局所進行がん治療だけでなく、早期がんでも手術に匹敵する治療成績 進行度別に見る「肺がんの放射線治療」
局所進行がんに対して抗がん剤治療と併用する
局所進行がん(3期)に対しては、放射線治療と化学療法を併用する化学放射線治療が標準治療となっている。放射線の照射方法は前後対向2門照射など通常の方法で、合計60グレイを照射する。
「局所進行がんには、領域ごとの治療が必要になります。広い範囲に放射線をかけるので、体が耐えられる範囲でがんに十分なダメージを与えるためには、放射線の治療効果をより高める対策が必要となります。そのために抗がん剤が使われるのです」
早川さんによれば、多くの抗がん剤は、がん細胞の放射線に対する感受性を高める増感作用を持っているという。それを利用して、放射線の効果を最大限に引き出すのである。
また、局所進行がんの場合、潜在的な遠隔転移の問題がある。画像検査などで遠隔転移が見つかっていないから3期なのだが、肉眼では見えない小さながんが転移している可能性は否定できない。それに対しては、全身に作用する抗がん剤が効果を発揮する。
キードラッグとして使われるのはシスプラチン(一般名ランダもしくはブリプラチン)。抗がん剤によっては、正常組織に対する放射線の作用を高めてしまうが、シスプラチンはがん細胞に対する増感作用を持っている。腎臓に対する負担が大きい薬なので、腎機能に問題がある患者には、パラプラチン(一般名カルボプラチン)が使われるという。
「現在では、放射線と抗がん剤は同時併用しています。1990年代までは、抗がん剤治療を1~2回やって、それから放射線治療を開始する順次併用が標準治療でした。その後、同時併用のほうが局所制御率を向上させることがわかってきて、この効果を期待して同時併用が行われているのです」
化学放射線治療と、手術を加えた場合とを比べた国際的な大規模臨床試験が行われているそうだ。化学放射線治療を3分の2まで行ったところで、一方は手術を行い、もう一方は化学放射線治療を続ける。それで治療成績を比較したものだ。
局所再発率に関しては、手術を行ったほうが低かった。しかし、生存期間に関しては、両者に差は認められなかった。化学放射線治療だけの場合、局所再発する人がいても、がんを持ちながら生きている人が多かったということになる。
骨や脳への転移に対して放射線治療を行う
進行肺がん(4期)に対しては、緩和治療や姑息的治療(治癒を目的とせず症状緩和だけを目的と��た治療)として放射線治療が行われている。
代表的なのが、骨転移に対する治療である。骨転移の痛みを抑える重要な役割を果たしている放射線治療だが、ただ痛みを抑えるだけの治療ではない、と早川さんは言う。
「骨にがんが転移すると骨が溶けますが、放射線をしっかり照射すると、それが止まります。つまり、骨転移に対する放射線治療は、痛みを抑えるだけの対症療法ではなく、痛みの原因となっている病巣に対する直接的な治療なのです」
骨への転移は強い痛みを伴うことが多いが、放射線治療を行うことで、職場復帰が可能になるケースもあるという。
肺がんの場合、脳にも転移が起こりやすい。脳転移が多いのは、抗がん剤が脳に入りにくいからだという。脳に流れ込む血液は、血流脳関門を通るときに、薬などが排除されてしまう。脳を守るための大切なシステムなのだが、化学療法を行っているときには、脳に行く血液から抗がん剤が排除されてしまう。そのため、脳はがん細胞にとって絶好の隠れ家になってしまうのである。
脳転移に対しては、転移巣の数が少なければ、ガンマナイフやピンポイント照射による治療が行われる。ガンマナイフは、頭部固定用の専用フレームを取り付け、頭部周囲の多数の発生源からガンマ線を照射して、がんに放射線を収束させる治療法である。
転移巣が多い場合には、まず全脳照射を行い、残ったがんに対して、ガンマナイフやピンポイント照射で治療するという方法も行われている。
小細胞肺がんに対しては予防的全脳照射も行われる
肺がんは、細胞の種類によって、小細胞がんと非小細胞がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなど)に分けることができる。日本人の肺がんでは、小細胞がんが占める割合は約15パーセント程度だ。
小細胞がんは増殖が速く、予後が悪いがんとされてきた。しかし、がんが片側の胸郭に限られる限局型であれば、化学放射線治療が標準治療として行われ、治療効果をあげている。
「限局型の小細胞がんは、ほぼ4人に1人が5年生存できる時代になっています。化学療法との同時併用で放射線を行いますが、小細胞がんは増殖が速いので、朝夕の1日2回照射します。1回照射した後、回復して増殖を始める前に次の照射を行うわけです」
照射する放射線量は、1回が1.5グレイで、1日に3グレイ。3週間で合計45グレイになる。合計照射量は多くないが、間隔を狭めて行うので、強度は高いそうだ。
この化学放射線治療で完全寛解に持ち込めた場合は、予防的全脳照射が行われる。脳には抗がん剤が入りにくいため、たとえ肺のがんを死滅させることができても、すでに脳に入り込んでいるがん細胞が再発してくる可能性が高い。そこで、脳での再発を防ぐために、予防的な放射線治療を行っておくのだ。
「再発する前から放射線をかけることに抵抗を感じる人もいると思いますが、再発を予防する効果は確認されていて、ガイドラインでも推奨されています。1回2.5グレイで10回照射しています」
放射線量に関しては、もう少し増やしたほうがいいのではないかという意見もあり、臨床試験が進められているという。