1. ホーム  > 
  2. 各種がん  > 
  3. 肺がん  > 
  4. 肺がん
 

再発肺がん:〝まずは元気に〟体調に合わせて薬剤を組み合わせていく 肺がんのタイプとライフスタイルにあった治療選択を

監修●坪井正博 横浜市立大学附属市民総合医療センター呼吸器病センター外科准教授
取材・文●山下青史
発行:2013年5月
更新:2019年11月

体調に合わせた柔軟な抗がん薬治療を

上記の遺伝子異常がない場合の進行肺がん・術後再発肺がんの抗がん薬治療には、体力が許せばおもにシスプラチンあるいはカルボプラチンといったプラチナ製剤を含む2剤併用療法が1次治療として選択される。しかし病状の増悪、再燃や再発・転移後の2次治療以降は、全身状態が良くて2剤併用療法が行われる場合もあるが、単剤療法が基本だ。第1選択薬の抗がん薬はタキソテール単剤、非扁平上皮がんであればアリムタが主流だが、このほかジェムザール、TS-1などを選択するケースもある。

「単剤が標準的な治療ですが、元気な患者さんには、副作用が強くなる可能性がありますが、プラチナ製剤による化学療法を行ってもよいのではないかと思います」と坪井さんは柔軟に対応しているという。

再発・転移の治療は化学療法による全身治療が基本だが、局所療法として放射線治療を選択するケースもある。

「転移先の臓器に1カ所だけ影があるという人は、まれですが局所療法だけでよい場合も見られます」と坪井さんは話す。たとえば、肺や脳、副腎などへの転移が1カ所だけに見つかり、リンパ節に転移がない場合は、放射線治療や、外科的切除が検討される。脳への転移ではガンマナイフが有効となる。

シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ カルボプラチン=商品名パラプラチン プラチナ製剤=白金系の抗がん薬。DNAに直接作用しその複製を阻害したり、アポト-シス(細胞死)を起こす タキソテール=一般名ドセタキセル アリムタ=一般名ペメトレキセド ジェムザール=一般名ゲムシタビン TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム ガンマナイフ=放射線の一種であるガンマ線を1点に集中させ、ピンポイントで組織を攻撃する放射線治療装置

支持療法で体調を整えながら治療する

骨転移の痛みを取り除くには、放射線療法が有効だ。脊椎に転移して脊髄を圧迫すると、横断麻痺といってその脊髄以下のレベルの知覚障害や運動麻痺を生じることがある。こういった症状を取るには、脊髄の圧迫を除く必要があり、緊急避難的に整形外科的な治療を行わざるを得ない場合もある。また骨転移が見つかった際には、病的骨折など骨関連の有害事象を防ぐために、ビスホスホネート製剤や抗ランクル抗体薬などの骨吸収抑制剤が使われる。

「転移による症状があるかどうかで、治療に対する捉え方が違ってきます。QOLが回復すると、抗がん薬治療を継続しやすくなり、その効果があればがんの増殖スピードを抑えることも可能になります」

抗がん薬治療では、骨髄への影響や嘔吐など消化器症状の副作用が細胞毒の抗がん薬よりも少ないと言われる分子標的治療薬でも、皮疹や下痢など副作用によるダメージは免れきれない。体へのダメージが大きいと、どうしても心身が弱ってくる。したがって、転移による症状を上手に緩和しながら治療をすることによって、体調や気力が上向き、治療効果を増すことが期待できるのだ。実際、進行肺がんを対象にした米国の臨床試験の結果、治療に並行して早期緩和ケアを行うことで生存期間の延長、QOLの改善効果が示されている。

ライフスタイルの確立を目指す治療とは?

肺がんが再発・転移した状況では、根治が難しいとされる。それならば、手術で完全に取りきれた場合でも、再発予防に術後補助療法を受けるべきだと捉えがちだ。

「私は、術後補助療法を行うかどうかの選択は最終的に患者さんに任せています。ガイドラインには行うようにすすめるとありますが、全ての人に期待された効果が得られるわけではありませんし、副作用で回復が遅れて元通りの生活に戻れない心配もあります。術後は〝まずは元気になろう〟というのが、私の治療の基本です」

治療で弱っている体には、抗がん薬治療は負担が大きい。それより、再発しても元気なら、治療の選択肢が増え、効果も期待できるという考え方だ。

「エビデンスに基づいた治療ももちろん大切なのですが、まずは治療を含めて自分が今できること、やれることを考えましょう。実際、患者さん個々の残された人生が長いのか、短いのかは生存率などの統計データだけではわかりません。私の患者さんの中にも再発して治療した後5年以上人生を楽しまれている方がいらっしゃいますから」と坪井さんは話す。しかし、再発、転移を起こしてしまった場合には治癒は難しいのが現状だ。

「Ⅰ期やⅡ期で治ったと思いたら、再発、転移といわれると患者さんは落ち込みます。Ⅳ期の患者さんで効いていると思ったのに、さらに転移が見つかるともっと落胆されるのが当たりまえです」

だからこそ坪井さんは長年、患者さんと触れあってきた経験から、患者さんには「今生きていることを大切に捉えてほしい」と願っている。

「病気を必要以上に怖がらないで病状を理解して治療を選び、自分に何ができるのか、何をしたいのかを考え、仕事や趣味の充実も合わせて自分のライフスタイルを見極めて医療者としっかり相談しながら、場面場面で自分自身にみ合った治療、自ら納得できる治療に臨んでほしいと思います」とアドバイスする。

1 2

同じカテゴリーの最新記事