動きが出始めている。

もう一つ、今年の大きな特徴は、治療法についての認識が大きく変わりつつあることだ。これまでの治療効果優先の考え方から、効果もさることながら、患者に負担をかけない、QOLを落とさない治療法に注目が集まるようになってきた。これまで無効とされてきた経口抗がん剤が脚光を浴びているのはその証だし、手術の分野でも胸腔鏡や微小がんに対する部分切除が話題に上っているのも同じだ。

この患者中心の時代の流れは、これからもますます加速するだろう。


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