初期治療を最強の治療でガツンと行うことが大切 抗がん剤や放射線が効きやすい小細胞肺がん治療

監修:田村友秀 国立がんセンター中央病院総合病棟部長
取材・文:半沢裕子
発行:2008年7月
更新:2013年4月

「限局型」では強力な放射線治療をプラス

一方、治ることを目標にできる「限局型」の治療は、「シスプラチン+エトポシド」の抗がん剤治療を4クール行うのに加え、最初の1クール目に放射線治療をプラスします。

この場合はシスプラチンを1日目に投与し、エトポシドを1日目、2日目、3日目に投与します。また、最大の治療効果をめざすため、放射線治療も短期間で効果的に照射するのが一般的です。

具体的には1回1.5グレイで、1日に2回照射。これを1週間に5日間、3週間続けるので、合計で45グレイの線量を照射することになります。これは少線量の放射線を長期間に分けて照射し、45グレイに蓄積するより、ずっと強い治療といえます。

ここで、みなさんはちょっと不思議に感じられたことと思います。前段では、「小細胞肺がんの最強の抗がん剤治療はシスプラチン+イリノテカン」とお話しました。それならば、治ることを目標にできる「限局型」の治療にはぜひこの方法を使い、放射選治療と組み合わせてほしい、というのが、患者さんのお気持ちだろうと思います。

しかし、そうできないのには大きな理由があります。残念ながら、イリノテカンは、放射線治療との相性がよくないのです。

イリノテカンは副作用として肺障害を引き起こすため、認可後、一時期問題になったことがあります。マスコミでも騒がれましたので、ご存じの方もいらっしゃるのではないかと思います。

放射線治療も同様の肺障害を引き起こすことがありますので、抗がん剤や放射線のもつ毒性が重複し、強く出てしまうのかもしれません。

それでも、治療の効果を考えると、この組み合わせが使えないのは、とにかくもったいない、と私たちは考えました。そして、放射線との相性が悪いという欠点を解消するため、

「放射線治療を行っている間(1クール目)はエトポシドを使い、放射線治療が終わった段階(2クール以降)で、イリノテカンに切り替える」

という、新しい治療の大規模臨床試験を行いました。300例近い患者さんに登録していただき、2006年9月に終了して、現在経過を観察しているところです。

この試験の結果が出るまでには、まだ数年かかるでしょうが、「小細胞肺がん」の治療の可能性は、これでまた1つ広がった、といって間違いないと思います。

[限局型に対するシスプ���チン+エトポシド療法と胸部放射線療法の同時併用の例]

治療の週数 第1週 第5週 第9週 第13週
シスプラチン
エトポシド ↓↓↓ ↓↓↓ ↓↓↓ ↓↓↓
胸部放射線治療 照射 (1日2回、週5日で3週間照射)

薬が効かない再発がんにも効果が期待できる新薬

「小細胞肺がん」の治療はとにかく最初にガツンとがんを叩くことが大原則なので、あれこれ新しい薬を試みるより、どうしても効果の定まった標準治療が行われることになります。が、最近は、ほかにも新しい薬の可能性がいろいろ追求されています。

たとえば、カルセド(一般名アムルビシン)です。これも日本で開発された抗がん剤ですが、「小細胞肺がん」の再発例や、それまで使ってきた薬が効かなくなった患者さんにも効く、とのデータがあり、現在、効果を確認する試験を計画しているところです。

ところで、がん治療の最前線というと、がん細胞の増殖や転移にかかわる異常分子をねらって叩く、いわゆる分子標的薬を思い起こす方も少なくないと思います。では、「小細胞肺がん」に効く分子標的薬は、全然ないのでしょうか?

残念ですが、「小細胞肺がん」の増殖をとめた、転移を防いだりするのに効果のある分子標的薬は、今のところ作られていません。ただし、「小細胞肺がん」には標的になりそうな異常分子が多く知られており、近い将来「小細胞肺がん」に有効な分子標的薬が作られてもおかしくないと思います。

私自身、早く出てくることを、強く期待しています。

肺に原発したがんが消えたら、脳転移予防の放射線をかける

もう1つ、「小細胞肺がん」に関する最近のトピックスとして、脳転移を予防するために行う「予防的全脳(放射線)照射」についての報告があります。

「小細胞肺がん」は先に書いたように、早い段階で全身に広がっている可能性が高いため、全身治療としての抗がん剤治療が基本となっています。そして、なかには抗がん剤治療によって、治る方もいます。

けれども、せっかく原発した肺のがんが消失したのに、脳に転移し、再発してしまうケースが、少なからずあるのです。なぜでしょうか。脳は異物の侵入からしっかり守られているため、抗がん剤が入りにくいのです。

そこで、原発の「小細胞肺がん」が治療によって消失した場合に限り、脳転移を予防するために、脳全体に放射線をかける「予防的全脳照射」が、10年以上前から標準治療になっています。

ところが去年、「抗がん剤治療で、何らかの効果のあった患者さんに対しては、小細胞肺がんが残っていても予防的全脳照射を受けたほうが長生きする」というデータが、ヨーロッパから発表されたのです。

これまでの、私たちの考え方は、「抗がん剤が非常によく効き、全身のがん細胞が消失したケースで、脳に入ったがん細胞も叩くことができれば、大きな延命効果が得られる」

というものです。がんが残っている状態でいくら全脳照射を行っても、がん細胞が転移し、再びあちこちで増殖してしまう可能性は否定できません。

そこで日本でも、ヨーロッパの試験結果を確認すべきという動きが、最近出てきているところです。

医師と相談して、初期治療をがんばろう

以上が「小細胞肺がん」の標準治療、および最新治療です。くり返しになりますが、このがんは見つかったときには大きくなっていることが多く、進行が早くて全身に広がりやすい一方、今述べてきたように、初期治療で最強の治療を行うと、かなり高い治療効果を望むことができます。

患者さんは副作用に悩み、負担を感じることもあると思いますが、それでも治療する価値は十分あると思います。それは、症状の進んだ「進展型」の患者さんにも、間違いなくいえることです。たとえがんを完治させることができなくても、患者さんにとって意味のある時間を、確実に延ばすことができます。

医師と相談し、副作用を抑えながら、ぜひガッチリ治療を受けていただきたい――というのが、私たち医療関係者の願いです。

患者さんには希望をもって、私たち医療関係者と一緒に、治療に専念していただきたい、と思います。


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