最も有効な治療をできるだけ早く!小細胞肺がんの治療戦略

監修●軒原 浩 国立がん研究センター中央病院呼吸器内科医長
取材・文●半沢裕子
発行:2015年9月
更新:2015年11月


日本では進展型にはシスプラチン+イリノテカン

進展型の標準治療で使われる薬剤は、世界的には「シスプラチン+エトポシド」の併用療法。しかし、日本では1990年代にイリノテカンが開発され、「シスプラチン+エトポシド」と「シスプラチン+イリノテカン」の併用療法を比較する臨床試験が行われた。結果、「シスプラチン+イリノテカン」併用療法の生存率が良いとのデータが出て、日本では「シスプラチン+イリノテカン」併用療法が進展型の標準治療となっている(表4)。

表4 進展型小細胞肺がんに対するシスプラチン+イリノテカンの効果

JCOG9511試験結果より

「日本で成績が良かったため、世界中で追試が行われましたが、海外の試験では『シスプラチン+エトポシド』療法と『シスプラチン+イリノテカン』療法は同等の成績でした。そのため、世界では『シスプラチン+エトポシド』、『シスプラチン+イリノテカン』の両併用療法が進展型の標準治療になっています」

日本人には「シスプラチン+イリノテカン」療法が効果的ならば、限局型でもこの組み合わせが使われそうだが、イリノテカンは放射線との相性が悪いことで知られる。放射線肺臓炎など重篤な合併症を引き起こす可能性がある。そのため、限局型では「シスプラチン+エトポシド+放射線治療」が選択される。

イリノテカン=商品名カンプト/トポテシン

進展型には逆に良くない予防的全脳照射

では、これらの標準治療には、どんな副作用が伴うのだろうか。

抗がん薬で注意が必要なのは、まず骨髄毒性。白血球や血小板の減少、貧血などが起きる。イリノテカンでは下痢が重症化することがある。こうした副作用には近年、支持療法が確立されているので、気づいたら医師に相談し、治療を受けることが勧められる。また、放射線治療では、「小細胞肺がんの患者さんの多くは喫煙者(過去を含む)ですから、そもそも間質性肺炎や肺線維症などを発症していることもあります。患者さんの肺の状態次第では、限局型であっても放射線を照射するのは控えたほうがいいケースもあります」

病期の進んだ進展型の患者さんで、高齢であったり、全身状態が悪い場合には薬剤を換えることもある。使われるのは、「パラプラチン+エトポシド」併用療法が多い。どちらも比較的毒性がマイルドで、安全に使え���組み合わせだという。

なお、限局型で治療薬がよく効いた患者さんに対しては予防的全脳照射を行うが、進展型ではどうなのだろう。2007年に「進展型でも効果あり」との論文が、海外の医学誌に発表されたが、昨年(2014年)発表された日本人を対象に行った臨床試験では、これに否定的な結果が出た。進展型の患者さんに対して予防的全脳照射を行ったところ、「脳転移は抑制するものの、生存期間には寄与しない」というものだった。

「海外のデータは、すでに脳転移が起きている患者さんも含まれると考えられ、そういう患者さんには治療効果があったと思われます。しかし、日本のデータでは、脳に転移が認められていない患者さんを対象に予防的全脳照射を行っています。脳転移への治療効果が得られた例は含まれないわけです。結果、脳に再発するまでの期間は長くなったものの、かえって照射により全身状態が悪くなり、再発後に次の治療が十分に行えず、生存率が悪くなったのだと考えられます」

パラプラチン=一般名カルボプラチン

再発治療で新たな3剤併用療法の効果も

治療を行ってもどうしても再発しやすいのが小細胞肺がんだが、再発後にはどのような治療があるのだろう。世界的には再発後の2次化学療法として、ハイカムチンが使われるという。

「ただ、ハイカムチンはイリノテカンと同じ種類の抗がん薬で、作用点が似ています。日本では進展型に対し、初回にイリノテカンを使うことが多く、再発治療での効果には疑問符がつきます。むしろ、日本で開発され、同等の効果が証明されているカルセドを使うことが多いです。もちろん、初回に『シスプラチン+エトポシド+放射線照射』の治療を行った限局型の場合なら、イリノテカン、ハイカムチン、カルセドも使えて選択肢は多くなると思います。また、初回の治療から再発までに半年以上経過した患者さんには、初回で使った薬剤で再び治療すること(リチャレンジ)もあります」

これらの薬は基本、単剤で使用するが、昨年(2014年)のASCO(米国臨床腫瘍学会)では、再発した小細胞肺がんに対し、ハイカムチン単剤群と「シスプラチン+エトポシド+イリノテカン」併用療法群とを比較した結果、併用療法群のほうが、全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)ともに、治療成績が良かったという日本のデータが発表された(表5)。1回投与量は通常より少ないとはいえ、抗がん薬3剤の併用のため副作用は強く、白血球を増やすG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)製剤などを用いながらのきつい治療になるという。

表5 再発小細胞肺がんに対する3剤併用療法の効果

JCOG0605試験結果より

「きついけれども、治療成績は明らかに良いものでした。再発しても全身状態が良い方には勧められるかと思います」

ただ、毎週投与が必要な治療のため、2~3カ月の入院が必要になるという。

ハイカムチン=一般名ノギテカン カルセド=一般名アムルビシン

免疫チェックポイント阻害薬に光明あり

その他、小細胞肺がんでは残念ながら次につながるトピックスが少ないという。

「非小細胞肺がんではがんの増殖に関わる遺伝子を見つけ、阻害する分子標的薬が次々開発されていますが、小細胞肺がんでは残念ながら見つかっていません。それでも、今年(2015年)のASCOにおいて、再発患者さんを対象に、免疫チェックポイント阻害薬である『オプジーボ+ヤーボイ』の2剤併用とオプジーボ単剤とを比較した臨床試験結果が出ました。それによると、2剤併用したほうが、治療成績が良い傾向にあるという結果でした。わずかな光明ですが、小細胞肺がんでも免疫チェックポイント阻害薬が効く可能性があるというデータです。今後に期待したいと思います」

オプジーボ=一般名ニボルマブ ヤーボイ=一般名イピリムマブ

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